産業看護職のしくじり先生
– 新人受入編 –

新しく産業看護職になる方や自身のキャリアを考え直すタイミングの方に向けて
「新人看護職のしくじり先生」を「受け入れ側」「新入側」のそれぞれの立場からお話いただきました。
今回は、企業で新人の教育担当者も務めるベテラン看護職から
新人産業看護職を職場に受け入れた際の準備や育成における落とし穴をお話いただきます。
講師紹介
・卯月(仮名):某上場企業の健康管理部門で産業看護職として20年以上勤務するベテラン看護職
※登壇者の役職、所属企業はイベント当時のものとなります(イベント開催:2021/03)

卯月さん
ご紹介ありがとうございます。卯月です。私は某上場企業の健康管理部門で産業保健師として20年勤務しております。去年から2年間かけて産業保健の大学院の受講をする等、どっぷり産業保健に浸っております。
去年か一昨年くらいからTwitterでも発信していて「こいつか!」と思った方も結構いらっしゃるのではと思います(笑)。仕事についてですが、今担当している部署は割と営業職の方が多く、800人くらいの社員を担当しています。主に健康増進や健康教育の企画をしています。3年程前から健康経営も担当させていただいており、色んな施策を考えております。宜しくお願いいたします。
去年か一昨年くらいからTwitterでも発信していて「こいつか!」と思った方も結構いらっしゃるのではと思います(笑)。仕事についてですが、今担当している部署は割と営業職の方が多く、800人くらいの社員を担当しています。主に健康増進や健康教育の企画をしています。3年程前から健康経営も担当させていただいており、色んな施策を考えております。宜しくお願いいたします。

さんぽむら
宜しくお願いします。早速ですが、今の企業に入社されたきっかけを教えてください。

卯月さん
県内の様々な事業所の産業看護職が集まる会がありまして、そこで今の職場の方から「空きが出るけど?」と声をかけていただいたのがきっかけです。ちょうど産業保健活動をしたいなって思っていたこともあり、御縁があり今に至ります。

さんぽむら
そうだったんですね。実際に企業の中で同じ社員として、社員の方に接してみていかがですか?

卯月さん
大企業なだけあって、産業保健活動が充実しています。スタッフも多いですし産業看護に特化して集中して仕事ができるので、元々やりたかったメンタルヘルスや、健康教育の企画も万遍なくやらせていただいてよかったなと思っています。

さんぽむら
なるほど。産業保健に特化してということだったんですけど、具体的にはどのようなことを?

卯月さん
もう20年もやっているので安全衛生もやりましたし、全部やりました。あとはスタッフがたくさんいるので、教育係もやりました。

さんぽむら
そうなんですか!

卯月さん
学生実習も受け入れているのでスタッフと学生の教育係という役割もあって。

さんぽむら
なるほど。プリセプターのようなことをずっとされていたんですね。

卯月さん
そうですね。新しい人が入ってくると「じゃあ面倒は卯月さん見てね」って上司に頼まれてましたね。うちの会社は色んな面で看護職も一般職も同じ扱いなので。新卒教育のプログラムも4月に入職したらまず一般社員と同じように新人研修に行って、基本的なビジネスマナー等を受けていました。
産業看護職がつまずきがちな◯◯・・・

さんぽむら
卯月さんの視点で、ビジネスマナーを含めて、産業看護職の方がつまずきがちな点はありますか?

卯月さん
新人はきっちり研修をうけてくるのですが、むしろキャリアで入ってきた産業看護職の方が「基本的なビジネスマナー」「電話対応」「名刺交換」「会社組織への理解」といったものが弱いですね。メールの文章等を見ても「このまま出すのはちょっと…」って修正することもあります。キャリア入社された方はビジネスマナーもしばらくフォローが必要になります。

さんぽむら
「会社組織への理解」とは具体的にはどういったところでしょうか。

卯月さん
大抵の産業看護職は元々病院経験者の方が多いですよね。臨床からやってこられると、病院の組織って病棟があって師長さんがいるくらいで完結しています。もちろん多職種とやりとりはありますけど、それって会社組織とはまた違うんですよね。
産業保健の仕事って組織間で色々調整する事項が発生します。役職も会社によってはたくさんありますし「ライン」っていう考え方も最初はぼんやりしかイメージがつかない方もいるし、それも無理ないなと思います。色んな業務をしながら会社のヒエラルキーや、こういうかたちで情報がおりてくるといった組織の構造の理解を深めていただくように働きかけています。
産業保健の仕事って組織間で色々調整する事項が発生します。役職も会社によってはたくさんありますし「ライン」っていう考え方も最初はぼんやりしかイメージがつかない方もいるし、それも無理ないなと思います。色んな業務をしながら会社のヒエラルキーや、こういうかたちで情報がおりてくるといった組織の構造の理解を深めていただくように働きかけています。

