ストレスチェックで組織改善
2022年12月16日 更新 / 2019年9月18日 公開

メンタルヘルス対策に有効な研修の活用方法をわかりやすく解説

メンタルヘルス対策に有効な研修の活用方法をわかりやすく解説

テレワークや社会環境の大きな変化で、メンタルヘルス不調による休職や退職が増え、組織の生産性が低下し、従業員のメンタルヘルス対策が喫緊の課題となっている企業が増えてきています。
今、企業に求められているメンタルヘルス対策と、有効な研修の活用方法をわかりやすく解説します。

企業のメンタルヘルス対策のはじまり

企業のメンタルヘルス対策のはじまりは、1984年に初めて「新幹線上野地下駅の設計技師の反応性うつ病と自殺未遂」で精神障害の労災認定がされたことです。それまでは業務が原因で精神疾患になることをあまり考えられていませんでしたが、この労災認定をきっかけに企業は従業員のメンタルヘルスにも責任があるとする考え方が生まれてきました。従業員向けのメンタルヘルス研修もこの時期から広まり始めています。
2000年には「電通事件」の最高裁判決で業務と自殺の因果関係が初めて認められて、安全配慮義務」はメンタルヘルスにも適用されることが社会的にも明確に認知されました。

労働安全衛生法第69条で、「事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない。」と規定されており、メンタルヘルスケアについては「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に具体的にまとめられています。

第13次労働災害防止計画でも2022年度までに、以下の3つを目標に企業のメンタルヘルス対策を推進すると決められています。

仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上(71.2%:2016 年)とする。

メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上(56.6%:2016年)とする。

ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上(37.1%:2016 年)とする。

第13次労働災害防止計画 平成30年2月|厚生労働省

企業に求められるメンタルヘルス対策

企業のメンタルヘルス対策の目的は、

  • 労働安全衛生法を中心とした法令遵守
  • 安全配慮義務や各種指針への対応
  • 企業価値の向上(採用力向上、生産性向上、休職・離職予防など)

の3つに位置付けられます。
労務問題の予防という観点のみならず、企業の競争力を獲得するためにもメンタルヘルス対策の重要性は増してきています。

具体的なメンタルヘルス対策については、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にて下記の図のように、

  • セルフケア(労働者によるケア)
  • ラインケア(管理監督者によるケア)
  • 事業場内の産業保健スタッフ等によるケア
  • 事業場外資源によるケア
労働者の心の健康の保持増進のための指針」より引用

「セルフケア」「ラインケア」「事業場内の産業保健などのスタッフによるケア」「事業場外資源によるケア」について、それぞれどのような対策が必要なのかご紹介します。

セルフケア(労働者によるケア)

セルフケアとは、従業員自身によるケアのことです。
具体的には、以下のようなことを従業員向けのメンタルヘルス研修や会議等で情報提供していきます。

  • ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
  • ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
  • ストレスへの対処方法

厚生労働省の令和2年の労働安全衛生調査(実態調査)によると、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は54.2%です。多くの従業員が強いストレスを感じているため、ストレスの理解や対処方法の知識の教育が重要なことが伺えます。

職場におけるメンタルヘルス対策の状況」より引用

ラインケア(管理監督者によるケア)

ラインケアとは、職場で接する機会の多い直属の上司、課長、部長など管理監督者によるケアのことです。部下の業務やチームの特性を理解した上で、「いつもと違う」様子に気づき声かけをしたり、人事との面談、産業保健スタッフとの面談に繋げたりします。

また、メンタルヘルス不調で休職した従業員の職場復帰支援もラインケアの1つです。

事業場内の産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等とは、産業医、保健師、衛生管理者、人事労務担当などのことです。メンタルヘルス対策の企画立案、個人の健康情報の取扱い、社内外との連携窓口など、職場におけるメンタルヘルス対策の中心的な役割を担います。

事業場外資源によるケア

事業場外資源によるケアとは、外部のメンタルヘルス関連サービスや医療機関などによるケアです。例えば、メンタルヘルスに関するオンラインの相談窓口などがあります。
社内の産業保健スタッフには相談しにくいことも、外部機関であれば相談しやすいことがメリットです。

小規模事業者で事業場外資源によるケアに予算を使うことが難しい場合については、産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)を活用することが推奨されています。

メンタルヘルス研修の事例

企業のメンタルヘルスケアとして実施される施策には下記のようなものがあります。
一般従業員や管理職に向けた研修は、ストレスについての理解を深め、早期予防やストレス反応の軽減が期待できます。

研修は他の施策と比較して、

  • 外部講師などに依頼すればすぐに実施できる
  • 自ら相談窓口を使ってくれない従業員にもケアを届けることができる
  • 従業員同士がストレスについて話し合うきっかけを生みやすい
  • 職場全体のメンタルヘルスに対する意識と理解の向上に繋がる

