「健康投資管理会計ガイドライン」を会計士が人事総務向けに解説

「結局、使い物にならないんじゃないの??」
2020年6月に発表された『健康投資管理会計ガイドライン』。これは健康経営のPDCAを回している企業向けに、健康経営への投資対効果を見える化するために経済産業省が制定したガイドラインです。
しかし、
「健康」という定量化しづらい成果を管理する意味はあるのか?
「会計」に馴染みがない人事や総務が使いこなすことができるのか?
このような疑問がわき起こり、まだまだ活用が進んでいません。
そこでガイドラインの内容を、労働安全衛生法に精通した会計士が人事総務向けに分かりやすく解説しました。健康経営優良法人の連続認定を狙っている企業や、健康経営サービス導入したい推進担当者の方には、ぜひお読みいただきたい内容です。
解説者
小松和明 / 公認会計士
地方銀行、監査法人を経てiCAREへ入社。 地方銀行では主に法人融資、個人営業を担当。 監査法人では会計監査業務、会計アドバイザリー業務を中心に従事。 現在はiCAREにて財務経理を中心に経営企画、法務業務等に従事。
関連資料
本記事は以下の健康投資管理会計ガイドラインの資料をもとに、健康経営の実態をふまえた解説を加えたものになります。関連資料がいくつかありますのでダウンロードしておいてください。
健康経営を取り組み続けることが難しくなってきた
はじめまして、会計士の小松です。本記事では、2021年2月に開催した第2回健康経営サミットで解説しました『数字が視える健康経営』の内容をもとに、より幅広い企業向けに分かりやすい解説に落とし込みました。
本記事をご覧のあなたは、すでに健康経営あるいは健康経営優良法人についてはご存知かと思います。ですが、「健康投資」についてはまだまだ理解が追いついていない面があるかもしれません。あらためて復習しておきましょう。
なぜ、「健康投資」が注目され始めたのか?
近年は健康経営の顕彰制度が整備されてきたことから、健康経営に取り組む企業が毎年増加しています。以下の図は、経済産業省が実施する健康経営優良法人の認定企業数です。大企業と中小企業を合わせると、8400法人以上が取り組んでいます。

これだけ健康経営に取り組む企業が増えている一方で、「本当に健康経営って業績の向上や会社のブランディングにつながってるの?」という疑問に明確に答えられる事例は数えるほどしかありません。
また、健康経営の取り組みにはお金も時間もかかります。そのため継続して取り組みを続けるためには、効果分析や評価方法を確立することが必要でした。
つまり「健康投資」を見える化することで、健康経営の成果を客観的に測定して”内部”と”外部”に伝えることが、健康経営に取り組み続ける企業には必要になってきたのです。
管理会計とは、企業内部向けの会計手法
今回、「健康投資の見える化」検討委員会では健康投資管理会計を以下のように規定しています。
(健康経営の)活動を行う費用とその活動によって得られる効果を認識し、可能な限り客観的に測定、伝達する仕組み
経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」P4より(PDF)
分かりにくいですね。そもそも「管理会計」という仕組みに慣れていない担当者にとっては、なかなか理解しづらい定義です。そこでカンタンに管理会計をご説明します。
いわゆる「会計」には大きく分けて2種類あります。ひとつが、外部向けの会計。もうひとつが内部向けの会計です。

一般的には、決算書や財務諸表に代表される財務会計をイメージされる方が多いかと思います。これらは外部向けの仕組みであり、様々な業種や規模の企業を見比べる必要があるため、統一した基準が定められています。
一方で、管理会計とは他社との比較ではなく、自社内で意思決定する材料として扱う仕組みです。ですので、どういった計算や評価を行うかは企業ごとに自由に決めることができるのです。
健康経営に取り組むなら、他社と比較したい
管理会計とは企業内部向けの仕組みですので、具体的な方法については自由に決めることができます。そうは言っても、健康経営の目的は内部での評価にとどまりませんよね?
健康経営に取り組むもっとも大きな目的のひとつが、企業ブランディングや採用力の強化です。
つまり企業外部に向けて健康経営の効果をアピールする必要があります。
そこで管理会計の仕組みを応用して、
- 健康経営に取り組んで一定の成果を出している企業が
- どれくらいの投資(費用・時間・人員)をかけた結果
- どのような効果が達成できたのかを
- 客観的に計測できる
ように定められたのが健康投資管理会計であり、そのガイドラインなのです。

