健康指標として見るワーク・エンゲイジメントとは?生産性・採用力強化のために

社員の生産性を上げたい、従業員満足度を高めて定着率を上げたい、など、人材マネジメントに悩んでいる方、多いのではないでしょうか。
そんな悩みを解決する新しい概念が、ワーク・エンゲイジメントです。
ワーク・エンゲイジメントは、「社員がいきいき働いている状態」を見える化する指標です。健康状態に左右されやすく、ワーク・エンゲイジメントが満たされない状態が続くと、生産性やサービス品質が低下するケースは珍しくなく、放っておくと企業全体の問題に発展する可能性もあります。
ワーク・エンゲイジメントを見える化できると、社員の心理状態や健康状態の変化に気づきやすくなり、生産性の向上を期待できます。ワーク・エンゲイジメントを満たした状態を保つことができれば、いきいきと仕事を行なう社内風土の醸成にも力を入れられるでしょう。
そこで今回は、健康経営に取り組む企業が注目するワーク・エンゲイジメントについてメリットと見える化する方法を紹介します。人材マネジメントに悩む人事の方はぜひ参考にしてください。
ワーク・エンゲイジメントとは
ワーク・エンゲイジメントとは簡単に言うと、仕事に熱中して前向きに働いている状態のことです。
社員に「活力」があり、「熱意」を持って仕事に「没頭」できている状態は「ワーク・エンゲイジメントが高い」と言え、どれかひとつでも欠けているとワーク・エンゲイジメントが満たされていない状態となります。
活力:仕事から活力を得ていきいきとしている状態
熱意:仕事に誇りとやりがいを感じている状態
没頭:仕事に熱心に取り組んでいる状態
では、従業員のワーク・エンゲイジメントを高めていくと、企業にどのようなメリットがあるのでしょうか。
ワーク・エンゲイジメントを高めると何が良いのか
ワーク・エンゲイジメントを高めることで得られるメリットを「企業全体」「社員」「経営面」の3点から見ていきましょう。
ワーク・エンゲイジメントが企業にもたらすメリット
健康経営に取り組む企業がワーク・エンゲイジメントに注目する理由は、ワーク・エンゲイジメントを高めることで、社員自身と経営にもメリットが生まれるからです。

健康診断の有初見率が50%を超えているなど、過半数の社員がデフォルトでなんらかの健康リスクを抱えると言われている昨今。健康リスクを抱えた社員は、生産性が低かったり、衛生要因が下がったりすることから離職意向が高まる傾向にあります。
社員のワーク・エンゲイジメントを高めて生産性を向上できれば、離職防止やサービス品質の向上など、企業における多くのメリットを期待できます。
社員の健康へのメリット
ワーク・エンゲイジメントを満たすには、社員の心と身体を健康的に保つことから始める必要があります。ワーク・エンゲイジメントを満たすことを目的に社員の健康管理を行なうと、社員に以下のようなメリットがあります。
- ストレスが低い(心理的ストレス反応)
- 抑うつ感が低い
- 睡眠の質が良い
- ウェルビーイングが高い(生活満足度、従業員満足度)
- 自律心臓活動が健康的
- ストレスホルモンが適切に制御される(コルチゾール)
※括弧内は産業保健上の指標
経営指標(人件費や労災等)へのメリット
社員がいきいき働くことで、経営面にもメリットが生まれます。社員のワーク・エンゲイジメントが高いと、経営面に以下のようなメリットがあります。
- 仕事のパフォーマンスが高くなる
- より良い人間関係を築けるようになる
- 病気が原因で長期休業になるリスクが低くなる
- 離職意思が低くなる
- イノベーティブかつクリエイティブな経営ができるようになる
- サービスの質が高くなる
- ミスが少なくなる
「社員がいきいき働く職場にしたい」という企業はもちろん、
- 人件費を抑えたい
- 生産性を上げたい
- 仕事に積極的に取り組んでもらいたい
上記のような課題を持つ企業も、社内のワーク・エンゲイジメント向上に取り組むメリットがあります。
ワーク・エンゲイジメントを高めるには
ワーク・エンゲイジメントを高める要因(規定要因)は、「組織/仕事の資源」と「個人の資源」の2つです。