というメリットがあります。

施策対象者主な効果
一般従業員向け教育一般従業員ストレス反応の軽減
管理職向け教育管理職・経営者ストレス反応の軽減
職場環境の改善特定の事業所・部署ストレス要因の改善
ストレスチェック全従業員高ストレス者のスクリーニング
相談窓口・EAP積極的な相談者生産性の低下の抑制
復職支援休職者再発防止
『エビデンスに基づいた職場のメンタルヘルス活動』を参考にiCAREによる編集

セルフケア研修

従業員全員に向けたセルフケア研修では、ストレスの基礎知識や、社内外の相談窓口の周知をすることが多いです。
東京大学が運営している「うぇるびの森」など、LINEでメンタルヘルスのセルフケアに関する記事が届くサービスなども提供されています。

2015年からは「ストレスチェック制度」も施行され、50名以上の事業場でストレスチェックが義務付けられてます。
ストレスチェックに回答することは、自身のストレスに気づき、改善するきっかけになるという意味ではセルフケアの1つです。
ストレスチェックを実施する際は、従業員に対して「セルフケアにもつながる」という声かけを丁寧にすることで受検率を高めることがおすすめです。

ラインケア研修

管理監督者に向けたラインケア研修では、部下の「いつもと違う様子」に気づくためのサインや、実際に部下の不調に気づいた時の声かけ方法をロールプレイング、相談窓口への繋ぎ方、有効な1on1の実施方法などを教育します。

「こころの耳」で「15分でわかるラインによるケア」というeラーニングの動画が公開されており参考になります。

15分でわかるラインによるケア」より引用

あわせてこちらの記事も参照ください。

他にも、ストレスチェックの集団分析結果の見方と自分のチームの職場環境改善への活かし方を研修で扱うのもおすすめです。
詳しくは以下の朝日航洋株式会社での事例を参考にしてください。

取り組みはじめて2年で「ホワイト500」を取得。健康経営のカギは管理職の巻き込みにあり。

ハラスメント研修

2019年の労働施策総合推進法改正で職場におけるパワーハラスメントの防止措置が義務が規定され、2022年4月から全企業で適用開始されたため、多くの企業で部下を持つ従業員がハラスメントをしないようにすることと、従業員がハラスメントを受けた際に適切な対応をとれるようにすることを目的に、ハラスメント研修が実施されています。

パワーハラスメント以外にも職場におけるハラスメントには、

  • パワーハラスメント
  • セクシュアルハラスメント
  • 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
  • カスタマーハラスメント

などがあります。
2020年の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがある従業員は31.4%でした。

研修内容には、社内外のハラスメント相談窓口や、会社としてのハラスメント対策方針を周知した上で、ハラスメントの定義や具体例、実際にハラスメントに直面した時の対応方法などが組み込まれることが多いです。

まずは管理職向けラインケア研修がおすすめ

メンタルヘルス研修には、「セルフケア研修」「ラインケア研修」「ハラスメント研修」などいくつか種類がありますが、まずは管理監督者に向けた「ラインケア研修」に注力することがおすすめです。
なぜかというと、職場におけるストレスは業務と切っても切り離せない関係にあるためです。NIOSHの職業性ストレスモデルでは、「仕事のストレス要因」に対して「個人の資質」「プライベートの要因」「ストレスの緩衝要因」が相互に影響しあって「ストレス反応」や「疾病」に繋がるとされています。会社としてコントロールできるのは、主に「仕事のストレス要因」の部分です。

そして、仕事のストレス要因である仕事の量的負担や質的負担、職場での人間関係、仕事のコントロール度、働きがいなどの問題を細やかに解決できるのは、人事労務や産業保健スタッフよりも直属の上司です。

また、いくら従業員向けにストレスやハラスメントについての教育をしても、長時間労働をしなければならない業務量を抱えていたり、直属の上司がパワーハラスメントをしていたり、メンタル不調のサインが出ていても助けてもらえない環境にいては、メンタル不調の早期発見や休職・退職の予防は難しいです。
まずは「ラインケア研修」で管理監督者にメンタルヘルスの基礎知識や従業員への適切な接し方を学んでもらうことから実践してみましょう。

従業員の上司にあたる管理監督者は組織の中でも影響力が強く、上司が正しい知識を身につけメンタルヘルスに関する適切な対応をすることが、組織全体の規範を作ることに繋がります。

注意点として、ラインケアを徹底すると、最初は一時的に産業医面談の実施数や休職者数が増加する傾向にあります。しかしそれは今まで見逃されていた早期の予防的対処ができるようになった影響です。中長期的には、メンタルヘルス不調の重症化を予防し、休職後の復職率が向上したり、休職者、離職者も減少していく傾向にあります。

ラインケア研修の効果を高める実施方法

管理監督者に向けたラインケア研修を有効活用するためのポイントは以下の3つです。

  • 適切な対象者を選定する
  • 対象部署の勤怠や集団分析結果を事前に準備しておく
  • 管理職向け相談窓口の設置して相談しやすい体制を作る

【1】研修対象者の選定

まずは研修を受ける対象者を選定していきます。
従業員数が少ない場合には、部下を持つ全ての従業員を対象にすることもあります。
大きな組織の場合、課題に応じて対象者を選定して、目的、実施時期、研修内容を計画します。

