産業医とスムーズな連絡・共有
2022年7月7日 更新 / 2020年11月18日 公開

#リモラブ の復習5話目。産業医が守るのは、従業員の安全だけではない理由

おはようございます、産業医の山田です。

#リモラブ5話目の復習では、「産業医の立場」について取りあげましょう。4話に続いて今回のエピソードの中心も営業部。営業部が企画した新入社員の歓迎会を感染症対策のために中止にした産業医・大桜美々。しかしその歓迎会ではお得意様を呼んで新入社員との顔合わせをする会食だったことが判明し、美々先生は営業部に頭を下げます。

「なぜ産業医が頭を下げるの?従業員の安全を守るために大人数での飲み会は中止するべきで間違っていないのに!」

はい、視聴者の方からこんな声が聞こえてきそうです。ですが、実は産業医の職務としてはあの場面で頭を下げたことは正しい判断です。なぜなら、産業医とは従業員の安全を守るだけが仕事ではないからです。

産業医の立場について、解説していきましょう。

電車内での感染症対策や、会食での人数制限について説明する産業医・大桜美々

産業医は従業員と会社、どっちの立場なのか?

#リモラブの復習1話目でもお話しましたが、産業医と臨床医(病院で患者を診る医師)では求められる仕事が違います。臨床医は、目の前の患者の状態とエビデンス、保険診療で認められた範囲でベストな医療を提供することが求められています。

一方で産業医は、働くひとつまり従業員の健康を創ることが何より重要と思われがちです。しかし、産業医が診るべきは従業員だけでなく従業員が働く企業も含まれます。そして企業にとって何より重要なことは利益を追求することです。

ですので、産業医が従業員の健康と安全だけを考えてルールを徹底したり、危ない行為を片っ端から制限するような指導をしていては企業の事業成長をストップさせてしまうこともあります。

大事なことですが、従業員だけを優先するわけにはいきませんが企業の都合だけで産業医が働くわけではありません。従業員の健康を守るためにある最低限の法令遵守(安全配慮義務)が前提であり、その上で企業の成長につながるようなバランスをとったベターな提案をすることが産業医の仕事なのです。

それでは産業医が従業員と企業の間でどれくらいのバランスで仕事をしているのでしょうか?ふたつほど事例を見てみましょう。

産業医によって、企業と従業員のバランスのとり方は異なる

ケース1 企業:従業員 = 5 : 5 の産業医

産業医は産業医学の専門家として、企業と従業員のどちかに偏ることはなく常に独立性・中立性を保持しなければならないというスタンスです。

産業医としての意見を求められた際に、個人的な判断を加えてしまうことはどうしても無意識下にどちらかに偏ってしまいます。また健康管理は産業医だけが実施するものではありません。産業医はあくまでも専門家として助言指導する立場であり、健康管理の主役は企業(経営者)や従業員自身です。

そのため産業医医学としての考え方を伝え続けることで、企業の利益⇔従業員の健康を双方向に発展し、自律的な健康管理につながっていくことが重要だと考えています。

ケース2 企業 : 従業員 = 9 : 1 の産業医

産業医が生まれた歴史的背景や働くひとの健康を創る観点から、企業価値を高める産業医こそが優秀だというスタンスです。

そもそも職場という危険な場所から危険性を取り除くことからはじめなければ、従業員の健康づくりもはじまらないため企業が健康管理に人や時間の投資ができる環境になることが重要なのです。

ただし従業員目線で産業医業務をしなくていよい、というわけでは決してありません。従業員の信頼を得ていない産業医では組織を動かすことができないからです。企業からの独立性・中立性を保ちながらも企業価値を高める全体最適化に取り組むことこそが、働くひとの健康を創れると信じています。

縄跳びが得意な美々先生は、5:5の完全中立なバランスをとっているのでしょうか。

産業医には、感染症対策と事業成長のバランスを判断することが必要

#リモラブ5話目では、カネパルの感染症対策として「従業員の会食は一度に4人まで」というガイドラインが決まっていました。営業部の親友社員歓迎会では15名の参加者が、ビール3ケース・ワイン10本・肉5kgでグランピングをするという計画が立っていたため、産業医としてはガイドラインを理由に中止を言い渡しました。

