管理職が部下の「いつもと違う」状態に気づき、メンタルヘルスの悪化をいち早く察知して適切な措置を行うラインケアは、従業員のメンタルヘルス対策に欠かせません。適切なラインケアの実施は、従業員のパフォーマンスや生産性の向上につながります。しかし、管理職自身が支援を受けられず、一人でストレスや業務を抱え込んでしまい、メンタルヘルス不調に陥る状況が少なくありません。管理職のメンタルヘルス対策を強化することは離職防止に加えて、組織全体のワークエンゲージメントを向上させます。この記事では、管理職のメンタルヘルス不調が企業に与える影響と具体的な対策を解説します。メンタルヘルス対策を強化したい人事の方は、ぜひ最後までお読みください。なお、管理職のメンタルヘルス対策を支援する方法として、外部の専門サービスを活用するのも有効です。管理職のメンタルヘルス不調が企業に与える影響管理職のメンタルヘルス不調が企業に与える影響は以下です。管理職の離職につながる業務の生産性が低下する企業の法的責任を問われるリスクがあるそれぞれ詳しく解説します。管理職の離職につながる管理職のメンタルヘルス不調は、離職リスクを高める要因になるため早期の対応が必要です。管理職は企業文化やチームとの相性がよく、業務遂行スキルを持ち合わせた人物が任命されるため、代替できる人材は限られています。さらに、一般職と比べて育成に時間がかかり、採用にも高いコストが発生するため、管理職の離職は企業に大きな影響を与えます。さらに、管理職はその役職ゆえにプレッシャーや責任の重さなどからストレスを受けやすく、健康に大きな悪影響を及ぼしやすいといえます。日本・韓国・欧州 8カ国を対象とした、日本と韓国の国際共同研究の論文によると「日本の管理職・専門職男性の死亡率は他の職業階層よりも高い」と発表されています。参考:日本と韓国では管理職・専門職男性の死亡率が高い ~日本・韓国・欧州 8 カ国を対象とした国|東京大学企業が管理職のメンタルヘルス対策に取り組むことは、離職者を減らし健康的に勤め続けてもらうためには欠かせないといえるでしょう。業務の生産性が低下する管理職のメンタルヘルス不調は、業務の生産性や企業全体の業績に深刻な影響を及ぼすため、早急な対応が必要です。管理職は、自分の業務に加えてチームのマネジメントや人材管理、部下のメンタルヘルスケアを担います。その管理職がメンタルヘルス不調に陥ると、部下のメンタルヘルス不調や組織の問題に気づく余裕がなくなるのです。例えば、管理職がメンタルヘルス不調を抱えている場合、判断力や集中力が低下し、部下への適切な指示やフォローの不足につながります。このような状況では、部下は上司に仕事や悩みを相談しづらくなり、組織の問題が放置されることが増えてしまうでしょう。結果として、組織内の連携が崩れ、部署やチーム全体の生産性の低下につながるリスクが高まります。企業全体の業績にも影響を与える可能性があるため、日ごろからのサポートやメンタルケア体制が欠かせません。企業の法的責任を問われるリスクがある業務が原因で従業員のメンタルヘルス不調が発生した場合、労働災害として認められることがあります。また、労働契約法第5条では以下のように定めています。使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。出典:労働契約法法令遵守が行われていない企業は、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されることがあります。【電通事件】1990年に入社した20代の男性社員が長時間労働の末、うつ病を発症し自殺した事件。裁判では長時間労働がうつ病と自殺の原因であると認められ、会社が安全配慮義務を怠ったとして、遺族に対し約1億2,600万円の賠償が命じられた。参考:うつ病による過労自殺について使用者の安全配慮義務違反を認めるリーディングケースとなった裁判事例(電通事件)この安全配慮義務は管理職にも適用されますが、管理職(管理監督者)は労働基準法が定める労働時間の規程が適用されないこともあり、健康管理が見落とされがちです。企業が管理職への安全配慮義務を怠ると、企業法的責任を問われる可能性があります。また、企業が従業員の健康管理に取り組む際に法令遵守が徹底されていなければ、健康経営優良法人認定から除外される可能性があります。企業は法令がきちんと守られているか定期的に確認し、対策を立てることが大切です。管理職のメンタルヘルス不調を引き起こす具体的なストレス要因「人手不足で業務が回らず、結局自分がすべてやらなければいけない」という悩みは、多くの中間管理職が抱えている悩みです。