ひとつめの組織/仕事の資源とは、社員に影響を与える周囲の環境のことです。
社員の仕事環境や労働条件を見直し、社員が仕事上で抱えるストレスを軽減することで、社員一人ひとりの目標達成や自己成長を促す効果があります。例えば、社員のパフォーマンスに対する上司からのフィードバックや、仕事における社員自身の裁量権、報酬や承認などが組織/仕事の資源にあたります。
ふたつめの個人の資源とは、社員自身が行う評価のことです。具体的には、「周囲の環境をコントロールする能力や精神力があるか」という自己評価を指します。
自己評価を高めるには、「自分はこれができる」という自己効力感を高めたり、自尊心や楽観性、積極的に物事を対処する姿勢などを身につけたりすることが大切です。
会社の組織/仕事の資源や、従業員の個人の資源を高めることで、ワーク・エンゲイジメントは高くなっていきます。それでは具体的に企業として取り組める方法をご紹介していきます。
企業が実践できる取り組み
ワーク・エンゲイジメントを向上させるためには「組織/仕事の資源」と「個人の資源」を高めることを目指します。
企業が実践できる具体的な方法として「職場環境改善」「ジョブ・クラフティング」「AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)」の3つの方法をご紹介します。
職場環境改善
年に1回の実施が義務付けられているストレスチェックでは、高ストレス者対応とともに集団分析による職場環境改善が推奨されています。この職場環境改善こそがワーク・エンゲイジメントを向上させられる大きなチャンスなのです。
職場環境改善について詳しくはこちらを参考にしてください。
職場環境改善ツール|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト(厚生労働省)
ストレスチェックでは、「組織/仕事の資源」を測ることができます。後述する『ワーク・エンゲイジメントの尺度』で効果を測りながら、「組織/仕事の資源」を高める職場環境改善を進めていきましょう。
ジョブ・クラフティング
仕事の取り組み方や捉え方を工夫することで、ワーク・エンゲイジメントを向上させる方法です。研修プログラムがあり、多くの企業で導入されはじめています。実施マニュアルはこちらをご覧ください。
ジョブ・クラフティング研修プログラム(pdf)|厚生労働省
AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)
組織の優れたポイントに注目した従業員同士の対話によって、組織の良い部分を伸ばしていこうとする取り組みです。AIの概要はこちらを参考にしてください。
Appreciative Inquiryの展開と可能性(pdf)
ワーク・エンゲイジメントを測る尺度
自社のワーク・エンゲイジメントはどの程度なのか、全国平均と比較して高いのかを調べるには、社員にワーク・エンゲイジメントのアンケート紙を配り、答えてもらう方法があります。
代表的なアンケートのフォーマットは以下の2種類です。自社の社員がどれだけいきいき働いているのかを把握したり、取り組みの効果を検証したりするために、使いやすいものを選んでみてください。
(ワーク・エンゲイジメントの全国平均はこちらを参照)
ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)
ワーク・エンゲイジメントの3要素である、活力・熱意・没頭を直接計測できる方法がこれ、ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale)です。
日本語版は、3項目、9項目、17項目の3種類があり、個人ごとに全項目の平均値を出し、ワーク・エンゲイジメントの点数とすることが多いです。
ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度のフォーマットは、慶応義塾大学島津研究室のウェブサイト(こちら)からダウンロードできます。
新職業性ストレス簡易調査票(新BJSQ)
1年に1度実施が義務付けられているストレスチェックで広く使われている職業性ストレス簡易調査票(BJSQ)の、最新版です。
ワーク・エンゲイジメントに関する質問が2項目あり、その平均値がワーク・エンゲイジメントの点数になります。
従来のストレスチェックと同様の実施方法で行えるので、担当者の手間を増やすことなく、先ほどのUWESよりも手軽に実施できるでしょう。現行のストレスチェックに、ワーク・エンゲイジメントの2項目だけを追加する方法もおすすめです。
新職業性ストレス簡易調査票のフォーマットは、東京大学大学院精神保健学分野のウェブサイト(こちら)からダウンロードできます。
ワーク・エンゲイジメントの向上に向けた取り組みやアンケートの実施は、取り組みやすい方法から順番に試すことをおすすめします。企業で活躍している産業医の中にはワーク・エンゲイジメントの計測に精通している人もいるため、どの方法を選べば良いか、専門家に聞いてみるのも一つの方法です。
ワーク・エンゲイジメントと他の概念の関係性
ワーク・エンゲイジメントは、従業員が健康的で生産性高く働ける状態かどうかを見える化できる指標です。実はワーク・エンゲイジメント以外にも、従業員の働く姿勢を表す概念があります。
社員の4種類の働く姿勢との関係性
仕事に取り組む姿勢は、どれだけ快く取り組んでいるか、どれだけ活発的に活動しているかによって、「ワーク・エンゲイジメント」「ワーカホリズム」「燃え尽き症候群」「リラックス」の4つに分類されます。
ここからは、ワーク・エンゲイジメントと関係の深い、社員の働く状態を表す概念をご紹介します。
ワーカホリズム
「仕事から離れた時の罪悪感や不安を回避するために仕事をせざるをえない」状況を指します。ワーク・エンゲイジメントが「I want to work」という姿勢なのに対して、ワーカホリズムは「I have to work」という否定的なモチベーションで仕事をしています。
燃え尽き症候群(バーンアウト)
ワーク・エンゲイジメントと正反対の概念です。一生懸命仕事を頑張りすぎて、こころと身体が疲れてしまった状態です。従業員の健康に悪影響が出やすく、離職意思も高まるため、企業側は従業員が燃え尽き症候群にならないように注意する必要があります。
リラックス
職務満足感が高く、リラックスして仕事をしている状態です。社員への負荷が少ない一方で、活動水準が低くなる傾向があります。

