健康診断の効率化
2022年7月25日 更新 / 2021年4月1日 公開

雇入れ時の健康診断の対象や実施タイミングは?非正規雇用でも必要?

雇入れ時の健康診断の対象や実施タイミングは?非正規雇用でも必要?

「新しく従業員を入社させるとき、雇入れ時の健康診断は必須?」
「パートやアルバイトを雇うときは働く時間が短いから、やらなくても大丈夫?」
と疑問を感じていませんか?

さまざまな雇用形態の従業員が働く企業では、

  • 雇入れ時の健康診断を実施すべき対象者
  • 雇入れ時の健康診断の実施タイミング
  • 雇入れ時の健康診断で受診させる法定項目

など、悩むこともあるのではないでしょうか。

さらに、雇入れ時の健康診断のあとの定期健康診断の実施有無で迷うことも。場合によっては、労基署からの指摘に繋がることもあるため勝手な判断は禁物です。

そこで当記事では、

  • 対象者や実施タイミングなどの「雇入れ時の健康診断の基本」
  • 非正規従業員を雇用するときの健康診断で悩みやすい4つのケース

を解説します。できるだけ判断に迷わずに、適正に雇入れ時の健康診断を実施していきたい方はご一読ください。

雇入れ時の健康診断とは?対象者・費用・実施時期について解説!

ここでは、雇入れ時の健康診断を5つの視点にわけてお伝えします。

  • 雇入れ時の健康診断とは?
  • 雇入れ時の健康診断の受診項目は?
  • 雇入れ時の健康診断の対象者となる条件は?
  • 雇入れ時の健康診断の費用はどのぐらい?
  • 雇入れ時の健康診断の実施タイミングは?

それぞれ1つずつ見てみましょう。

雇入れ時の健康診断とは?

雇入れ時の健康診断は、名前の通り労働者を雇い入れるときに行う健康診断のこと。労働者が安全に働ける状態か、チェックするために実施します。

雇入れ時の健康診断は、労働安全衛生規則第43条にて実施が義務づけられています。

(雇入時の健康診断)第四十三条  事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

労働安全衛生規則 第1編 第6章 健康の保持増進のための措置|安全衛生情報センター

常時使用する労働者とは、以下の条件に合致する労働者のこと。

1.契約期間・無期契約労働者
・有期契約で契約期間が1年以上※の労働者
・有期契約の更新により1年以上※使用される予定のある(または使用されている)労働者
2.労働時間・1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の3/4以上の労働者

上記に合致する場合は、省略や拒否をすることなく実施が必要です。

しかし、法定項目を満たした健康診断を3ヵ月以内に実施し、健診診断書を提出できる状況であれば、雇入れ時の健康診断は不要となります。もし法定項目が満たされていない場合は、再受診が必要です。

判断条件雇入れ時の健康診断要否
3ヵ月以内に健康診断をしていない
3ヵ月以内に法定項目を満たした健康診断をして健診診断書を提出できる不要
3ヵ月以内に健康診断をしたが法定項目を満たしていない

雇入れ時の健康診断の受診項目は?

雇入れ時の健康診断における法定項目は、以下のように決められています。

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査

定期健康診断では年齢によって項目を一部省略できる場合もありますが、雇入れ時の健康診断では省略できません。そのため、健診機関・クリニックのコースを選ぶ際は、

  • 雇入れ時の健康診断と明記されているコース
  • 定期健康診断の法定項目すべて網羅しているコース

を選ぶようにしましょう。また定期健康診断とは違い、所轄労基署への報告は不要です。

雇入れ時の健康診断の対象者となる条件は?

雇入れ時の健康診断は、常時使用する労働者の以下条件に合致した場合に必要となります。

1.契約期間・無期契約労働者
・有期契約で契約期間が1年以上※の労働者
・有期契約の更新により1年以上※使用される予定のある(または使用されている)労働者
2.労働時間・1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の3/4以上の労働者

※深夜業や粉じん業務などの特定業務従事者の場合は6ヵ月以上

雇用時の契約条件が合致する場合は、雇入れ時の健康診断をしなくてはなりません。わかりやすく言うと、「社会保険に加入する労働者」が対象です。

つまり、正社員はもちろん、契約社員やアルバイトでも条件に当てはまれば、雇入れ時の健康診断の実施が求められます。

また、労働時間の条件に満たない場合であっても、1週間に正社員の約1/2以上働く予定の場合は、「雇入れ時の健康診断を実施するのが望ましい」とされている点には留意しましょう。

雇入れ時の健康診断の費用はどのぐらい?