特に経験豊富な管理職は、部下になかなか業務を任せられず、実務もこなす「プレイングマネージャー」としての負担が大きくなりがちです。近年の働き方改革やテレワークの導入により従業員の働き方は見直されていますが、管理職は残業しにくい環境や新たな働き方への適応が必要で、業務を抱え込みやすくなっています。加えて、上司と部下の板挟み状態に陥りやすく、上級管理職や経営層からのプレッシャーや頻繁に変わる方針にも精神的な負担が増しています。さらに、部下のメンタルケアやハラスメント対策においても、適切な対応を相談できる相手がいないため、一人で抱え込むことが多いのです。こうしたさまざまな要因によって、管理職自身がメンタルヘルス不調を引き起こしやすくなり、組織全体に悪影響を及ぼす可能性が高まります。管理職のメンタルケアは組織のワークエンゲージメント向上につながる企業が管理職のメンタルヘルス不調を防ぎ、適切にケアすることは組織のパフォーマンス向上やワークエンゲージメントを高めるために欠かせません。ワークエンゲージメントとは、「仕事にやりがいや誇りを感じながら熱意を持って働いている状態」を指します。流通経済大学の佐藤佑樹氏による論文によると、「部下が上司から支援されていると感じると、会社からも支援されていると認識しやすくなる」とされています。つまり、管理職が部下に適切な支援をすることは、従業員の組織への貢献意欲を高め、組織全体のパフォーマンスやワークエンゲージメント向上に寄与するのです。参考:知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support) 研究の展望|流通経済大学 佐藤佑樹例えば、サンデン・ビジネスアソシエイト株式会社では、管理職が部下の意見を反映して職場環境を整え、カフェコーナーの設置などリラックスできる場所を提供しています。こうした取り組みの結果、部下の満足度は向上し、ストレスチェックの結果も良好です。管理職のサポートが、部下のモチベーションや組織のパフォーマンス向上につながった事例といえます。出典:サンデン・ビジネスアソシエイト株式会社|職場のメンタルヘルス対策の取り組み事例|こころの耳管理職のメンタルヘルスが保たれることで、従業員のワークエンゲージメントが向上し、組織全体の成長につながります。そのため、管理職のメンタルケアは非常に重要です。人事が行うべき管理職へのメンタルヘルス不調対策メンタルヘルス対策に力を入れる企業は増えてきましたが、まだまだ十分とはいえません。ここでは、人事が行うべき管理職への具体的なメンタルヘルス対策を5つ紹介します。ストレスチェックの集団分析を活用する管理職研修にメンタルヘルス不調への対応を組み込む管理職同士の横のつながりを作る工夫をする管理職との連携を強化し、部署の問題を早期に発見する外部の専門機関の支援を活用し、メンタルケア体制を強化するなお、以下の資料はメンタルヘルス不調の原因を早期に発見し、適切に対応するための仕組み作りや対策をまとめた資料です。ぜひ、企業内でのメンタルヘルス対策にお役立てください。▶お役立ち資料「人事だからできるメンタルヘルス対策」1.ストレスチェックの集団分析を活用するストレスチェックの集団分析を活用することで、部署全体のストレス要因が把握しやすくなり、根本的な問題を発見する助けになります。ストレスチェックの集団分析で悪い結果が出た部署では、管理職に負荷がかかっている可能性があります。管理職の人数が多い会社では、部門の管理職、若手管理職・中堅管理職などのセグメントで集団分析も行うと、より具体的な課題が見えてくるでしょう。例えば、若手管理職は役割の変化やマネジメントスキルの不足に悩みを感じることが多い一方、中堅管理職は人手不足で部下の育成が進まないことや、時間が足りないなど異なる悩みを抱えています。このように、管理職のセグメントごとに分析することで、原因を特定し、それぞれに適した対策を講じることが可能です。さらに、ハイリスクのセグメントには専門職がヒアリングを行い、早期の問題解決を図ることが重要です。参照:ストレスチェック制度の 効果的な実施と活用に向けて|厚生労働省ストレスチェックの集団分析について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。【記事】ストレスチェックの集団分析とは?結果の見方や活用事例をわかりやすく解説2.管理職研修にメンタルヘルス不調への対応を組み込む管理職研修においてセルフケアの方法を組み込むことは、管理職のメンタルヘルス不調を予防する効果的な対策となります。