さんぽむら
なるほど。

卯月さん
なにかやろうと思った時に誰に相談するとか、メールのCCに誰をいれてとか…

さんぽむら
なるほど、ちなみにどのように教育されているのでしょうか?

卯月さん
しばらくの間は私が対応するのを「~だからこの人に連絡するんだよ」「この人に伝えなきゃだめだよ」ってケース毎に伝えてます。

さんぽむら
そうなんですね。新人看護職の方を指導するにあたって、気を付けていることはありますか?

卯月さん
マインドのチェンジがスムーズに出来るかというところです。

さんぽむら
マインドですか。

卯月さん
臨床は大抵、みんな新卒で入ってきてスタートラインがほぼ揃っているんですけど、産業看護って色んな経験値を積んでいらっしゃる方が多いんですよ。例えばプリセプターになったとき、自分より年上の方が入ってくるということもありえるんですよね。「産業は初めてだけど、臨床は10年くらいやってました」という方もいます。
ただ、臨床の時のままのマインドで産業保健ができるかっていうと、必ずしもそうとは限らないです。組織の理解とか、「目の前にいる人は患者さんじゃないんだ」っていうマインドのチェンジが出来るかどうか。自分がこれから関わる対象の方に対してどのようにわかってもらえるか、意識してもらえるか。働きかけ方等を説明しながら理解してもらいます。
ただ、臨床の時のままのマインドで産業保健ができるかっていうと、必ずしもそうとは限らないです。組織の理解とか、「目の前にいる人は患者さんじゃないんだ」っていうマインドのチェンジが出来るかどうか。自分がこれから関わる対象の方に対してどのようにわかってもらえるか、意識してもらえるか。働きかけ方等を説明しながら理解してもらいます。

さんぽむら
なるほど。実務に当たってもらって、その人が困ったり立ち止まったりした時に背中を押したり「臨床とは違うんだよ」ってささやく感じですね。

卯月さん
そうですね、ささやく感じです(笑) 。保健指導などで割と多いのは、退院時指導みたいな感じで用意したリーフレットを説明して終わり。型にはまった説明をする=保健指導になっている場合が多いんですよね。だけど「そうじゃないよ」っていう話をします。
相手の生活や健康に対する意識等を聞いたうえで、その人のオーダーメイドの保健指導をしないと伝わらないです。無駄な時間だったなと思って帰られてしまっては残念なので「またこの人の話を聞いてみたいな」って思ってもらう必要があることを伝えたり。一つ一つ業務を通して「臨床の対象の方とは違うんだよ」っ伝えていきます。
相手の生活や健康に対する意識等を聞いたうえで、その人のオーダーメイドの保健指導をしないと伝わらないです。無駄な時間だったなと思って帰られてしまっては残念なので「またこの人の話を聞いてみたいな」って思ってもらう必要があることを伝えたり。一つ一つ業務を通して「臨床の対象の方とは違うんだよ」っ伝えていきます。

さんぽむら
なるほど。その知見を得られるまでにお時間もかかったのではないかと思うんですけども。

卯月さん
20年かかりました(笑)。
育成側としてのしくじり経験…

さんぽむら
20年の間に今思うと「しくじったな…」っていう経験はありましたか?

卯月さん
私も最初からマインドチェンジが大切なことだと理解していたわけではなかったので…。産業保健はマインドセットが必要なんだっていうのを私自身が理解していなかったから「そうじゃないでしょ」という言い方しかできなくて、そこらへんは今日でいうしくじりポイントですね。
後は「もう大丈夫かな、出来ていそうかな」と思って距離を離したら、難しいケースを抱え込んでこじれていて事態を収拾するのが大変だったことはありましたね。
後は「もう大丈夫かな、出来ていそうかな」と思って距離を離したら、難しいケースを抱え込んでこじれていて事態を収拾するのが大変だったことはありましたね。

さんぽむら
「どこまで任せて、どこからサポートするか」って迷われるところだと思うんですけど、明確な基準は持たれていますか?