  • 初めて部下を持つリーダー向けの研修
  • マネージャー以上に向けた研修
  • 男性管理職に向けた研修

など、目的と対象が明確だと、当事者意識を持って参加してもらいやすいです。
人事労務と産業保健スタッフで連携して、ストレスチェックの集団分析結果や勤怠データを読み解いた上で、優先度の高い職位や部署を選んで対象者を絞ることもおすすめです。

研修の実施者は、事業場で選任している産業医や、保健師、社労士などに依頼するか、人事労務担当から実施することが多いです。

【2】対象部署の勤怠や集団分析結果の準備

次に、研修対象者の管理監督者が、自分が管理しているチームの状態を理解できるように勤怠やストレスチェックの集団分析結果を準備して、部署ごとに共有できるようにします。

「メンタルヘルス不調に気をつけよう」「メンタルヘルス対策をしよう」と言われても、抽象的で、危機感も持ちにくく、自分にできることがイメージしにくいです。
自分が責任を持っているチームについて、勤怠のデータから残業が他部門と比べてどれくらい多いのかがわかったり、集団分析によって自分の部門では職場の人間関係のストレスが大きいなど具体的課題を理解した上で、ラインケア研修に臨んでもらえるようにしましょう。

【3】管理職向け相談窓口の設置

研修をすると、「あの部下はメンタル不調のサインを出していたかもしれない」と管理監督者が考えるきっかけになります。
その際に、安心して相談できるよう管理職向けにも相談窓口を設置することがおすすめです。人事評価を気にして、自分の部下のメンタルヘルス不調について相談できない方もいるので、早期に積極的に相談することを推奨していきます。

また、部下のメンタルヘルス不調について考え、対応することは、管理監督者自身にとっても心理的な負担がかかります。管理監督者自身のメンタルヘルスケアにも配慮しましょう。

メンタルヘルスの研修はオンラインでも有効か?

オンラインだと研修をしてもあまり効果がないのではないかと考える方もいますが、メンタルヘルスに関する研修はオンラインでも一定の効果が認められています。
例えば、株式会社ジャパンイーエーピーシステムズの調査ではオンラインでのリワークプログラムで就業継続率が86.8%と、対面での89.3%と比べて遜色ない効果があったと報告されています。

参照:オンラインによるリワークプログラムを開発。調査の結果、就業継続率は86.8%と高率。~遠隔地や在宅勤務に対応したリワークプログラムの開発および効果の検証~

研修を対面で実施する場合と、オンラインで実施する場合のそれぞれのメリットは以下の通りです。

対面で実施するメリットオンラインで実施するメリット
・参加者が集中して受講しやすい

・参加者同士の雑談や相談が生まれやすい

・スマホやPCでの作業に慣れていない社員も参加しやすい
・交通費や会議室代、移動時間などのコストを安くできる

・アーカイブ配信で動画を後から見直すことができる

・チャットやブレイクアウトルーム機能を使って双方向のコミュニケーションを生みやすい

オンラインで研修をする場合は、集中しやすい工夫、参加者同士のコミュニケーションが生まれやすい工夫、年配の社員などビデオ通話に不慣れな社員への配慮を心掛けて実施しましょう。

メンタルヘルス研修にかかる費用

メンタルヘルス研修にかかる費用は、誰が実施するかによって異なります。

  • 人事労務担当
  • 外部の研修講師(産業医、保健師、社労士、公認心理師など)
  • 自社で選任している産業医

のいずれかになることが多いです。
それぞれどの程度の予算が必要になるのかご紹介します。

厚生労働省「職場のメンタルヘルス研修ツール」を使う場合

メンタルヘルス研修は、厚生労働省が無料でツールや資料を公開しています。
人事労務担当や衛生管理者が無料で公開されているeラーニングの動画や資料を使って研修を実施すれば、担当スタッフの人件費以外に追加の費用はかかりません。

職場のメンタルヘルス研修ツール|こころの耳

メンタルヘルス研修サービスを使う場合

メンタルヘルス研修を外部講師に委託する場合は、15万円〜100万円程度の費用がかかります。
短時間のものや、対象従業員が少人数の場合は安価になり、対面開催で大規模なものだと高額になる傾向があります。

自社の産業保健スタッフ等が実施する場合

自社の産業保健スタッフが実施する場合は、報酬を支払って依頼することになります。

選任している産業医に研修内容と予算感を相談してみましょう。
産業医の報酬相場は1時間あたり4〜5万円程度ですが、研修を依頼する場合は別途追加の見積りが必要になることが多いです。外部講師に委託する場合と同様、相場としては15万円程度〜になります。

メンタルヘルス研修に役立つ資料

メンタルヘルス対策について学びたい方は、ぜひ以下の人事・労務向けメンタルヘルス対策ガイドをダウンロードしてみてください。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。