2019年4月に施行された働き方改革関連法。この法整備により、過重労働者への産業医面談についての実施義務が強化されました。今回は会社の規模ごとに過重労働者に対する産業医面談を有効活用するためのポイントを学んでいきます。効率的・効果的な過重労働対策をするには?過重労働面談の対象者が増えることによる問題働き方改革関連法の施行後、残業時間や産業医面談について以前より基準が厳しくなりました。これにより過重労働者への面談件数が増加していませんか?しかしながら、過重労働の産業医面談をうまく活用できているケースは稀です。多忙者がいつも同じ人で、産業医面談がマンネリ化している対象者が多くなり、産業医に支払う報酬が増えてしまっている面談対象者の優先順位をどのように決めればいいかがわからない面談希望者と産業医間の調整や書類の用意などに手間がかかるこのような課題を抱えている人事労務担当者が非常に多いです。鍵になるのは「疲労蓄積度チェックリスト」の活用厚生労働省は、「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト(以下、疲労蓄積度チェックリスト)」というチェックシートを作成し、過重労働面談に活用することを推奨しています。合計20個の質問に回答することで、仕事による疲労の蓄積度合いを、本人の自覚症状と勤務の状況から判定することができます。判定結果は、「低い」「やや高い」「高い」「非常に高い」の4段階です。このチェックリストは、人事労務や産業医が参考材料として使うだけでなく、従業員が産業医面談を希望する意思を示す「申し出」の代わりとしても活用されています。過重労働者への産業医面談を効率的・効果的に実施するには、疲労蓄積度チェックリストを用いた運用体制の構築が必要不可欠です。過重労働面談に関して、【小規模事業場】【中規模事業場】【大企業】にわけて、それぞれにあった疲労蓄積度チェックリストの活用方法や運営体制の例を見ていきましょう。【過重労働面談】小規模事業場での運営体制数十名程度の企業・事業場で、過重労働者が比較的少ない場合は、対象者全員に産業医面談を実施することがおすすめです。複雑なルールを作るのではなく、なるべくシンプルにします。小規模な事業場では、産業保健業務を担当する人事労務は様々な業務を兼務していることが多いでしょう。そのため、少ない手間で運用できる体制にします。【STEP1】まずは勤怠管理の徹底から小規模な事業場の場合、まずは勤怠管理を徹底することから始めます。タイムカード、Excel、Googleスプレッドシート、勤怠管理ソフトなどのツールを用いて、労働者の労働時間を適切に管理します。【STEP2】毎月の過重労働面談実施労働時間の管理ができるようになったら、長時間労働者から順に産業医面談を実施します。毎月実施して、過重労働面談をルーティーン化することが次のステップです。月末に労働時間を集計して、過重労働者を対象に疲労蓄積度チェックリストの回答を勧奨します。疲労蓄積度チェックリストは、従業員からの申し出と面談時の参考材料にすることを兼ねて活用します。参考材料として、健康診断結果やストレスチェックの結果も用意します。その後、面談希望者と産業医の日程調整をして面談を予約します。産業医を選任していない事業場の場合、最初は外部委託で始めます。面談後は、事業者に対する「意見書」と、必要に応じて病院・クリニックへの「紹介状」の作成を産業医に依頼しましょう。【STEP3】産業医の選任次に、産業医の選任を検討します。外部委託だと、毎回別の先生に依頼することになってしまったり、どうしても会社のことや従業員の業務内容を深く理解していない状態でのアドバイスになってしまいがちです。従業員の健康と組織の発展のためにどうするべきかを一緒に考えてもらえる産業医を選任しましょう。【STEP4】ルール作り・判断基準の精査最後に、過重労働についてのルール作りに取り組みます。個々の過重労働面談を何度か経験していく中で、自社にあったルールや体制がどうあるべきかを考えていきます。対象者を選定するための「過重労働の判断基準」や、いつ・誰が・何をするのかを精査して衛生委員会等で審議していきます。【過重労働面談】中規模事業場での運営体制中規模事業場になると、過重労働者の数も増えてきます。そのため、毎月対象者全員に産業医面談を実施することが現実的ではなくなってきます。一般的に過重労働面談は1名あたり15分〜30分ほどです。事前準備を徹底し、必要な資料を揃えていたとしても、面談記録・意見書・紹介状の作成を含めると少なくとも1人15分はかかります。