日本の長時間労働が問題視されている理由とは?企業が知っておくべき3つのリスクを解説

「日本では時間外長時間労働が減っているって聞いたけれど、そんな実感ない…」
「私の会社は、このまま長時間労働を続けるとどんなリスクがあるのだろうか」
と長時間労働の実態について疑問に思うこと、ありますよね。
日本では、労働基準法により1日8時間・1週間に40時間を超える労働には規制がかけられています。あまりに長い時間外労働の疑いがある場合は、労働基準監督署からの指導を受け企業ブランドを毀損するほか、最悪の場合は過労死や労災などのリスクも。
労災事案が発生しなかったとしても、長時間労働の常態化は休職やプレゼンティーズム(働いている最中の生産性の低下)といった、数字には見えづらい企業コストがかかる事態が発生します。
そこで今回は、
- そもそもなぜ日本で長時間労働が問題になっているのか
- 日本で長時間労働が常態化している原因
- 長時間労働が続いた場合に発生する企業リスク
といった内容について、長時間労働に関する情報をまとめてご紹介します。
なお記事の後半では、長時間労働に対する企業の3つの施策についてもご紹介しています。
長時間労働について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までご一読ください。
日本の長時間労働の現状とは?3つの視点で問題点を整理
まずは、日本の長時間労働の現状について、以下3つの視点で整理していきましょう。
- 労働時間は減っているが、所定外労働時間は横ばいである
- 国が長時間労働を撲滅するためのプロジェクトを立ち上げている
- 実際に労働基準監督署から監督指導を受けた企業は、32,981社(令和元年度)
理由1.労働時間は減っているが、所定外労働時間は横ばい
「日本の労働時間は減少傾向にある」と耳にしたことがある方も多いかもしれません。
以下のグラフを見てみましょう。総実労働時間は右肩下がりとなっており、平成5年と令和2年では250時間程度減少していることが分かります。
令和2年版過労死等防止対策白書
しかし総実労働時間は減っているものの、所定外労働時間に大きな変化はなく横ばいか少し上昇傾向にある点には注意が必要です。
なぜなら、日本の労働人口は年々減少を続けており、かつ近年はパートやアルバイトといった非正規雇用の労働者割合が増えているため、見かけ上の総実労働時間は減っているからです。つまり、正規雇用の従業員の残業時間はこの20年以上も削減されていないのです。
理由2.国が長時間労働を撲滅するためのプロジェクトを立ち上げている
法定時間を超えた労働時間(=時間外労働)が長くなってくると、心臓や脳の疾患・精神疾患のリスクが高まってきます。実際、精神疾患による労災の請求件数は20年前の約40倍まで伸びています。
こうした実態をふまえて、国は長時間労働を撲滅するためのプロジェクトを立ち上げています。過労死等防止対策推進法に基づいて厚生労働省に長時間労働削減推進本部を設置し、各地域の労働基準監督署が過重労働の削減に取り組んでいます。
長時間労働削減推進本部概要資料
働き方改革としては2019年に関連する法改正が順次行われており、年次有給休暇の時季指定や、時間外労働の上限制限などが既に実施されています。
理由3.実際に労働基準監督署から監督指導を受けた企業は、32,981社(令和元年度)
違法な長時間労働の是正のために労働基準監督署は、大企業だけでなく中小企業を含めて臨検を実施しており、監督指導を受けた企業が増えています。
厚生労働省では、違法な長時間労働が疑われる事業所に対して監督指導を行っており、平成31年4月から令和2年3月までは、合計で32,981件の事業場が指導を受けています。またそのうち、違法な時間外労働があったと認められた事業場は15,593件でした。
ちなみに前年の平成30年度の指導実施事業場は29,097件だったため、指導を受けた事業所は増加傾向にあることが分かります。では、なぜ日本では長時間労働が常態化しているのでしょうか?その理由について、詳しく見ていきましょう。
日本で長時間労働が常態化している10の原因とは?