正確には、産業医に会社行事を中止させる権限というものは存在しません。事業活動において最終判断するのはあくまでも企業側ですので、新入社員歓迎会を実行するかどうかは経営者や営業部の責任者の判断に委ねられます。

とはいえ産業医の意見を尊重することは法律上示されていることですので、営業部の岬さんは中止としました。

営業活動を円滑にすすめるために、得意先と新入社員の顔合わせ会食を企画した営業部

しかし実はこの歓迎会にはお得意様も招待しており、営業部の新入社員との顔合わせの意味もこめたひとつの業務だったんですね。今後の企業利益を追求するためには重要なイベントだといえます。

そういった点で、頭ごなしにガイドラインを適用して歓迎会に中止を言い渡してしまった産業医の判断は軽率でしたし、後ほど頭をさげたることも産業医の職務のうちです。

とはいえ新型コロナウイルスの流行期です。ドラマの中ではどのような流行状況かわかりませんが、現実世界(2020年11月18日時点)では陽性者の数は明らかな増加傾向であり、東京都でも飲食店への営業自粛が検討されている状況ですので、結果的に中止にして良かったのかもしれません。

今回の#リモラブで描かれた産業医業務として大事なポイントは、産業医は従業員の安全だけを考える仕事ではないということです。企業の利益と従業員の健康のバランスを判断することが産業医の仕事には求められているんですね。

実は産業医にとって「交渉力」は必須スキル

あらためて#リモラブ5話は、産業医と臨床医の仕事の違いが明確にあらわれたエピソードでしたね。私が思うに産業医や産業看護職といった、企業内において従業員の健康を守る医療従事者にとっての必須スキルのひとつが交渉力です。

交渉って、一般的な医師や看護師のイメージからは反対ぐらいに遠いイメージがしますよね。

しかし、目の前の患者にとってベストな医療を提供することが求められる臨床医とちがって、企業の利益と従業員の健康のバランスをとる産業医はベスト提案を伝えるだけでは、理解されずに実行されることもなく、結果として働くひとの健康をつくることができなくなってしまいます。

企業のヒト・モノ・金を最大限に使った理想形がベストな提案であり、法令遵守を基本に企業リスクを軽減させる健康管理がマストな提案だとするなら、産業医や産業看護職にはベストとマストの中間にあるベターな提案をうまく使い自らの意見を通す交渉力をもつべきです。

お得意様への謝罪や事後対応に人事部も尽力。産業医の判断はそれだけ影響力があります。

たとえば、健康診断の受診率が85%で就業判定も実施できていない企業には・・・

最近では労働基準監督署の臨時検査が厳しくなってきており、職場の労働環境や安全衛生管理が正しく行われているかをチェックされることが増えてきました。

法令遵守の観点では、健康診断を実施した後に産業医が就業判定をすることと、就業制限が必要な従業員には産業医による面談や働き方に配慮する決定をする必要があります。

→ここまではマストな提案ですので、絶対に通す必要があります。

理想としては、健診結果から有所見者には保健指導を実施したり、再検査まで追いかけるべきなのですが、時間もお金もかかってきます。経営者に健康管理の意識を高めてもらい予算を獲得する必要がありますが、これにも時間がかかってしまうでしょう。

→ベストな提案ではありますが、現実的ではありません。

少なくとも、法律上健康診断の実施は企業の義務なので受診率100%が達成できるように、上長から未受診者へ健康診断を受けるように催促する仕組みづくりをしてみましょう。そうすれば人事の業務負担も減ります。

→ベターな提案として落とし所です。

このように産業医や産業看護職が正しい健康管理を進めるためには、理想論だけを振りかざすのではなく納得してもらいやすい伝え方や提案方法を身につけることが重要になります。

そういった点では、カネパルの産業医・美々先生は成長する余地がありますね。今回の歓迎会の件を糧にして産業医として成長した姿が見れることを期待しています。それではまた。

執筆・監修

  • 山田 洋太
    この記事を書いた人
    山田 洋太
    金沢大学医学部卒業後、2008年久米島で離島医療に従事。
    2010年慶應義塾大学MBA入学。2011年株式会社iCAREを設立。2012年経営企画室室長として病院再建に携わり、病院の黒字化に成功。
    2017年厚生労働省の検討会にて産業医の立場から提言。2018年より同省委員として従事。

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