以前から、「健康経営がどれくらいの効果があるのか?」については健康経営優良法人や銘柄企業において試行錯誤が繰り返されていました。それこそが管理会計の仕組みを利用していたものだったのですが、各社独自の方法では他社の取り組みを参考にしたり、客観的な評価をつけることができないままです。
そこで健康経営に取り組む企業に限定して、統一した評価手法をとりいれた「健康投資管理会計」がこのたび発表された。という前提をまず知っていただけると、このあとの話が理解しやすくなります。
健康投資管理会計が使える企業、使えない企業
ここまでの説明でお分かりかもしれませんが、健康投資管理会計を使ってメリットがある企業は限られています。以下の図でも示されているとおり、「これから健康経営の取り組みを始める」企業においてはまだ投資も始まっていませんし、客観的に測る効果も現れていないのでわざわざ管理会計をつけるメリットはありません。

では、「健康経営のPDCAを回している企業」とは具体的にどのような企業なのか。3つのケースに分けてご説明します。
ケース1:すでに健康経営の各種認定を取得している企業
健康経営の認定はいくつかありますが、代表的なものは以下の2つです。
経済産業省『健康経営優良法人』
経済産業省が実施する顕彰制度です。全国の企業が対象であり、近年は企業だけでなく就活生への知名度もあがっていることから認定企業が毎年増加しています。
中小規模法人部門・大規模法人部門と従業員規模ごとに分けれられていると同時に、上位500社のみに授けられる冠(ブライト500・ホワイト500)がありより取得の難易度は高くなります。
健保連東京連合会『銀の認定・金の認定』
健康保険組合の連合組織である健保連、その東京連合会が実施している顕彰制度です。東京都内の健康保険組合に加入している企業が参加できる認定制度ですが、企業の所在地が他の都道府県でも健保が東京都内であれば対象に含まれます。
健康経営優良法人に比べ、健康施策の取組状況を証明しなければならない項目が多く、特に「金の認定」は取得難易度が高い制度です。
健康投資管理会計にメリットがある企業としては、少なくとも上記の認定を取得している企業であることが条件になります。あるいは、より上位の(難易度の高い)認定を取得しようとチャレンジしたい企業にとっては、管理会計のデータが加点対象になるため非常にメリットが大きくなります。
ケース2:投資家や銀行などに経営状況を伝える機会がある企業
認定取得まではしていないけれども健康経営には取り組んでいる企業のうち、投資家や銀行などの外部機関へ経営状況を説明する必要がある企業では、このガイドラインに沿って管理会計を実施することにメリットがあります。
たとえば、上場企業。
CSRやSDGsといった観点や、コーポレートブランディングを強化する観点から、健康経営に積極的に取り組んでいることをアピールすることは有用です。
しかし、ただ単に「健康診断100%実施しています」「栄養指導セミナーがあります」だけの説明では十分なアピールとはいえないでしょう。またIRに記載する場合には、どれくらい投資しているのかも明示する必要があります。
たとえば、ベンチャー・スタートアップ。
一般的に従業員に対するサポートが薄いと思われているベンチャー・スタートアップですが、実は多くの企業が様々な制度を用意しています。とはいえ、従来のような福利厚生制度では投資対効果を計測できないため、代わりに健康経営の取り組みを従業員サポート制度として取り入れているのです。
たとえば、入札など公的事業への参画。
行政や公益法人などから仕事を得る場合に行われる入札や、随意契約の際の行われる審査において、健康経営に取り組んでいることが一定の加点になる場合があります。特に健康経営優良法人の顕彰制度では、地方創生を目的に中小企業での認定取得を推進しています。
ケース3:経営者に取り組みをアピールしたい担当者
最後は少し毛色が異なりますが、健康経営を推進する担当者の活躍を経営者にアピールする方法として、健康投資管理会計を使うことも有用です。
企業内で健康経営を担当する方の多くが、本来業務との兼務ですよね。たとえば、人事・総務・広報・産業保健スタッフなど、いわゆる管理部だったりバックオフィスと呼ばれる部門の方です。これらの部門は、自分の仕事の成果を客観的に見せることが難しい業務ばかりです。
とりわけ健康経営の取り組みについては、経営者の理解がなければ進めることが難しいものです。ですので、健康投資管理会計の仕組みを上手に使って、健康経営担当者としての仕事をアピールしてみてはいかがでしょうか。
ステップ1:健康投資の戦略マップを作成する
それでは実際に、健康投資管理会計をはじめるためにガイドラインに沿って進めていきましょう。ガイドライン全体の流れは以下の図のようになっています。

