パワハラ防止法、厚労省の指針に則った職場と就業規則の見直し方

2020年10月6日 更新 / 2019年11月14日 公開
健康経営の実務

2020年2月17日更新
パワハラ防止法の指針が発表されたことを受けて、一部内容を更新しました。


パワハラ防止法制化により、企業のパワハラ防止が義務化されました。今後、企業内ではパワハラ対策が進む一方、法律に明記されたことでパワハラの報告件数も増えていくことが予想されます。

法制化により企業はどんな対策をすることが義務づけられたのでしょうか。
そして、法律が施行される前に何をしておけばいいのでしょうか。

指針が出た今、企業がやらないといけないアクションを徹底的にまとめました。(本記事は厚労省のガイドラインおよび各種テンプレートの情報を参考にしています。)

パワハラ対策のポイントは、「パワハラを防止する」ことと、「パワハラに早く気づく」ことです。先ずは、パワハラ対策が進んでいる企業の多くが行っている対策について、あなたの企業はどのくらいできているか、チェックしてみてください。

パワハラ対策のはじめの一歩:方針の明確化

企業のパワハラ対策は、既に政府がマニュアルを出しています(こちら)。そこでは、まずパワハラ対策のスタートとして会社の方針を明確にし、社内の状況や課題を把握していくことが求められています。

パワハラは民事訴訟や刑事訴訟に発展するリスクもあり、社内規定に則って適切に対応することが大切です。問題が起こる前にパワハラへの対応方針を社内で定め、それを文章化して従業員へも周知していきましょう。会社の方針を明確にするときのポイントは3つあります。

対策方針を、経営陣が公表する

まず、企業としてパワハラの対策を進めていくことを定め、経営陣によるトップメッセージとして社内に発信します。「企業としてパワハラを絶対に許さない」という姿勢を、経営陣自らが社員に伝えていきます。

トップメッセージの発信は、厚生労働省のパワハラ防止対策マニュアルにて取組の1つ目に上げられています。しかし、それは「会社の方針を伝えるため」だけではありません。

トップメッセージの公表には、「従業員一人ひとりに自覚をもってもらう」という目的もあるのです。

今回の法制定では、パワハラ対策の義務を「従業員」にも課しています。

つまり、事業主が対策をするだけでは足りず、従業員それぞれがパワハラを防止する意識を持つことが、法律で求められているのです。(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案 30条の3)。

パワハラ防止に実効性の高いメッセージにする方法として、パワハラ対策チームを立ち上げて、その中に役員を1人登用したり、その対策チームの議事録にトップがコメントを添えて社内に公表したりするなどがあります。

*厚労省のマニュアル「3.3.トップのメッセージ」参照
*厚生労働省がトップメッセージ文書のテンプレ・ひな形を出しています(こちら)

防止策や対処方法の明文化

パワハラを予防する方法とパワハラが発生したときの対処方法を定め、社内規程に文章として記しておきます。具体的には、就業規則や服務規程、労働協約などにパワハラを禁止することを明記し、懲罰規程も合わせて作成します。

パワハラへの対処を社内規程に落とし込むことで、問題が起きて処罰するときの根拠になります。

文書化に加えて、パワハラに関する就業規則の改定を、普段の就業規則の周知よりも大々的に、より従業員の目に入るように周知します。①で挙げた経営陣のメッセージと合わせて流すと効果的です。

なぜなら、パワハラに関する就業規則自体が、日頃のパワハラの抑止力となるからです。加害者側の意識が変わるだけでなく、被害者が声を上げやすくなったり周囲の人がパワハラだと判断しやすくなったりするメリットがあります。

パワハラの有無を把握する社内アンケート

「社員のパワハラへの理解度はどのくらいか」「自社ではどのようなパワハラのリスクがあるか」を把握するために、定期的にアンケートを実施していきます。自社の現状を正確に把握することで、より効力のあるパワハラ対策のルールを定めることができます。

厚生労働省がアンケート実施マニュアルと雛形を出しているので、こちらを参考にアンケートを準備していきましょう*。

*何か対策を行うとき、その前と後を比べるのを想定しているため、定期的に毎年アンケートを取るためには修正が必要かもしれません。

パワハラの加害者・被害者は、パワハラだとは思わずにパワハラをしてしまっているかもしれません。社内のパワハラの実態や理解度をみるために、あえて「パワーハラスメント」という言葉を使わず、「ここ1カ月でひどい暴言を言われたことがある。」というように、パワハラにあてはまる事柄を直接聞くのも有効です。

セクハラとは違う、パワハラの判断基準

注意点として、パワハラかどうかの判断基準は、パワハラを受けた被害者にとっての印象ではなく、「その状況に置かれた場合の平均的な人がどう感じるか」です。

セクハラのように、被害者側がハラスメントと感じたかどうかが基準ではありません。社内での問題を考えるときには、「一般的に見てハラスメントと見なされるものか」どうかを意識する必要があります。

