#リモラブ の復習2話目。産業医が尿酸値で個人を特定するのはNGです。

2020年11月18日 更新 / 2020年10月30日 公開
産業医とスムーズな連絡・共有

おはようございます、産業医の山田です。

#リモラブ2話目はご覧になりましたか?今日も現役の産業医目線で、波瑠が演じる産業医の業務内容について詳しく解説していきます。タイトルにも書いたとおり、第2話では「個人的な理由で尿酸値を調べて健康指導するなんてアリなの?」という場面がありましたね。そこのところを具体的な法律の規定をもとにわかりやすく話を進めます。

第1話の解説はこちらから。どんな企業で産業医が働いているかを中心に解説しています。

ちなみに本記事の対象読者は、企業で健康管理(健康診断やストレスチェック、産業医面談のセッティングなど)を担当している人事・労務の方です。

ドラマの舞台であるカネパルは従業員1000人を超える大手企業ですので健康管理を産業医や産業看護師が担っています。しかし多くの企業では常駐する産業医はいないため、健康管理を担うのは人事・労務の方になるからです。

尿酸値5.29の従業員を呼び出して特別健康指導を行う美々先生

健康管理以外の目的で、健康情報を利用することは法律違反

#リモラブ第2話での最大の見せ場は、「尿酸値5.29!」でしょう。

このエピソードは、主人公・大桜美々が恋するSNSの相手が尿酸値5.29(ブルーインパルスが飛んだ日と同じ)であることが判明し、おそらく同じ会社内にいることから健康診断の結果から個人を特定しようとする場面です。

「いやいや、産業医がそんなことをしてはダメだよね」と視聴者がつっこんだところですが、一連の騒動のあとで美々先生自身から「産業医としてあるまじき行為でした」と謝罪がありましたよね。

では、具体的にどのような行為が、どんな法律に抵触してしまうのかを解説しておきましょう。

尿酸値で個人を特定することは、なぜNGなのか?

まずこのエピソードについて「医師の守秘義務違反にあたるのでは?」と質問を受けたのですが、今回の件は守秘義務違反ではなく個人情報保護法違反であると言えます。

医師や弁護士など特定の業種には守秘義務と呼ばれる、職務上知り得た秘密を漏らしてはならないという法律上の規定があります。企業の健康管理を担う産業医はもちろん医師であり、同様に産業保健師(看護師)も守秘義務があります。

今回のケースでは産業医が第三者に従業員の健康診断結果を漏らしたわけではありません。しかし、個人情報の保護という観点ではNGです。

個人情報保護法では、個人情報(もちろん健康診断の結果も含まれます)を本人以外の他人に提供する際は本人の同意が必要であるという原則があるんですね。

ですので、仮に会社の健康診断であっても個人結果は個人情報にあたります。たとえ産業医であっても健康診断の結果を閲覧・利用するためには本人の同意が必要になるのです。

「あれ、でも健診結果の取扱いについて会社から同意を求められたことはないよ?」という方も多いでしょう。一体どうなっているのかさらに深堀りしましょう。

健康情報の管理と個人情報保護のバランス

健康診断の結果やストレスチェックの結果といった会社で取り扱う健康情報は個人情報です。しかも要配慮個人情報と定義されており、一般的な氏名や生年月日といった情報よりも厳格に取り扱わなければならない個人情報です。

企業は従業員の個人情報をプライバシーに配慮して利用しなければいけないのですが、一方で安全配慮義務によって適切な健康管理をしなければならないと板挟みにあっています。

「健康診断の結果は個人情報だから、産業医が利用するために従業員ひとりひとりから同意をとる。」
なんて業務をしていたら、健康リスクの高い従業員にすばやく保健指導して就業上の措置をとることはできなくなります。

そこで健康管理と個人情報保護のバランスをとるために、2019年4月の法改正によって健康情報取扱規程を策定することが全事業者に義務付けられました。

「産業医としてあるまじき行為でした」と白井先生に謝罪をする

あなたの会社では、健康情報取扱規程が策定されていますか?

健康情報取扱規程とは、従業員の健康情報(要配慮個人情報)を誰が、いつ、どんな目的で、どういった方法で利用するのかをあらかじめ定めておく社内ルールです。

たとえば健康診断の結果については、
(誰が)産業医が
(いつ)健康診断の実施後に
(目的)健康リスクが高い人を抽出するために
(方法)個人票を閲覧する

といったルールをあらかじめ決めておきます。そして、従業員に対しては就業規則や入社時の説明で同意をとることになります。

健康情報取扱規程は比較的新しい義務ですので、もしかするとまだ策定されていない企業があるかもしれません。産業医がスムーズに健康管理を進めるために必要なルールです。まだの企業に向けて解説した資料がありますのでぜひ参考にしてください。

なぜ、健康診断の結果は紙で保管されつづけているのか。

もうひとつ、#リモラブ第2話で興味深い場面がありましたね。産業医の美々先生と産業看護師の八木原くんが尿酸値5.29の社員を見つけるために、健康診断の個人票を印刷して探す場面。

そうなんです、いまだに健康管理の現場では紙管理が残されたままなのです。もし健康診断の結果がデータとしてシステムに取り込まれていたり、少なくともエクセルのようにまとめられていたら、尿酸値5.29の社員を見つけるなんてものの数秒だったでしょう。