もう少し具体的にご説明していきましょう。
まずは以下の作業フォーマット(エクセルシート)をダウンロードしてください。ここからはこの作業フォーマットに沿って作業を進めていきます。
健康経営の戦略設定
└達成目標の設定
└取り組み施策の検討

健康経営の実施
└健康経営施策の実施
└健康投資額を把握

取組の評価
└投資額と効果を分析
└KPIの達成状況を把握

健康経営で解決したい課題を決める(選ぶ)
それでは戦略マップを埋めていきます。作業フォーマットの[①戦略マップ]シートをご準備ください。

この戦略マップでは主に3つの要素を埋めていきます。マップの右から
- 健康経営で解決したい経営課題
- 健康経営の取り組み(=投資)によって改善する指標(=KPI)
- 実施する健康施策とそのための投資
埋める順番は右から、つまり経営課題から埋めていくことが推奨されています・・・とはいえ、イチ担当者の立場ではどのような項目が「経営課題」にあたるのか創造しづらいと思います。
実はガイドライン内においても経営課題の具体的な例示はなく、完全に企業任せとなっています。そこで本記事ではいくつかの健康経営によって解決できる課題リストを作成しました。以下の中から、自社の状況にマッチしそうな課題を選んでみてください。
- 社員の採用力強化
- コーポレートブランディングの強化
- 優秀な人材の定着率・離職率改善
- 従業員個人の生産性(パフォーマンス)改善
- 組織としての人材の偏りを改善
- (単一健保の場合)医療費の削減
なお、経営課題を選ぶ際にはどれか1つに絞ることが重要です。課題が複数発生してしまうと、このあとで見る健康KPIや施策の投資対効果の計測が複雑になってしまい、「結局使い物にならなかった」ということが管理会計ではよくある失敗です。
直近1年のスパンで、解決に向けて取り組みたい経営課題を1つだけ選ぶようにしてください。
健康KPIをピックアップして、健康課題と紐付ける
経営課題をえらんだら、健康投資効果を当てはめていきます。あらためて戦略マップをご覧ください。
マップの真ん中にある「健康投資効果」には3種類の指標があります。これらの健康に関する指標のことを健康KPIと呼びます。健康KPIは、ガイドラインにていくつか例示されていますので参考にしみてましょう。

