人事が産業医を育てる!企業にマッチした産業医は自分たちで育成しよう

あなたの企業で専任されている産業医は自社にマッチしていると思いますか?
「いまいちこちらの望むような働きをしてくれない」
「もっと優秀な産業医がいれば今の産業医から変更してもいい」
そんな気持ちの人事担当者もいらっしゃるのではないでしょうか。
医師の届け出数は約32万人で、そのうち産業医の養成研修を終了している医師は約10万人と言われています。多くの産業医は臨床医との兼業です。企業は『産業医は普段医療機関等に勤務する医師が多い』ことを念頭に、産業医との関係構築、育成が必要となります。
「自社にマッチした優秀な産業医と契約したい」と考える人事担当者の方に、まずお伝えしたいことは「最初から自社の社風や価値観を理解し、人柄もよく産業医としての腕も一流」という医師はいない、ということです。
ではどうすればよいか?その答えは、産業医の人柄を慎重に見極め、この人だ!という産業医がいれば「自社の社風や価値観を理解した優秀な産業医」となるよう「自分たちで育てて」いくことです。
この記事では、産業保健師の観点から、自社にマッチした産業医になってもらうためのチェックリストを作成しました。ぜひ産業医との関係構築、育成にお役立てください。
なぜ人事が産業医を育てるのか
冒頭でもお伝えしましたが、なぜ人事が産業医を育てる必要があるのでしょうか。その根拠を2点あげます。
1. 最初から自社のことを理解し、かつ優秀な産業医はいない
繰り返しになりますが、「最初から自社の社風や価値観を理解し、人柄もよく産業医としての腕も一流」という医師は残念ながらいません。
そのため人事担当者は、産業医に自分の会社を知ってもらうことから産業との関係構築を行う必要があります。
「こんなことを産業医に聞いていいのだろうか」
「そもそも何をどう相談すればいいのかわからない」
と、産業医との会話に緊張や不安を覚える担当者もいるかも知れません。そんなときは産業医と担当者で『情報交換をする時間』をあらかじめ設けることが有効です。
1回に5分でも10分でもかまいません。相談したいことがなくても、決めた時間は産業医と話をするようにします。定期的に話す場を作ることで業務中に「次の産業医訪問ではこの話を聞いてみよう」と確認事項を用意できるようになります。

2. メンタルヘルスは産業医の基礎科目
冒頭でも述べたように日本に約10万人いる産業医ですが、兼業の医師が多いため専門科目もさまざまです。それぞれに得意な業種や専門科目があります。
産業医と契約する前に医師のバックグラウンドを理解しておきましょう。
「心療内科の先生でないとメンタル不調者の対応はできないのだろうか」
といった心配をする方もいるかもしれませんね。
専門が心療内科でなければメンタルヘルスの対応は難しい、というのは誤った認識です。フィジカルもメンタルも、両方対応できなくては産業医は務まりません。産業医として認定を受けた医師は、そのための知識や経験を有しています。
心療内科の医師にこだわらずに人柄や産業医としての考え方等をよく見極め、自社に来てほしいと思える産業医と契約することが最も重要です。
シチュエーションごとのチェックリスト
シチュエーションごとのチェックリストを作成しました。
- 産業医による社員面談をおこなう場合
- 全社的な情報を伝える場合
- 職場巡視をおこなう場合
それぞれに対し、産業医と情報共有するとよい項目をリスト化しています。
1、産業医による社員面談をおこなう場合
高ストレス者、過重労働者、健診事後措置、メンタル不調者の休職中・復職時面談等、産業医と社員の面談を調整する場面は多いですね。面談前にチェックリストにある内容を情報共有しておくと、スムーズな面談につながります。
「すべて網羅しなければいけないのか」
「一回で伝えなければいけないのか」
といった疑問をお持ちの方もいるかもしれませんが、『必要な情報を必要なときに伝える』のでかまいません。
また、産業医も面談時本人に直接質問して必要な情報を収集します。そのため不足情報があっても産業医自身が情報を補うので心配はいりません。

2、全社的な情報を伝える場合
全社的な情報も産業医を育てる上で必要な情報です。なぜ全社的な情報を伝える必要があるのでしょうか。
その理由は、産業医は『事業主と労働者双方の立場を理解したうえで事業主と労働者の両方にとって最善となる意見を述べたい』と考えているからです。
産業医は労働者の代弁者となる場合が多くありますが、労働者側に寄り添いつつも一定の距離を保ち、常に客観的に物事をみています。また衛生委員会等での発言も、会社のことがわかっていなければ的確な意見を述べることはできません。
皆さんなら「どの企業の衛生委員会でも同じ話をする産業医」と、「全社的な情報に則り、個別性のある話をする産業医」、どちらの産業医と契約を結びたいでしょうか。産業医を育てるために、全社的な情報も伝えましょう。

全社的な情報に関して、よくある質問と回答をまとめました。
人事考課制度の情報は、なぜ必要なのでしょうか?
メンタルヘルスやストレスに影響を与える場合があるからです。人事考課制度の全ての内容が必要ということではありません。必要時可能な範囲で伝えます。
伝えた方が良い内容(例)
- 従業員はどのような評価のされ方をしているか
- 昇格・昇進の仕組み
- 年功序列か能力主義か
これらの情報は従業員のやりがいや将来的なキャリアアップに影響を及ぼします。メンタルヘルスへの影響も否定できず、また企業ごとに全く考え方が異なる部分です。必要時、可能な範囲で産業医と情報共有をおこなうようにします。
就業規則はどの部分を伝えれば良いでしょうか?
就業規則についても必要時可能な範囲で伝えます。
- 休職・復職に関する規定
上記の内容は社員面談時にも必要ですので、事前に共有しておくといいでしょう。
3、職場巡視をおこなう場合
職場巡視は産業医に自社を知ってもらう良い機会です。産業医はオフィス内の安全管理、衛生管理状態を確認しますが、一見だけではわからないこと、気づかないことも多くあります。産業医と一緒に職場内を歩く際に、チェックリストの内容を伝えましょう。

まとめ “大切なのはコミュニケーション”
ここまで「産業医を育てる」というテーマでお伝えしてきました。
産業医を育てる上で一番大切なことを一言でいうと、わたしは『人事と産業医のコミュニケーション』だと考えています。チェックリストで紹介した項目について話すことも、産業医とコミュニケーションの一部です。
加えて普段の会話の中でも「お昼はどこで食べる人が多いんですか?」といった内容から会社近隣にはどんなお店があり、どのようにランチする人が多いのか?社員の傾向が見えてきます。
- ファーストフード店が多く、ファーストフードを食べる人が多い
- 飲食店が少ないのでコンビニで弁当を買って食べる人が多い
- 買いに行く時間がなくカップラーメンですませる人が多い 等
例えば、これらと健診結果の脂質や血圧で有所見者が多いという傾向を結びつけて、産業医から衛生委員会で健診結果と食事について講話してもらうというアプローチもできます。普段の会話から産業医活動につながるケースですね。
医師との会話は緊張する担当者の方もいるかも知れませんが、『対等なビジネスパートナー』として積極的にコミュニケーションをとってほしいです。ぜひチェックリストの内容をご活用ください。