嘱託産業医が月に1度、1時間〜2時間ほど訪問している場合だと、産業医に過重労働面談を依頼できるのは月に2〜3名程度になってしまいます。そのため、「疲労蓄積度チェックリスト」を活用して、疲労蓄積度の高い労働者から優先的に産業医面談を実施する仕組みを運用していきます。例えば、毎月約10名の過重労働面談対象となる労働時間の従業員がいる事業場を想定して考えます。【STEP1】過重労働基準・ルールの決定中規模の事業場では、労働時間の管理はできていても、過重労働の基準が曖昧で運用されていないケースが少なくありません。まずは過重労働の基準と、毎月の対象者に対する対応方法を衛生委員会で審議して決定します。就業規則や社内規程に明文化して、従業員に周知しましょう。【STEP2】過重労働面談対象者のリストアップ月末に従業員の労働時間を集計し、過重労働の基準を超えている対象者をリストアップします。リストアップしたデータは保存場所を決めて蓄積しておきます。勤怠管理システムを導入している場合、勤怠管理システムの機能として管理できることがあります。【STEP3】疲労蓄積度チェックリスト回答の勧奨次に、対象者に疲労蓄積度チェックリストの回答を促します。紙で印刷したチェックリストを従業員に渡して回答してもらう方法や、WordやExcelファイルを埋めてWEB上で提出させる方法があります。従業員に回答してもらったら、結果を集計してまとめます。【STEP4】優先順位の高い人から産業医面談を実施疲労蓄積度の高い人や就業制限をかける可能性がある人から優先順位付けをして産業医面談を実施します。前月、前々月も連続して疲労蓄積度が高い従業員から優先して面談を行う、などのルールを決めておくと良いでしょう。産業医面談を希望しない従業員や、優先度が低いと判断されて産業医面談を実施しない従業員には、上長との面談や人事面談で経過をチェックします。体調が悪化している兆候がある場合は、産業医面談に繋げます。また、最近では優先度の高い人は対面で産業医面談をして、優先度の低めの人にはオンライン面談をするというケースも増えてきています。忙しい人がいつも同じ人の場合10名ほどのうち2〜3名は毎月過重労働の対象者になってしまうというケースが多いです。大企業と比較すると業務の属人性が高く、人員も少ないため、数名の過重労働が常態化してしまいがちです。産業医面談がマンネリ化すると、従業員側から「忙しいから面談したくない」と煙たがられてしまうということもあります。そのような場合は、毎月疲労蓄積度チェックリストには回答してもらった上で、忙しいプロジェクトが終わったタイミングで有給をしっかりとってもらう、などの対応をとります。就業制限をかける時の注意点重症度の高い健康問題を抱えていて、明らかに仕事を続けると悪化してしまう場合、産業医が就業制限をかけることになります。その際に、すぐに就業制限をかけるのは危険です。その人が今いなくなったらプロジェクトが推進できなくなってしまう、という状況でいきなり就業制限となると様々な問題が発生してしまいます。産業医面談をして、通院させた上で、有所見の項目について「いつまでにどのような状態にすれば就業を継続できるか」を産業医から本人に伝えてもらうようにします。本人も就業し続けるために治療に前向きに取り組むことができて、現場とも軋轢ができないように調整をします。【過重労働面談】大企業での運営体制数千名規模の企業の場合、産業医だけでなく保健師が産業保健業務をサポートしていることが多いです。そのため、疲労蓄積度チェックリストと保健師面談による2段階のスクリーニングをします。疲労蓄積度チェックリストで優先順位づけをした後に、保健師の方が面談をして、産業医面談が必要と判断した人にのみ産業医面談を実施する体制が取られています。【STEP1】疲労蓄積度チェックリストの回答勧奨中小事業場と同様、毎月過重労働の対象者に疲労蓄積度チェックリストの回答を促します。その結果をもとに、優先度の高い人は保健師面談を受けるようにします。【STEP2】保健師面談疲労蓄積度が高かった従業員には保健師面談を実施します。大企業では、産業医は産業医にしかできない業務に集中し、その他の産業保健業務は保健師に依頼するケースがほとんどです。保健師面談と産業医面談は役割が異なります。従業員本人のセルフケアで問題が解決する場合は、保健師による対応で基本的には完結します。しかし、本人への保健指導や経過観察だけでは問題が解決できず、会社や管理監督者に働きかける必要がある場合は産業医面談に繋ぐようにします。権限のある産業医が意見書や紹介状を書くことで、組織を動かしやすくなるためです。【STEP3】産業医面談保健師面談後に、保健師が必要と判断した従業員に対して産業医面談を実施します。