これまでの健康経営の取り組みにおいては、一番左の指標「施策の取組状況に関する指標」ばかりが取り上げられてきました。
たとえば、マラソン大会の参加率や栄養指導研修の満足度(アンケート)など・・・
しかし、本当にマラソン大会に社員の80%が参加したからといって、日常の労働生産性がアップした!軽々課題の解決につながった!とアピールできるでしょうか?
難しいですよね。
健康KPIを設定する際にはいくつかの段階を経て、経営課題の解決につながるように設計することが肝心です。そこでガイドラインでは上記の図のような三段階の健康KPIが具体的に例示されています。
- 健康投資施策の取り組み状況に関する指標
- 従業員等の意識変容・行動変容に関する指標
- 健康関連の最終的な目標指標
経営課題から紐付けるので一番右の指標[健康関連の最終的な目標指標]から選んでいくことが理想ではあるのですが、実際に作業をしてみると非常に難しいことが分かります。
たとえば、健康診断の再検査率や肥満度が改善されたから人材の定着率があがる。とは結びつけづらいですよね。その他の項目についても、経営課題(つまり組織的な指標)を健康課題(つまり個人的な指標)の因果関係を正確に把握することは、それひとつで研究論文にできるほどです。
そのため健康経営の担当者としては、左の取り組み指標から順番に記入するほうが作業しやすいはずです。
健康KPIの当てはめは、産業医・保健師と相談しながら
おそらくここまでの作業を、健康経営の担当者やプロジェクトメンバーで進めていくことになると思うのですが、健康KPIを当てはめていく段階においては産業医や保健師といった専門家の意見を取り入れることを強くおすすめします。
なぜなら、健康診断やストレスチェックの結果、あるいは休職者や新入社員たちの健康情報にアクセスできる人は社内でも限られているからです。
健康情報はあくまでも個人情報であるため、健康経営の担当者が自由に閲覧・データ加工できる範囲は限られています。一方で、産業保健スタッフの方であれば医療職としてすべての健康情報にアクセスできます。(※もちろん社内規定によっては制限がかかることもあります。)
昨年と今年の健康診断の結果を比較したり、高ストレス者の詳細分析によって生産性低下の原因を探るには、どうしても産業保健スタッフの協力が必要不可欠になります。
戦略マップを策定する段階で相談し、協力してもらうことで後戻りの少ない計画を立てるようになります。
取り組む健康施策の候補をリストアップする
戦略マップの作成、最後に健康施策を決めていきます。とはいえ、実際に戦略マップを作成する上では上記の健康KPIを探す話し合いの中で、自然と健康施策についても候補がいくつもリストアップされてきているはずです。
また、すでに健康経営優良法人や健康企業宣言を実施している企業ならば、これまでに実施ている健康経営の取り組みがありますよね。ですので、健康施策のリストアップに難しい点はないかと思います。
ここまでは健康経営を取り組む前の計画として進める段階です。年度ごとに計画をたてる企業が多いかと思いますが、年度の途中であってもなるべく早い段階で戦略マップを仕上げておいてください。
ステップ2とステップ3は、健康経営の取組が一通り実施した後に振り返る段階で記入します。たとえば、健康経営優良法人の取得を目指している企業であれば、例年8月から健康経営度調査の提出がはじまるので、4月-8月までの間に前年度の取組を振り返るといいでしょう。
ステップ2:施策・指標ごとの健康投資額を把握する
ステップ1で作成した戦略マップをもとに、次は健康施策と健康KPIごとの投資額を計算するフェーズになります。
戦略マップでは頭を使う作業が多かったのですが、ステップ2についてはエクセルに数値を記入していくだけの作業ですので安心してください。それでは進めていきましょう。
戦略マップから作業用シートに転記する
作業フォーマットのシート[健康投資シート]を作成していくのですが、実はこのシートにはすでにエクセルの関数がびっしりと埋められています。数値などは入力しないよう注意してください。
実際の入力作業はシート[健康投資作業用シート]を使います。

戦略マップに記載した健康施策を一番左の欄に入力します。次に、各施策をさらにイベントや研修ごとにブレイクダウンします。
たとえば、「メンタルヘルスの研修」という健康施策であれば、部門長向け・新入社員向け・大阪支社向けなど複数回に分けて実施することがあります。その場合には、かかってくる費用が異なってくると思いますので分けて記入します。
また右の欄には、戦略マップで記載した「健康関連の最終的な目標指標」を記入します。
この2つ(施策と目標指標)を入力することで、[健康投資シート]で複数の観点からかけ合わせた費用を自動算出してくれます。作業フォーマットエクセルでもっとも肝になる部分ですので、関数をこわさないように慎重に入力をすすめていきましょう。
費用の算出は財務・経理担当と協力して進める
つぎに、健康施策ごとの費用を次の4つの項目にグルーピングして記入していきます。
外注費 | 内製ではなく外部に委託した場合の費用 |
減価償却費 | 設備やツールを導入した場合の減価償却費 |
人件費 | 健康経営や施策の担当者、産業保健スタッフにかかる人件費 |
その他経費 | 健康投資を管理・実行に移すために必要な経費 |
また具体的にどのような費用が健康投資にあたるのかについては、ガイドラインにて例示されています。ただし、あくまでも管理会計のための費用計上ですので、最終的には各社毎に基準を決めて費用計上するかどうかは判断する必要があります。