これまで紙で保管しなければならなかった理由

まずはじめにお伝えしておくと、現在では健康診断の結果を紙で保管しておくべき合理的な理由はなくなりました。安心してシステム化・ペーパレス化に取り組んでいただけます。

しかしこれまではいくつかの理由で紙管理の方が、手間がかからずカンタンだったのも確かです。

理由1:5年分の個人票を作成・保管する義務

企業には従業員の健康診断の結果を5年間保管する義務があります。また個人ごとに結果をまとめて個人票を作成する必要もあります。

多くの健診機関では健康診断の結果を紙で返却していますよね。だから結果を保管したり個人票を作成するには、紙の結果のままファイリングするほうが手早かったのです。

理由2:産業医による押印

さきほどの個人票であったり労基署への提出書類には、産業医が押印する欄が設置されていました。印鑑をおすならば紙のままで管理しておくほうが楽ですよね。

ところが、2020年8月28日の法改正により産業医による押印が不要になりました。

理由3:アナログな産業医による就業判定

もうひとつはパソコンに馴染みがなかったりリテラシーの低い産業医の場合、健康管理システムで操作するよりも紙を一枚一枚めくって判定するほうがやりやすいことも理由のひとつです。

実は産業医として白衣を着ることはありません。

健康診断結果をペーパレス化する3つのメリット

押印が発生することによる業務のやりづらさや、システムの使いにくさが原因で進んでこなかった健康診断のペーパレス化ですが、今年になって急速に需要が増えてきました。

というのも、新型コロナウイルス感染症の流行により「従業員の中で基礎疾患を抱えていたり、リスクの高い働き方をしている人は誰か?」を迅速に、正確に、把握する必要がでてきたから。そしてテレワークの普及によって、産業医自身もオフィスに訪問することなく業務を進める必要がでてきたからです。

この他にもいくつかのメリットがありますのでご紹介しておきましょう。

メリット1 : 労基署に提出する報告書(様式6号)の作成

報告書内には法定検査項目ごとに何名ずつ有所見者がいたのかを集計する必要があります。この報告書は事業所(オフィスや店舗、工場など)ごとに作成しないといけないので、多くの支社や拠点をかかえる大手企業では何十時間とかかってしまう作業です。

システムやエクセルにデータとしてまとまっていればカンタンになりますよね。報告書にはどういった項目を書くかについて解説した記事もあるので参考にしてください。

メリット2 : 有所見の基準値を統一

健康診断の結果にはABC…といった判定がついていたり、検査数値が赤文字になっているのを見たことはありますか?

健康診断を実施したら、検査項目ごとに健康リスクが高いか低いかを一定の基準値で判定します。問題は、この基準値が健康診断を受ける医療機関ごとにバラバラになっていることです。

支社や拠点が複数あり、健康診断をいくつもの医療機関で実施していると「有所見者」とされる基準がバラバラになってしまいます。会社としてはどこのオフィスで働いているかを関係なく、統一された基準で有所見者を把握したいところ。そのため、健康診断の結果をペーパレス化するためにシステムを利用している企業が増えているのです。

メリット3 : 産業医面談の準備を簡略化

産業医の重要な職務のひとつが、健康リスクの高い従業員との面談をおこなうことです。本人の健康状態を把握して健康指導することはもちろん、従業員の働き方を把握して経営者に対し職場環境改善のための助言指導にもつなげていきます。

たとえばストレスチェックの高ストレス者面談をする際に、ストレスチェックの結果だけ用意するわけではありません。過去の結果をふまえて経年変化を見ますし、実は健康診断の結果や直近の残業時間も必要になってきます。

従業員ひとりあたりの面談時間は約10分〜20分程度ですが、そのために健康情報を集める準備作業にも同じだけの時間がかかってしまいます。

そこで健康診断の結果やその他の健康情報についてもなるべくひとつのシステムでまとまっていると、産業医面談の準備にかかる手間や時間が削減できるんですね。

意外に大企業でも進んでいない健康管理のデジタルトランスフォーメーション

#リモラブの最後に映る告知テロップでは「産業医の職務の描写は実際とは異なります」と流れています。確かに細かな職務内容については食い違う点はあるものの、産業医を取り巻く働く環境については現実な描写になっている、と私は見ています。

特にドラマの舞台であるカネパルは日本オフィスで働く従業員は1000人を超え、海外にも複数の工場をもっている大手企業です。そんな大手企業であっても意外に健康管理のDX(デジタルトランスフォーメーション)は進んでいません。もしかすると大手企業ほど進んでいないのかもしれません。

もし企業がもっているあらゆる健康情報をデジタル管理できたなら、もっと早く適切にハイリスク者へのフォローができるようになります。健康経営や健康増進のための施策も全社一斉に導入するのではなく、特定の健康リスクが高い従業員を対象に範囲を絞ってアプローチできるので費用対効果の高い施策ができるでしょう。

#リモラブでは産業医のことを「企業において労働者の健康管理を行う医師」であると説明されています。

これは体や心に不調をきたしてしまった人を治す仕事という意味ではありません。労働者の健康管理を通して生産性の高い職場環境を創るクリエイティブな仕事、という意味です。

第3話以降では、産業医が積極的に従業員と関わって職場環境を改善していく様子が描かれることを期待しています。

来週からも解説記事を書いていきます、それでは。

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