雇入れ時の健康診断は会社負担で実施するケースもあり、「できるだけ費用を抑えたい」と思っている人もいるでしょう。

気になる費用はクリニックごとで定めていて、全国一律の料金ではありません。全都道府県における雇入れ時の健康診断にかかる料金を平均してみたところ、最安値と最高値は以下のようになりました。

  • 最安値:7,334円(鹿児島県)
  • 最高値:12,518円(神奈川県)

このように、地域によって料金の差があります。雇入れ時の健康診断は、おおよそ7,334円~12,518円におさまることを目安に予算を組んでおくと良いでしょう。

とは言うものの、「自分の都道府県の料金はどうなっているのか知りたい!」といった方のために、47都道府県別の平均料金もまとめてあります。実際に雇入れ時の健康診断を実施しているクリニックも紹介しているので、できるだけ健診費用を抑えたい方はご一読ください。

雇入れ時の健康診断の実施タイミングは?

雇入れ時の健康診断は、原則、勤務日前までに実施をしなくてはなりません。なぜなら、「健康な状態で働けるのか」を判断するために必要だからです。

したがって、勤務日前までに雇入れ時の健康診断ができるように日程を調整して、受診してもらうようにしましょう。

ただ、実際には採用してから勤務初日までが短く、雇入れ時の健康診断を受けるタイミングがない場合も。そのときは、勤務開始後でも速やかに健康診断を受診してもらい、健康診断書を提出するケースもあります。

とはいえ、

  • 定期健康診断が、雇入れ時から近い場合(1ヵ月後など)
  • 健康診断の準備に時間がかかり、すぐに対応が難しい場合

などは、いつまでに実施すべきか迷うこともあるでしょう。このような場合は労基署に相談し、指示を仰いだ上で対応するのが確実です。

「新卒の健康診断が入社後になってしまいそうですが大丈夫でしょうか?」「定期健康診断が近いですが、どちらも受けさせた方が良いでしょうか?」というように相談して、労基署の指示に従いましょう。

ここまで、雇入れ時の健康診断の概要や条件、費用などについて解説しました。しかし、雇入れ時の健康診断が必要になることはわかっていても、

  • 派遣社員の健康診断費用は、自社と派遣元企業のどちらが負担するの?
  • 契約社員が自動更新契約の場合は対象者になる?

といったことに悩むことも。

続いて、派遣社員やアルバイトなどの従業員を雇用するときに悩む4つのケースについて解説します。

雇入れ時の健康診断が必要か悩む4つのケースとは?派遣社員やアルバイトなど

従業員を雇うときは正社員だけではなく、さまざまな雇用形態で採用する場合があります。以下の雇用形態のとき、雇入れ時の健康診断は必要になるのでしょうか。

  • 契約社員
  • 派遣社員
  • パート
  • アルバイト

それぞれの雇用形態ごとにポイントを見てみましょう。

【ケース1】契約社員に健康診断を受けさせる場合

契約社員で雇入れ時の健康診断が必要になる例は以下のとおりです。

  • 3ヵ月の契約期間が自動更新する可能性がある
  • 契約期間は半年だが、特定業務従事者である
  • 契約期間が1年以上で、1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の3/4以上

契約期間が3ヵ月だったとしても、自動更新することで正社員と同じ「無期契約労働者」とみなされてしまうことがあります。現状では契約更新するかわからず、「雇入れ時の健康診断はするべき?」と判断に迷ったときは労基署に相談して指示に従うのが良いでしょう。

契約社員の場合、契約期間の更新や労働時間が長くなることで健康診断の対象になることも。詳しくは以下の記事にて解説しています。健康診断の有無で迷いやすいケースごとにまとめているので、ご一読ください。

【ケース2】派遣社員に健康診断を受けさせる場合

派遣社員の場合は、「誰が実施して費用負担をするの?」といったことに悩むことがあるのではないでしょうか。派遣社員における雇入れ時の健康診断は以下のとおりです。

  • 雇入れ時の健康診断を実施するのは、原則「派遣元企業」
  • 費用は個人負担になることもあるが、派遣元企業が負担するのが望ましい

このように、派遣社員の場合は派遣先企業ではなく、派遣元企業にて雇入れ時の健康診断を実施します。

費用は健康診断書の提出によって雇入れ時の健康診断とする場合は、個人負担になることも。とはいえ、法律で定められている健康診断のため、費用は派遣元企業が負担するのが望ましいでしょう。

そのほか、「定期健康診断や特殊健康診断の費用負担は誰になるの?」といった疑問は以下で回答しています。派遣社員に実施する健康診断で悩んでいる方は、併せてご覧ください。

【ケース3】パートに健康診断を受けさせる場合

「パート従業員は正社員より労働時間が短いから、雇入れ時の健康診断はやらなくても良いの?」と思う人もいるかもしれません。しかし、常時使用する労働者に該当する場合は受診させる義務があります。

パート従業員における雇入れ時の健康診断は以下を参考に実施しましょう。

・1年以上働く予定で、1週間の労働時間が正社員の所定労働時間の3/4以上
 ⇒雇入れ時の健康診断は必要
・1年以上働く予定で、1週間の労働時間が正社員の所定労働時間の1/2以上、3/4未満
 ⇒雇入れ時の健康診断をすることが望ましい
・深夜業や有害物質を扱うなどの特定業務を行う
 ⇒雇入れ時の健康診断は必要