ご覧いただくと分かるように、人事総務や産業保健スタッフだけではこれらの費用がいくらなのか。そもそもどこを見れば費用が分かるのかを把握することは難しいと思います。
そのため費用の算出にあたっては、財務・経理の担当者や税理士、会計士といった専門家の力を借りる必要があります。
「なんだか想像以上に手間がかかって、メンドウだな」
と思われましたか?確かに、健康経営を取り組む上でここまで厳格な管理会計をするメリットがあるのかは疑問に思われます。
大事なことは数字を管理することではなく、健康経営の取組が着実にできていることであり、健康経営によって何らかの企業成長につながることです。
だからこそ、健康投資管理会計のすべてを健康経営の担当者が抱え込むのではなく、産業医や財務・経理担当などの専門家の方と協力して進めることが重要になってきます。こうした仕組みの中で、お金が絡んでくる話ですので必然的に経営者の方にも、健康経営に関する話題が耳に入るようになります。
ステップ3:KPIの達成状況と、投資対効果を分析する
健康投資管理会計のさいごのステップとして、KPIの達成状況と投資対効果を分析します。
作業するシートは[健康投資効果シート]になります。それでは見てみましょう。

健康KPIを計測する要は、アンケートの回答率と集計のしやすさ
あらためて健康経営の取組を評価する指標、つまり健康KPIの種類をおさらいしておきましょう。次の3種類がありました。
- 健康投資施策の取り組み状況に関する指標
- 従業員等の意識変容・行動変容に関する指標
- 健康関連の最終的な目標指標
このうち1と2の指標を計測するための方法としてアンケートがよく使われます。しかし、実はアンケートによる効果測定は難易度が高いことをご存知でしょうか。
たとえば、栄養指導研修を実施した際に「飲酒の量が減った」という回答が増えたかどうかを、従業員の行動変容につながる健康KPIとして設定したとします。このときアンケートで回答を得るのですが、回答率が低かったり、ある特定の部署や年代の人の回答漏れがあったりすると正しい指標の計測ができません。
また紙でのアンケートを実施してしまうと、あとで集計して分析するためにエクセルへ転記する作業が発生してしまいます。これでは手間がかかるだけでなく、結果の反映に時間がかかってしまいます。
ですので、アンケートによる健康KPIの測定をする場合には以下のポイントに気を付けて、アンケートを作成しておくと良いでしょう。
アンケートの回答率をあげる工夫
- 質問数を7つ以下に抑える
- 回答方法は可能な限り選択式とする
- 記述式の質問は最後の方にまとめる
- アンケートは事前配布しておき、記入する時間を設ける
- 紙だけでなくWEB形式のアンケートを採用する
アンケートの集計・分析をカンタンにする工夫
- Googleフォームなど自動集計できるサービスを利用する
- 属性情報(年齢・所属部署・入社年月日など)を人事情報と結びつける
- 回答方式は可能な限り選択式とする
- 施策ごとに共通の質問項目を用意する
メンタルヘルスの計測方法
近年、働く人の健康を語る上で欠かせないのが精神的な健康、つまりメンタルヘルスですよね。
フィジカルな健康状態は健康診断の結果を集計・分析することで、定量的に改善したかどうかを測ることができます。しかし、メンタルヘルスについては定量的な計測方法があまり知られていません。
そこでオススメしている計測方法は、ストレスチェックの集団分析を活用した方法です。
健康経営に取り組んでいる企業であれば、本社はもちろん50名未満の小規模事業所でもストレスチェックを実施ているはずです。(各認定の基準に記載されているため)では、集団分析をどれくらい詳細にチェックしていますか?