例えば、定期的な休息の取り方やストレス軽減のために、リラクゼーション技法やマインドフルネスなどを学ぶことも有効です。ただし、研修で知識を得るだけでは、実際に活用できない場合もあります。そのため、研修ではワークなどを用意して、従業員が自分に合ったセルフケアを知る機会を作ることが重要です。また、管理職が困ったときにすぐに活用できるよう、企業は毎月の社内ニュースレターやメールなどで、セルフケアの重要性や利用可能なサポートを定期的にアナウンスする方法もあります。以下のサイトでは、忙しい管理職でも手軽に自身の状態を確認できるように、5〜15分程度で疲労蓄積度のセルフチェックやセルフケアについて学べます。ぜひ、企業内でのメンタルヘルス対策としてご活用ください。働く人の疲労蓄積度セルフチェック(厚生労働省)e-ラーニングで学ぶ「15分でわかるセルフケア」(厚生労働省)メンタルヘルス対策にもつながる研修について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。【記事】メンタルヘルス対策に有効な研修の活用方法をわかりやすく解説3.管理職同士の横のつながりを作る工夫をする中間管理職は上司と部下の板挟みになり孤独感を覚えやすい傾向にあるため、同じ管理職同士のつながりをより強化することが大切です。管理職同士の交流は共感や励ましを得やすく、ストレス解消にも役立ちます。定期的に管理職同士が交流しやすい環境や社内イベントなどを開催し、日ごろから管理職同士が交流できる機会を提供しましょう。▼管理職同士のつながりを作る具体例ランチや休憩室などを利用して、管理職同士が相談しやすい環境を作る管理監督者への報告会などをする際に、管理職同士で日頃の悩みを相談し合う時間を設ける。企業は管理職が精神的に孤立しないように、管理職同士の横のつながりを作るためのサポートを行いましょう。4.管理職との連携を強化し、部署の問題を早期に発見する人事部はストレスチェックや定期的な職場巡回などを通じて、問題を早期に発見し、迅速な対応を行うことが重要です。このような取り組みを通じて、部署内の問題の深刻化を防ぎ、管理職が一人で抱え込むことのない間接的なメンタルサポートも可能になります。また、人事部はストレスチェックのデータ把握だけでなく管理職と定期的に面談し、コミュニケーションを取ることが大切です。定期的な対話を通じて、現場の課題や管理職の悩みを共有することで、問題解決をしやすくなります。加えて、管理職は日々の成果を褒められることが少ないため、日々の努力をねぎらい、信頼関係を築くことも大切です。このように、管理職との連携を強化することで、問題の早期解決につながります。人事部は管理職との信頼関係を深め、サポート体制を充実させるように努めましょう。参考:職場における心の健康づくり|厚生労働省職場の問題点把握に欠かせない職場巡視について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。【記事】衛生管理者の職場巡視、産業医と違うのか?役割と実施方法を解説します。5.外部の専門機関の支援を活用し、メンタルケア体制を強化する企業内で管理職のメンタルヘルス対策をすべて行うには限界があります。人事部だけでは対応が難しいケースや、専門的な知識が必要な場合もあるため、外部の専門機関の支援を活用することが有効です。具体的には、外部のメンタルヘルス相談窓口の設置や専門のカウンセリング機関を活用することで、管理職が気軽に相談できる環境を整えることが可能です。例えば、Carelyは外部の専門機関として企業のメンタルヘルス対応を支援しています。企業内だけでは人手や知見が不足しがちな不調者予防や休復職者のフォローを、データの活用と専門家の介入によってサポートし、メンタルヘルス対策を強化します。企業はこうした外部の専門機関を活用して、管理職が安心して働ける環境作りに努めましょう。管理職へのメンタルケアを重視して不調を予防しよう管理職が抱えるストレス要因を理解し、適切なケアを行うことは組織全体のワークエンゲージメントの向上につながります。管理職のメンタルヘルス不調は、業務の生産性低下や離職につながるほか、企業の法的責任が問われるリスクもあるため、早急な対策が求められます。企業はストレスチェックの集団分析や管理職研修、管理職同士のつながりを作る支援が重要です。同時に外部の専門機関も活用し、問題を早期に解決できる体制を整えましょう。こうした外部の専門サポートも活用して管理職の健康を守り、企業の健全な成長を支えていきましょう。