日本で長時間労働が起こる代表的な原因として10個挙げられます。
- 中間管理職に仕事が集まる
- テレワークで隠れ働きすぎが増えている
- デジタル化が進んでいないことで効率化が進めづらい
- 人事と外部機関のチェックが少ない
- 産業医面談の申請がしづらい
- 業務量に対して従業員数が足りていない
- 管理職のマネジメントがうまくできていない
- 閑散期に合わせた人員になっている
- 長時間労働する人が評価される風潮がある
- 不必要な会議や打ち合わせが多い
企業によって当てはまる当てはまらないがありますが、昨年から急増している長時間労働がテレワークによる隠れ残業です。平成31年に東京都産業労働局が行った「多様な働き方に関する実態調査」によれば、自宅でテレワークをするデメリットの1位に「勤務時間とそれ以外の時間の管理」がありました。
- 通勤時間の分だけ、朝早く夜遅くまでデスクに向かっている
- WEB会議の頻度が増えてしまい、自分の作業は後回しになる
- メールやチャットで即レスが求められている
- 輪番制で出社したタイミングで、仕事を詰め込みすぎてしまう
特に育児中の従業員の場合、家族との食事や団らんのために一旦は定時で仕事を切り上げます。しかし、寝静まった夜中などに仕事を再開してしまい、勤怠も正しくつけないままであることから人事として隠れ残業を発見することが困難になります。
この他の長時間労働が発生する原因や原因ごとの対応策については、以下の記事で詳しく紹介しています。
長時間労働が続くとどうなる?健康面悪化による企業リスクを3段階に分けて解説!
「私の会社では目立った残業は発生してないから大丈夫」
「過労死ラインさえ超えなければ問題はないよね」
もし、長時間労働・過重労働についてこのような認識をもっているならば、企業リスクに直結してしまう認識ですので今すぐに正してください。
長時間労働による健康面への悪影響は、従業員本人の問題だけでなく会社全体の事業成長にも関わってくる課題です。ここからは長時間労働による企業リスクを以下の3段階に分けて解説します。
- 過労死・労災による企業ブランドの毀損
- 休職による採用費・人件費の増大
- プレゼンティーズムによる生産性の損失
1つずつ詳しく見ていきましょう。
【リスク1】過労死・労災による企業ブランドの毀損
長時間労働による健康面への悪影響のうち、過労死や労災は従業員本人だけの問題ではなく、企業ブランドの毀損につながるリスクです。
厚生労働省の『過労死等防止対策白書』によると、労災認定された自殺者は発病から死亡までの日数が29日以下となっています。また自殺者の約6割が医療機関への受診歴がなかったことも報告されています。
つまり、仕事が原因で自殺に至る従業員の多くが気付いたときにはすでに手遅れになっていることが多いということです。

いわゆる過労死は長時間労働が大きな原因のひとつではありますが、長い時間働いただけで発生するわけではありません。
業務の質・負荷、役職による責任の重さ、家庭環境、プライベートな人間関係、社会的な情勢など、複数のストレス要因が重なることで引き起こされる結果でもあります。しかし、いづれの原因も仕事上の付き合いだけでは発見しづらいものばかりです。
しかし、どのような原因が含まれていたとしても、仮に労災認定される事案が生じた場合には企業のブランド毀損は免れませんし、現在働いている従業員への悪影響(スピルオーバー効果)も計り知れません。
「私の会社では目立った残業は発生してないから大丈夫」
「過労死ラインさえ超えなければ問題はないよね」
という考えではなく、長時間労働削減をきっかけとして働く環境そのものを見直すことで、従業員の健康と安全を守ることを考えていただきたいと願います。
【リスク2】休職による採用費・人件費の増大
労災として判断される手前で、企業が従業員の健康を守る手段として休職があります。どんなに働きやすい企業であっても、一定の割合で休職者は発生してしまいますので、目安として約1%、従業員が100人いれば1人は休職者が発生します。
しかし、あまりにも休職者が多く発生してしまう職場では、マンパワーの穴を埋めるために新たな採用費がかかってきたり、周囲の従業員に追加の残業が発生することで人件費が増大してしまうリスクが発生します。
企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット | 内閣府
内閣府の調査によると、働き盛りの従業員(年収600万円)が休職した場合には、休職前から復職後にかけて約422万円の追加コストがかかってくると試算されています。
また長時間労働が原因で精神疾患(うつ病等)と診断されている従業員の場合には、復職がかなったとしても同じ部署で同じ業務内容に復帰できないケースもあります。配置転換を検討することになると、結局は新たな人材の採用が必要になってきますので、休職者の発生は見た目の損失以上のコストがかかってきます。
【リスク3】プレゼンティーズムによる生産性の損失
リスクの1と2は健康面での悪影響が少なからず目に見える損失が発生していましたが、3つ目のプレゼンティーズムは発見することが難しく厄介な問題です。
プレゼンティーズムとは、健康上の問題を抱えながらも出勤して業務に取り組んでいる状態のことを指します。たとえば、腰痛や腱鞘炎に悩まされていたいr、十分な睡眠がとれておらず集中力がかけている状態をイメージしてもらえると分かりやすいでしょう。
病欠や通院とは異なり、勤怠上は通常通り出勤しているので満額の給与が支払われますが、実際には生産性が低下している中で働いているので、期待した通りの成果が現れない結果となります。

厚生労働省と経済産業省による共同調査では、健康が起因した生産性の損失のうち77.9%がプレゼンティーズムによるものだと示されています。
長時間労働を是正しようとひとりひとりの残業(時間外労働)を削減したとしても、単に働く時間が短くなるだけでは企業としての売上・利益の成長は止まってしまいます。
働く時間を短くすると同時にプレゼンティーズムを改善することが、企業と従業員がお互いに目的達成できる環境を作れることになります。
では、これらのリスクに対して人事としてどんな対策をすべきなのでしょうか?