ストレスチェックの集団分析を上手に活用する方法については、保健師による解説セミナーがあります。ご興味がある担当者の方は以下のリンクからお申し込みください。
健康投資管理会計をはじめるときの、想定される課題と解決策
お疲れさまです、ここまで『健康投資管理会計ガイドライン』を利用する手順をご説明してきました。非常に長い内容となってしまいましたが、実際に作業をする際には改めて読み直していただけたらと幸いです。
それでは最後に、健康投資管理会計をはじめるにあたり、よくある疑問や想定される実務上の課題についての解決策をまとめておきました。ぜひ参考にしてみてください。
わざわざ手間をかけて、管理会計をする理由は?
そうですね、本記事を読んでいただいた方であれば痛感いただけたと思いますが、健康投資管理会計を実施することは正直メンドクサイ作業です。
それでも、なぜ管理会計が求められているかというと「測定できないものに責任を負うべきではない」からだと私は考えています。これは著名な経営学者であるピーター・ドラッカーの言葉です。
これまでの健康経営の取組はどうしても「健康」側に重心が置かれていました。しかし、健康に関する取組にはお金も時間も人手もかかります。そのため、「経営」側の視点でも取り組みを可視化するべきであり、そのための管理会計の仕組みなのです。
健康施策と経営課題の間に、相関関係があるかを証明できないのですが?
たとえば、ガイドラインの戦略マップを例に考えてみましょう。

この図の例では、食事セミナーや生活習慣に関するメール配信といった健康施策が、最終的に個人のパフォーマンス(生産性の向上)につながっているように描かれています。
確かに、実際に生産性の向上につながっているかどうか、つまり因果関係があるかどうかはわかりません。これを証明するためにはそれこそ研究論文をいくつも書けるほどになってしまいます。
戦略マップの役割は因果関係を示すものではなく、あくまでも「健康経営に投資することを社内合意とる」ためのツールだと考えてください。つまり投資するかどうかを判断する経営陣や、実際に取り組みを支える産業保健スタッフと、健康経営の担当者が認識をそろえるためのツールです。
また戦略マップは健康経営の準備段階で作成するものです。実際にその取り組みが本当に成果があったかどうかは、取り組みを実施した後に行う健康KPIの測定や投資対効果の分析によって判定するものです。
健康投資管理会計は、使うタイミングや作業の目的が重要ですので、その点に注目して本記事を参考にしてください。
健康投資のうち、人件費の算出方法は?
ガイドラインでは、健康投資の費用を4つのグループで分けることが推奨されています。
外注費 | 内製ではなく外部に委託した場合の費用 |
減価償却費 | 設備やツールを導入した場合の減価償却費 |
人件費 | 健康経営や施策の担当者、産業保健スタッフにかかる人件費 |
その他経費 | 健康投資を管理・実行に移すために必要な経費 |
このうち、外注費や減価償却費は算出しやすいのですが、内製で行う場合の人件費の算出は確かに悩ましいところがあります。
たとえば、「生活習慣改善に関するメール配信」という取り組みに対して、産業保健師が毎週1時間かけて実行していた場合に、この保健師の時給を計算して人件費として計上するかどうか。という問題ですね。
そもそも管理会計とは、企業内部での意思決定を助けるための仕組みですので企業毎に自由に管理する基準をたてることができます。ですので人件費の算出方法も自由ではあります。
しかしながら、人件費をまったく考慮しない計算では実体を表さない会計となってしまいますので、おすすめの方法としてはあらかじめ担当者ごとの単価を決めておく方法があります。
- 健康経営の担当者が一日(半日)働いた場合の単価
- 産業保健師が一日(半日)働いた場合の単価
- 一般の社員が・・・
- 経営陣が・・・
健康投資管理会計は、先進企業でもまだまだ試行錯誤の段階
健康投資管理会計ガイドラインは2020年6月に発表されたばかりです。実際に健康投資管理会計を活用する場面としては、2021年度が初めてになります。
今回の解説記事を書くにあたって、健康経営銘柄を取得している先進企業ではどのような仕組みで健康経営の効果測定をしているのかを調べてみました。一部上場企業であり、CHO(最高健康責任者)を設置しているような企業であっても、まだまだ試行錯誤の段階であり、今回のガイドラインについても100%活用できるようなものではないとレポートされていました。
まさに「健康」という数値だけでは測れないものを客観的に計測しようとする試みですので、健康経営に取り組み始めたばかりの企業ではなかなかメリットを感じづらい仕組みかと思います。
一方、ESGやSDGsへの投資が注目されている世の中の流れを見ていると、健康投資管理会計はその先駆けとなる取り組みであることは間違いありません。
私たちも引き続き、健康経営・健康投資管理会計について担当者の方に役立つノウハウをお伝えできるように情報収集を続けてまいりますので、期待してお待ちいただければと思います。
それでは読了いただき、ありがとうございました。