積極的なパワハラ対策:発生防止と早期発見

パワハラ対策の方針が決まったら、それに合わせてパワハラの発生を防止する仕組みと、パワハラが深刻になる前に発見する仕組みを作っていきましょう。現時点で国の方針としては「相談窓口の設置」と「社員研修の実施」を求めています。法制化による新しい指針でも、これらの対策は盛り込まれる可能性が高いでしょう。

パワハラ相談窓口の設置

従業員がパワハラを受けたり発見したりしたときに相談できる窓口を設置します。現在、セクハラの相談窓口の設置が義務であることを考えると、パワハラの相談窓口も義務化される可能性は大いにあるでしょう。

現在セクハラ相談窓口がある場合は、そこでパワハラにも対応できるようにするか、パワハラ用の窓口を新たに設置することになります。相談窓口は社内に設置するのと外部の委託事業者を使う方法があります。

社外のメリット

  1. 相談内容や相談者の情報が企業に伝わらない安心感がある
  2. 社内の業務負担を軽減できる
  3. 電話対応のスキルに長けた相談員を選べる

社外のデメリット

  1. 企業側の対応が必要な問題でも、企業側への情報共有が不足する危険がある
  2. 相談員の質や対応時間の長さ、回線の量などが事業会社によって様々

外部に窓口を設置する場合、個人情報保護は最重要です。しかし、必要に応じて企業側に情報を適切に提供し、問題解決に繋げられるように、連携の方法を明確にしておくことを注意してください。

社員教育を管理者と一般従業員に向けて行う

パワハラの定義や実際の事例、そしてパワハラにあった時の対処方法などを伝える研修を行います。こちらも厚生労働省が研修資料のサンプルを、管理職向けと従業員向けに分けて作成しています(こちら)

研修では、人事部長などの力を持った人からの一言をプログラムに含めると効果的です。

従業員参加型のワークショップを行うと、直ぐに実行に移せて効果も大きくなります。できれば参加型ワークショップを目指したいところです。

研修ツールには様々ありますが、パワハラの実際の例を使って、どう対応したら良いかを話し合う方法があります。厚生労働省が出している事例集からピックアップして、同じような状況で自分はどう対応したらよいか?部下にどう声をかけるか?などの意見を出し合っていきます。

また、ストレスチェックの集団分析の結果から、部署ごとの課題を見つけていくのも良いでしょう。他にも、パワハラのない職場づくりを目指した研修に、「職場で思いやり行動を増やすための研修マニュアル」「CREWプログラム実施マニュアル」「ジョブ・クラフティングの研修マニュアル」などがあるので、詳細はリンクを飛んでみてください。

社内規定と相談窓口を周知する

パワハラ防止に対する企業の方針と対応・相談窓口を従業員に周知していきます。

社内にポスターを張ったりメールで送るなど、目に見える形で従業員に訴えると効果的です。または、新入社員研修や社員総会などで説明しても良いでしょう。

継続的・定期的に広報活動を行うと、企業の姿勢をアピールできます。ホームページのトップメッセージなどに企業の目標を盛り込むと、社内外へ発信できます。

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パワハラ発生後の対応:再発防止

どれだけ防止しても、パワハラが起きてしまうこともあります。パワハラは恒常化していたり原因が根深いことが多く、一度対策をしても再発してしまいます。パワハラの原因をしっかりと突き止めて、再発防止のための計画を立てていきましょう。

事例から学んで再発防止策を作る

パワハラが起きてしまったら、この順番で対処してみてください。

1.当事者へのヒアリング

まず、関係者にヒアリングを行い、今回起きた問題がどういったもので、どうして起きてしまったのかを特定します。その際、相談内容が外部に漏れないよう注意します。

2.当事者と周囲の人の参加型の話し合い(ワークショップ)

コンプライアンス部門や人事総務などが動くだけでなく、関係者が自ら解決に向かって動いていくことが何よりも大切です。今回のようなことが起こらないためには、どこを直したらよいのか、当事者たちが主体的に解決していけると良いでしょう。

例えば、人間関係の希薄化や長時間労働の恒久化などがパワハラを生むこともあります。その場合はコミュニケーションが生まれる機会をつくったり、長時間労働をなくしたりする取り組みが考えられます。

3.社内規定の見直し

長時間労働や上司からのサポートなどは、就業規則などで改善させていけることもあります。衛生委員会などで議題に上げ、会社としてできる対策を進めていきましょう。

また、当事者の処罰などで困る点が出た場合は、そちらも衛生委員会などで話して社内規定に盛り込んでいきます。

4.トップメッセージ発信

最後に、今回のパワハラ発生による対応方法やその結果の会社の対策強化などについて、社員に周知させていきます。

参考:厚生労働省がハラスメント防止策の好事例集をまとめています(こちら)。あなたの会社に似た会社を中心に、パワハラ防止の参考にしてみてください。

危険をいち早く察知する:既存データの活用

ここまで、2020年施行の法改正に対応するための措置について説明しました。
一方で、すでにパワハラが発生しているならば、今ある情報や仕組みを使って早期に発見・対処する必要があります。