卯月さん
その人の仕事を見ながら「この仕事は大丈夫そうだな」とか感覚の話になってしまうんですけど。「この業務に関してはできそうだな」って思ったら離れるし、またサポートが必要になったと思った戻ります。

さんぽむら
私も後輩をサポートする機会があるんですけど「これができるようになったらレベル1で…」のようにしてお願いするようにしていますね。卯月さんもそんな感じですか?

卯月さん
そうですね。うちは所帯も大きいので横軸が5管理、縦軸は3か月ごとに育成計画を作っています。3か月ごとにプリセプターと出来たことや課題点、今後の目標設定を行います。

さんぽむら
教育のプログラムが出来ているのは良いことですね。

卯月さん
Twitterを見ていると一人職場の方は出来ていないこと、わからなかったことを目の前に並べて焦っている姿をよく見かけます。
なので自分自身で目標設定をするのもいいと思います。経験したこと、出来たこと等を少しづつ積み重ねていくと確認出来て良いのかなと思います。「次の3か月でこういうことやってみよう!」とか表をつくるとわかりやすいと思います。「出来たこと」を積み重ねて可視化すると自信に繋がり、また頑張ろうってなるのではないでしょうか。
なので自分自身で目標設定をするのもいいと思います。経験したこと、出来たこと等を少しづつ積み重ねていくと確認出来て良いのかなと思います。「次の3か月でこういうことやってみよう!」とか表をつくるとわかりやすいと思います。「出来たこと」を積み重ねて可視化すると自信に繋がり、また頑張ろうってなるのではないでしょうか。

さんぽむら
育成側も「ここまで出来るようになった」って判断しやすそうですね。

卯月さん
そうですね、一つそういう表があれば、こちらも把握しやすいです。「コロナ渦が落ち着いて職場巡視等がまだ再開したら優先して声かけて経験させてあげよう!」という風に調整も出来ます。
去年の5月くらいにTwitterで声をかけて先輩産業保健師の方たちとZOOMで話したのですが、みなさん後輩育成に課題を持たれていました。「バックグラウンドが違うのでどのような指導が正解なのか…」って悩まれたり。「臨床みたいにラダーがないから目標設定に困っている…」と悩まれたり。
去年の5月くらいにTwitterで声をかけて先輩産業保健師の方たちとZOOMで話したのですが、みなさん後輩育成に課題を持たれていました。「バックグラウンドが違うのでどのような指導が正解なのか…」って悩まれたり。「臨床みたいにラダーがないから目標設定に困っている…」と悩まれたり。

さんぽむら
その時はどのようにアドバイスされましたか?

卯月さん
日本産業保健師会という団体が作っているキャリアラダーを紹介しました。そのキャリアラダーをベースにオリジナルで作ることを推奨しました。
これから後輩指導を始めるために大切なこと

さんぽむら
方面を変えて質問しますが「これから後輩指導をはじめてみよう!」となった際のアドバイスはありますか?

卯月さん
仕事をしながら、教える側もきちんと背景を伝えられるといいなと思います。やり方だけを教えてしまうとこなし業務になってしまうので。「◯◯はこういう目的でやっているんだよ」とか仕事の背景を伝えていくと、組織の把握にも繋がります。

さんぽむら
忙しい中で「これをやっておいてください」って流すように言ってしまうこともあるかと思うんですが。

卯月さん
丁寧に伝えるのは時間があるときで大丈夫かと思います。ただ、仕事の背景をきちんとお伝えしたほうが後々、楽ですよ。

さんぽむら
なるほど。逆に新人側も上司に「仕事の背景を教えてください」とか、「時間ある時に教えてください」って言うと理解が深まるかもしれないですね。

卯月さん
そうですね、特に法律で決まっているところも割とあるので積極的に理解しようとすると良いでしょうね。

さんぽむら
産業保健は勉強する範囲が多いですし大変だろうなって思います。新入でもプロフェッショナルでなければならないから、焦りとか不安を抱えやすいのでしょうね。

卯月さん
20年かかっても「極めた!」なんていう気持ちが全然、ないです(笑)。気長に1つずつ出来たことを、後進に数えていくと良いと思います。

さんぽむら
本日はありがとうございました。