産業医は職場に何人必要なのか?失敗しない産業医の選任方法について

職場で働く従業員の健康と安全を守るためには、医学の知見をもって産業医の存在が欠かせません。
産業医とは、従業員が健康に働けるかどうかをチェックし、必要であれば企業側に助言指導をする、会社が選任する医師のことです。産業医は従業員規模によって選任すべき人数が異なっています。
そこで本記事では、はじめて産業医を探している人事担当者や現在の産業医の入れ替えを考えている企業に向けて、職場に必要な産業医の人数や、産業医を雇用するタイミング、選任後にやるべき業務について解説します。
「すでに産業医探しをはじめている!」という企業向けに、優秀な産業医の選び方と紹介サービスの見極め方をまとめました。こちらもご参考にしてみてください。
従業員数によって必要な産業医の人数は異なる
産業医は、事業場の従業員数に応じて選任することが労働安全衛生法(第13条)により定められています。
職場に必要な産業医の人数は、以下のとおりです。

嘱託産業医と専属産業医の違い
上記の表に、「嘱託産業医」と「専属産業医」とあります。この2つの違いは、他の企業の産業医と兼任(掛け持ち)ができるかどうかです。
つまり、嘱託産業医は複数の企業で産業医として選任されることが可能ですが、専属産業医の場合は兼任はNGとなり、さらに事業場への常駐義務も発生します。
なぜ専属産業医が必要になるのかについては以下の記事で詳しく解説しています。従業員数1000人以上の大企業が対象になりますので当てはまる場合は要チェックです。
500人以上の事業場で専属産業医が必要な業務
有害業務に従事する従業員がいる職場の場合、従業員数が500人以上になると、専属産業医を選任する必要があります。
有害業務に該当する13の業務を以下で確認しておきましょう。
従業員100人以上で安全委員会の設置が必要となる12業種
- 多量の高熱物体を取扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- 多量の低温物体を取扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務
- 土石、獣毛等の塵埃又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- 異常気圧下における業務
- 削岩機、鋲打機などの使用によって、身体に著しい振動を与える業務
- 重量物の取扱い等重激な業務
- ボイラー製造など強烈な騒音を発する場所における業務
- 坑内における業務
- 深夜業を含む業務
- 水銀、砒素、黄燐、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、一酸化炭素、二硫化窒素、亜硫酸、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気、又は粉塵を発散する場所における業務
- 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
- その他厚生労働大臣が定める業務
産業医をどのタイミングで探しはじめるか?
会社の成長に伴い、従業員が50人を超えた、500人を超えたなど従業員が増加すれば産業医を増やす必要が出てきます。産業医を新たに選任するタイミングは、従業員が法定の人数を超えてから「14日以内」となります。
しかし、以下のような理由から14日以内のタイミングで産業医を選任することが難しい場合がほとんどです。
- 従業員の入退社により従業員数が安定しない
- 産業医の数が少なく、雇用が間に合わない
- 専属産業医を希望する産業医が見つからない

実際問題、産業医が必要な事業場の数に対して実働している産業医は足りない状況です。そのため産業医を探し始めると同時に、産業医以外の面で適切な健康管理体制を整えておくことが労務管理として重要なステップです。
たとえば、オンラインでの産業医面談を実施することで遠隔地のオフィスにも対応したり、保健師を増員することでハイリスク者を事前に察知する体制を整えたり。
産業医の選任はあくまでも健康管理体制を整える手段のひとつに過ぎません。焦ってスキルマッチしない産業医を選んでしまうほうが、企業としても労務リスクを抱えかねません。ですので、すでに選任している産業医や、産業医紹介サービスと相談しながら優秀な産業医を探すことをオススメします。
産業医を選任した後にやるべきこと
優秀な産業医を探すことができたら、ちゃんと産業医として働いてもらう準備が必要です。人事担当として産業医の選任直後に実施すべき業務を3つご紹介しましょう。
1.産業医選任報告の提出
産業医を選任した後は、所轄の労働基準監督署へ産業医選任報告書を提出する必要があります。
産業医選任報告書は、厚生労働省のサイトから用紙をダウンロードするか、「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を利用し、オンラインで申請書を作成しましょう。
総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告|厚生労働省
労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス|厚生労働省
産業医選任報告書を提出する際に必要な添付書類は、以下の2つです。
- 医師免許証の写し
- 産業医が「産業医選任報告書(別表)」に記載の種別に該当することを証明する書面(写し可)
具体的な書き方は以下の記事を参考にしてください。
2.自社の事業内容や働き方を理解してもらう
多くの企業では、上記のような定型的な報告・共有事項だけでなく時期やトレンドに合わせて身近なトピックを衛生講話に取り上げます。衛生講話によって従業員自身の健康意識を高めたり、職場環境を自発的に改善する体制を築くことが目的です。
産業医に十分に働いてもらうためには、あなたの企業がどんな事業をしていて、社員はどのような働き方をしているのかを理解してもらう必要があります。
経験豊富な産業医であれば、職場巡視や衛生委員会の時間を使って自発的に情報収集をしてくれます。しかし、事業内容や働き方そのものは人事の方が豊富な知見を持っていますよね。
具体的にどんな情報を共有すべきか、チェックリストを作成しましたので活用してみてください。
年間スケジュールの作成
産業医の職務は、大きく以下の5つの管理業務に分けられます。
- 総括管理
- 健康管理
- 作業管理
- 作業環境管理
- 労働衛生教育

各管理業務の中には、月単位で実施する健康診断やメンタルヘルス研修、面接など、多くの業務が含まれています。
これらを計画的に実施していくためには、産業医と相談しながら、年間単位のスケジュール整理をしておくことをおすすめします。企業側は、社内の情報共有や事前周知を通じて、産業医の年間スケジュールを問題なく進行できるよう協力しましょう。
まとめ
産業医を新しく選任する時、初めて選ぶ企業であれ何度か経験した企業であれ、自分の会社にマッチした優秀な産業医を見つけるにはどうしても時間がかかります。
また、産業医の選任は法律で決まっている義務ではありますが、焦ってミスマッチな産業医を選んでしまうことで別の労務リスクを抱えてしまうこともあります。
産業医を探す・選ぶこと自体は紹介サービスを利用することで解消できる問題です。一方で、探しはじめるタイミングを見極めたり、選任後の業務連携については盲点になってしまっている人事担当の方も多いかと思います。
本記事をあらためて読み直して、適切なタイミングで産業医が探し始められるように準備しておいてくださいね。