日本の長時間労働への対策として、人事はどんな施策を打つべきか
企業内で長時間労働の対策を推進するのは人事担当者の仕事になります。まだ長時間労働の対策が不十分だと感じているなら、次の3つの流れで対策を考えていきましょう。
- 国が推進している施策・法改正について知る
- 時間外労働が発生しない仕組みを整える
- 長時間労働をいち早く察知できる仕組みを作る
国が推進している施策・法改正について知る
まずは本記事でも紹介した国の施策や法改正について正しく知ることからはじめましょう。特に2019年の労働基準法・労働安全衛生法の改正によって、勤怠管理に関わる義務はいくつも変わっています。
特に、「時間外労働の上限規制」と「有給休暇の取得義務」については36協定や就業規則といった社内ルールの変更が必要になってきます。厚生労働省から、法改正による実務の変更についてガイドブックが公表されているので、一度目を通しておくとよいでしょう。
『時間外労働の上限規制 分かりやすい解説』
『年5日の有給休暇の確実な取得 分かりやすい解説』
時間外労働が発生しない仕組みを整える
次に、時間外労働(残業)が発生しない仕組みを整えていきます。単純に考えると、もっと人を雇って、従業員一人当たりの業務量を減らせば時間外労働は減ります。しかし、採用難が続く業界では難しく、また人事の取組みだけでは解決できない策ではあります。
そこで人員補強以外の方法で時間外労働を削減した事例についても、厚生労働省より事例集が公表されていますので参考にしてみてください。
また健康管理システムCarelyの導入企業で、東京都労働局から表彰された株式会社モバイルファクトリー様に長時間労働を削減した経緯をインタビューしてきましたので、こちらも参考にしてみてください。
参考:株式会社モバイルファクトリーが、Carelyを導入して健康診断のペーパレス化に成功した理由 | 健康管理システムCarely(ケアリィ)
長時間労働をいち早く察知できる仕組みを作る
さいごに、繁忙期などでどうしても長時間労働が発生してしまった場合にいち早く察知して対応できる仕組みをつくりましょう。
長時間労働の把握ならば勤怠システムで実現できると思われるかもしれませんが、給与計算などの用途で扱う所定労働時間の計算と、健康管理のための法定労働時間の計算式は異なります。勤怠とは別にエクセルで再集計を行ったり、過重労働者へ産業医面談の予約、従業員の健康データを準備するといったアナログ業務を効率化する仕組みづくりが必要です。
長時間労働をいち早く察知できる仕組みについて、具体的な対策方法については以下の記事でご紹介しています。本記事に続いてお読みいただくと理解が深まりますよ。
まとめ:長時間労働には見えづらいリスクが突然現れるため、早い段階での対策が重要
この記事では、日本の長時間労働の実態や、長時間労働によって発生するリスクについて解説しました。
一時期に比べると、過労死などのニュースが減ってきたので日本の長時間労働は改善されているように見えますが、統計情報から読み解くと実態としては正社員の働きすぎは20年以上変化が見られません。
長時間労働が常態化した場合のリスクとして、過労死や労災は突発的に発生しやすく、休職・プレゼンティーズムは一見するだけでは把握できないコストが積み重なってしまうことも分かっていただけたかと思います。
「自分の会社でも働きすぎが原因で元気がない社員がいるな」と気付いている人事担当者の方であれば、長時間労働への対策にとどまらず、健康診断やストレスチェックも一元管理して従業員への健康管理を効率化できるシステムをご検討ください。
\健康管理をミスなくラクに/