パワハラまたはパワハラの予兆をイチ早く察知するための具体策をご紹介します。

過剰な長時間労働や欠勤・遅刻に注意する

長時間労働は、上司から過度な仕事をさせられていたり、精神的な理由で生産性が落ちてしまっているサインかもしれません。欠勤や遅刻が多いのも、精神的に落ち込んでしまっていたり他の社員と上手くいかず、会社に行きたくないと感じているからかもしれません。

勤怠表や残業管理表などから、長時間労働や欠勤・遅刻の様子を観察して、気になる社員や部署に目を向けてみると良いでしょう。パワハラの被害を受けていたり、それが原因でうつ病などの精神疾患を引き起こしている可能性もあります。

気になる社員には、産業保健スタッフを介して等で社員から話を聞いてみます。社員数が多くて管理が難しいときは、長時間労働や勤怠管理ができるシステムを導入するのこともできます。注意が必要な社員をピックアップしてくれるようなシステムを導入できるかもしれません。

ストレスチェックの結果からパワハラの発生を見抜く

ストレスチェックから分かる、パワハラの起きている可能性のある部署に見られる特徴は主に2つあります。

1つは「集団分析の結果、総合健康リスクが高い」、もう1つが「高ストレス者が多い一方で医師面談申込数が少ない」という特徴です。

パワハラは被害者だけでなく、それを見ている周囲の従業員へも強い影響を与えます。部署の中にパワハラが存在するだけで、部署全体の抑うつ状態を高めることが研究でも示されています。*1総合健康リスクの点数が飛びぬけて高い部署があれば、部署へのヒアリングを行うと良いでしょう。

また、高ストレス者でも医師面談を申し込まない人が多い部署では、高ストレス者なのが上司にバレるのを恐れている可能性があります。その理由に上司からのパワハラがあるのかもしれません。

高ストレス者数は人事が把握できないので、産業保健スタッフに高ストレス者数に対する医師面談申込数をチェックしてもらい、気になる部署には従業員へヒアリングや原因分析をお願いしている企業もあります。

相談窓口から会社に情報連携できる仕組みづくり

相談窓口にパワハラの相談をしてもらい、そこから対応を始めることが一番確実にパワハラを見つける方法です。相談窓口を利用するハードルを下げることと、相談窓口と会社の連携をスムーズにすることが重要です。

相談したら会社にバレて立場が悪くなるのではないか、というのは誰しも心配することです。相談内容を社内へ共有する必要性のアセスメントの方法や、共有する情報をきちんと定めて、周知をする必要があります。

また、それらを定めておくことで、相談窓口との連携も強くなります。会社が対応する必要のあるケースが放置される、などの悲劇が起こらないように、連携方法のルールは明確にしておきましょう。特に、社外に相談窓口がある場合は注意が必要です。

【周囲からの情報も含め、機能する相談窓口】
(所在地 兵庫県 業種 金融業 従業員数 350名以上)
コンプライアンス強化という観点から、ハラスメントを含めた相談窓口を設置しています。相談窓口の社員の携帯電話番号を社員に周知し、直接相談できる体制にしています。
また、外部の弁護士へ直接相談できる体制も用意しています。このようなホットライン体制を設けることでいつでも誰でも相談できる体制にしています。例えばパワハラに関しては、当事者間ではお互いに気づかず進行してしまうケースがあるでしょう。叱責を受け続ける部下は自分のせいだから仕方がないと反省し続け、上司は本人の成長の為としてどんどんエスカレートしてしまう場合等がそれです。
客観的な周囲の第三者の目からは行き過ぎだと見受けられ、初めて前記のホットラインから情報が入り、歯止めをかけるに至ったケースがあります。

職場のパワーハラスメント対策取組好事例集

普段から従業員の声を聞けるようヒアリングする。

何よりも一番大切なのは、パワハラに気づいたり相談したりできる関係性を従業員との間に築くことです。日頃から職場を回って従業員と話す機会をもつなど、ヒアリングできる関係になっておくのが大切だと言えます。

パワハラは、上司から部下に対するものだけではありません。部下が上司に対してハラスメントをすることや、同僚間でハラスメントが起こることもあります。

多様化するハラスメントに対応するために、あなた自身がハラスメントの声を拾う必要があります。

ここまで、パワハラ対策として「方針の明確化」「発生防止と早期発見」「再発防止」「既存データの活用」の4つを説明してきました。

あなた一人では実現できないような対策ばかりだったかもしれません。実現のために大事なのは、社内に隠れている味方を見つけることです。前任の人事部長が社内での意思決定を後押ししてくれるかもしれませんし、 以前パワハラの被害にあった従業員が部署のヒアリングを手伝ってくれるかもしれません。

まずはあなたの味方を社内で見つけてみてください。

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参考文献・資料

・*1 Tsuno et al. J Occup Environ Med. 2018;60(12):1067-1072
・厚生労働省「社内でハラスメント発生! 人事担当の方」ハラスメント関係資料ダウンロード https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/

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