ワーク・エンゲイジメント向上の取り組みを実施する際は、自社の社員がどのゾーンに多く含まれるのかを知ることから始めましょう。
ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムを見分ける必要性
ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムは、どちらも「仕事に熱中している状態」です。活動水準が高いこれらの状態は、企業にとって良いことのように見えます。
しかし、社員の働く姿勢がワーク・エンゲイジメントもしくはワーカホリズムなのかにより、健康状態に大きな違いが出てきます。
ワーカホリズムな社員の2年後の状態を追いかけた調査によると、結果として不健康になり、生活満足感や仕事のパフォーマンスが低くなることが分かっています。一方で、ワーク・エンゲイジメントな社員は、2年後に健康度や生活満足感、仕事のパフォーマンスが高くなります。

ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムを見分けるには、仕事に対する態度や認知がポジティブであるかどうかを比較しましょう。
やりがいを感じながら楽しんで仕事ができている状態ならばワーク・エンゲイジメント、「働かないといけない」という緊迫感で働いている状態ならばワーカホリズムと判断できます。
管理者や人事担当者は、社員の活動水準のみでなく、いきいきと前向きに働いているのか、それともムリして我慢しながら働いているのかという見方で現状を把握することが大切です。
ワーク・エンゲイジメント活用時の注意点
企業のワーク・エンゲイジメント向上を目指す際は、間違ったアプローチをしないように注意してください。ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムを見分けること以外に注意するべき2つの要素をご紹介します。
ネガティブな意見に耳を傾ける
社員が持つ不満など、ネガティブな意見にも耳を傾けられるようにしましょう。
社員がポジティブに働ける環境を整備するには、ストレスの原因となっている不満要素を正しく理解したうえで解消していくことが大切です。ネガティブな意見を排除しようとせず、ワーク・エンゲイジメント向上にどのように活用できるか考えてみましょう。
社員の個性を尊重したアプローチを行なう
ワーク・エンゲイジメントは社員自身の考え(精神的要素)に深く関係しています。
社員の個性を無視したアプローチはストレスを与えてしまう可能性があることを知っておきましょう。
仕事の決定権を委ねて自由度を高めることで意欲が増すタイプなのか、丁寧な指導で成長を促すことにより意欲が増すタイプなのかなど、社員の個性に合わせたアプローチを行なうことが大切です。
まとめ
社員のワーク・エンゲイジメントを高められると、生産性や従業員満足度の向上を期待でき、人材マネジメントの強化に繋がります。
ワーク・エンゲイジメントは「社員が健康であること」を前提に、職場環境や労働観環境を見直すことで向上させていくことが可能です。ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムを見分けて社内のワーク・エンゲイジメントを見える化できると、社員の健康管理や課題解決にも役立てられます。
人材マネジメントを行なう管理者や人事担当者は、社員の個性に合わせたアプローチを実施し、一人ひとりのワーク・エンゲイジメントを高められるよう工夫していきましょう。
参考文献・資料
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[5]Shimazu, A., Schaufeli, W.B., Kamiyama, K. et al. Workaholism vs. Work Engagement: the Two Different Predictors of Future Well-being and Performance. Int.J. Behav. Med. 22, 18–23 (2015). https://doi.org/10.1007/s12529-014-9410-x