産業医面談をすべきケースは、大きく分けると2通りあります。労務上の問題が発生している場合と、健康上の重症度が高く明らかに悪化する場合です。(1)労務上の問題パワハラやセクハラが健康障害の要因となっている場合など、労務上の問題として組織が対応する必要性がある場合は産業医面談を実施します。産業医の意見書によって該当部署の調査や管理監督者への指導など、組織的な対応の根拠となります。(2)健康上の問題就業制限をかける可能性のある明らかな健康リスクを抱えている従業員には、産業医面談を実施します。働き続けることができる状態になるために、就業制限をかける基準や具体的な治療計画について話し合います。産業医面談をしても、安全配慮義務違反になるのか?過重労働者に対して産業医面談を実施していたとしても、安全配慮義務を果たしたことにはなりません。平成20年の富士通四国システムズ事件で、産業医面談を合計14回受けている過重労働者に対して、企業側が安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う判決が出たことからも明らかです。安全配慮義務違反は、業務との因果関係、具体的予見可能性、結果の回避可能性を考慮して判断されます。過重労働による健康障害は、予見することができ、回避することも可能だと考えられるため、産業医面談だけでなく、そもそも過重労働をなくすことまで求められます。過重労働管理をラクにするCarelyの活用方法小規模・中規模・大企業にわけて、過重労働者への産業医面談の実施体制をみてきました。過重労働面談の効果的な運用には、疲労蓄積度チェックリストや保健師面談で優先順位付けをすることや、意見書を通して組織を動かすために産業医の力を活用することが不可欠です。しかしながら、実務面では疲労蓄積度チェックリストの回答勧奨や集計、面談日程の調整や、面談記録や意見書の保管などは、非常に煩雑な業務になります。人事労務にとって、時間もかかり、心理的にも負担がかかる仕事でしょう。健康管理システムCarely (ケアリィ)なら、これらの課題を全て解決し、過重労働面談にかかる工数を圧倒的に削減・簡略化することが可能です。過重労働者にワンクリックで疲労蓄積度チェックリストを送信システム内からワンクリックで、過重労働者に向けて疲労蓄積度チェックリストの回答勧奨メールを一括送信できます。過重労働者に周知する文章を作成したり、疲労蓄積度チェックリストを印刷して配布したりする必要はありません。労働時間をCSVでインポートし、ボタンをクリックするだけで過重労働者にテンプレートのメール文が送られます。また、API連携をしている勤怠管理システムを利用している場合、勤怠データが自動でインポートされるため労働時間のインポートも不要になります。疲労蓄積度チェックリストにスマホ・PCから回答従業員はCarely上で疲労蓄積度チェックリストに回答します。スマホからでも、PCからでも回答することが可能です。自動で回答結果が集計されるため、集計作業は不要です。自動で過重労働面談の優先順位付け残業時間と疲労蓄積度チェックリストの回答結果から、自動で過重労働者の優先順位を作成します。どの従業員から優先的に面談を実施すればいいのかが一目瞭然です。面談の予約・記録・意見書・紹介状作成までシステム内で完結Carelyを使うと、書類の用意や保管にかかっていた手間が一切かからなくなります。産業医面談の予約、面談結果の記録、産業医の意見書作成、医療機関への紹介状作成が全てシステム内で完結します。個人の健康診断結果やストレスチェック結果もシステム内で一元管理しているため、紙で用意する必要がありません。紙媒体で書類が必要になった場合は、「印刷」ボタンをクリックするだけで、印刷用のフォーマットに自動で変換されます。さいごにストレスチェック後の医師による面接指導は年に1度しか発生しませんが、過重労働面談は毎月発生する人事労務の仕事です。「月初は面談の調整に時間を取られて他の業務にあてる時間が取りにくくなった」と感じている方も少なくないのではないでしょうか。過重労働面談の効果的な運用に必要な作業を自動化し、データをクラウド内で一元管理して有効活用できるCarelyの導入を是非ご検討ください。参考文献・資料厚生労働省HP:労働者の疲労蓄積度チェックリストについて厚生労働省HP:長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル厚生労働省PDF:長時間労働者への医師による面接指導制度について厚生労働省HP:平成28年度「過労死等の労災補償状況」