1年以上働く予定で、1週間の労働時間が正社員の所定労働時間の1/2以上、3/4未満の場合は、雇入れ時の健康診断の「実施が望ましい」とされています。

また、パート従業員の中には勤務時間や曜日の関係で受診日程が合わないといったことも。しっかりと受診してもらうための具体的な対応方法は以下をご確認ください。

【ケース4】アルバイトに健康診断を受けさせる場合

シフト制のアルバイトだったとしても、条件に合致すれば雇入れ時の健康診断は必要です。

・1年以上働く予定で、1週間の労働時間が正社員の所定労働時間の3/4以上
 ⇒雇入れ時の健康診断は必要
・深夜業や有害物質を扱うなどの特定業務を行う
 ⇒雇入れ時の健康診断は必要

アルバイトの場合、雇入れ時には短時間だけ働く予定だったものが、だんだんと労働時間が増えて最終的に正社員の3/4以上になってしまうことも。もし所定労働時間を超えて働くことになる場合は、定期健康診断が必要になるケースがあります。

まずは業務上、健康診断が必要になるのかを産業医に確認し、実施するタイミングで迷ったときは労基署に相談するようにしましょう。

アルバイトの健康診断については以下にまとめています。詳しく知って業務に役立てていきたい方はご一読ください。

ここまで、雇用形態ごとに雇入れ時の健康診断が必要になるケースを解説しました。ただ、実際に雇入れ時の健康診断を実施するとき、「定期健康診断の日程が近いこと」もあるでしょう。

「雇入れ時の健康診断は実施したし、定期健康診断は受診させなくても良いのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、実は大きな落とし穴があります。詳しく見ていきましょう。

定期健康診断が近い場合は、雇入れ時の健康診断と代用が可能?

結論からお伝えすると、入社後の定期健康診断も省略せずに実施するのが確実です。たとえば、2月に健康診断を実施した健診診断書の提出をもって雇入れ時の健康診断とし、入社後の4月に予定されている定期健康診断を受けなかった場合を見てみましょう。

雇入れ後に定期健康診断も実施したほうが良い理由

このように、次の定期健康診断までの期間が1年2ヵ月も空いてしまうと、「1年以内に1度の定期健康診断」ではなくなってしまいます。

つまり、雇入れ時の健康診断と定期健康診断の時期が近かったとしても、1年以上期間が空くのを防ぐために実施が必要です。

健康診断の結果により、採用取り消しはNG

雇入れ時の健康診断は、常時使用する労働者を雇入れるときに適性配置をし、入社後の健康管理に役立てるために実施するものです。そのため、健康診断の結果を見て採用の合否を決めることは原則できません。

「健康診断の結果が良くないから内定取り消し」といったことを担当者レベルで判断してしまうと、違法になる可能性もあります。間違った判断をしないように、慎重な対応が必要です。

しかし、健康診断の結果は良かったものの、入社直前で大きなケガや病気が発覚して働けなくなるケースもあります。

そのようなときは、まず産業医に相談して勤務が可能であるか相談をしましょう。その上で産業医から「働くことが難しい」と判断された場合は、企業と内定者双方の話し合いで決着することとなります。

補足:内定は、会社と内定者の契約の1つ

内定は、
・会社は内定者に仕事と給与を提供する
・内定者は労働力を提供する
という契約であり、当事者間の約束です。

直前の私傷病により「内定者が労働力を提供できない = 契約不履行」になれば、当然「契約も取り消し = 内定取り消し」が行われても問題ありません。

まとめ:雇入れ時の健康診断は労働条件次第で実施が必要

雇入れ時の健康診断について解説しました。ここで全体を振り返っておきましょう。

  • 雇入れ時の健康診断は法律で定められている
  • 契約期間と労働時間の条件に合致する場合に雇入れ時の健康診断が必要となる
  • ただし、法定項目を満たした健康診断を3ヵ月以内に実施していれば、健診診断書の提出をもって雇入れ時の健康診断とすることができる
  • 雇用形態は正社員だけではなく、契約社員、派遣社員、パート、アルバイトも対象
  • 費用は地域・健診クリニックによって異なる
  • 実施は原則、勤務日前まで
  • 業務上、健康診断が必要かの判断は産業医へ、タイミングなど法律面で迷ったら労基署に相談してから対応する

雇入れ時の健康診断は法律で定められている健康診断です。契約期間や労働時間の条件に合致すれば、正社員だけではなく、パートやアルバイトでも受診が必要となります。

基本は条件に合うかどうかで実施有無の判断をしていくようになりますが、企業や従業員の希望によって、それぞれの労働条件は異なります。そのため、ここで紹介した例に当てはまらず、「この従業員の場合は、どうしたら良いの?」と悩むことがあるかもしれません。

そのようなときは産業医に相談しつつ、労基署へ判断を仰ぐのが確実です。場合によっては、あとから労基署に指摘されるといった問題に発展する可能性もゼロではないため、しっかりと確認をした上で対応するようにしましょう。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。