ストレスチェックを拒否させない!今すぐすべき5つの施策

企業にとってストレスチェックの実施は義務ですが、拒否する従業員がいるのが実状です。ストレスチェックの受検を拒否されると、ストレス過多で問題を抱えている従業員を見逃し、適切なケアを行う機会を失うことにつながりかねません。
そして、この拒否者対策が、企業の人事労務担当者にとって課題となっています。解決策をみつけるには、まず従業員がストレスチェックの受検を拒否する理由を理解することが先決です。
そこで今回は、ストレスチェック拒否問題の解決策について解説します。
従業員はストレスチェックを拒否できるのか?
従業員が50人以上いる企業の場合は、ストレスチェックの実施が義務づけられていますが、法的には従業員にストレスチェックの受検義務はありません。
たとえ企業側が「業務命令」として指示を出していたとしても、従業員は拒否することができます。
参考:厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」
企業側の課題として「メンタルヘルス不調を未然に防ぐ」目的を達成するためにも、できるだけ全員に受検してもらう工夫が必須です。
そのためにもまずは、受検が拒否される理由を把握していきましょう。
ストレスチェックを拒否する従業員にありがちな理由4つ
従業員がストレスチェックを避けようとする理由がわかれば、拒否する従業員を減らす対策の検討が可能です。
そこで、ここでは従業員が、ストレスチェックを拒否する理由を解説します。
- 【理由1】忙しくて受検する時間がない
- 【理由2】検査結果を含め、個人情報が上司に知られてしまう
- 【理由3】ストレスチェックを「うつ病検査」だと思っている
- 【理由4】日本語がわからず受検が難しい
すでに社内の中にストレスチェックの拒否者がいる場合は、状況と照らしあわせてご参考ください。
【理由1】忙しくて受検する時間がない
「多忙」を理由にストレスチェックを拒否する従業員がいます。確かに仕事が忙しい中、ストレスチェックに時間を取られるのは煩わしく感じるでしょう。
しかしながら、本当に多忙が理由で受検を拒否しているのかというとそうでもなく、ストレスチェックに「メリットがない」と感じている人もいます。
また、定期健康診断での問診がストレスチェックになると思っている場合もあり、別途ストレスチェックを行う必要がないと思っている可能性もあります。
【理由2】検査結果を含め、個人情報が上司に知られると思っている
職場や人間関係に不満を持っていることが上司に伝わることを恐れるケースです。
質問の回答やストレスチェック結果の詳細が上司に知られると思い込み、受検に抵抗感を持つ従業員もいます。
少人数の部署では、回答内容が匿名扱いになっていても「上司に気づかれる可能性が高い」と思われている場合があります。また、ストレス要因などに関する設問は、上司に知られると職場の人間関係を左右することになると考えてしまうこともあるでしょう。
参考: 厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」p.57
【理由3】ストレスチェックを「うつ病検査」だと思っている
ストレスチェックによって、自身の精神疾患が発覚することを恐れる人もいます。ストレスチェックを「うつ病検査」だと思い込んでいるためです。
特に、過去に精神疾患に罹ったことがある人やメンタル不調の自覚がある人は、「うつ病などの罹患のレッテルを貼られたくない」と思ってしまうため受検を避けてしまいます。
【理由4】日本語がわからず受検が難しい
職場に外国籍や障害のある従業員がいる場合は「日本語(質問内容)がわからない」「日常会話はできるが文字が読めない」など的確に回答できないことがあります。質問を理解できずに受検できなかったり、回答しても正確な結果が得られなかったりするケースです。
上記の場合は、受検を拒否しているわけではありませんが、質問を理解するのに時間がかかり、なかなか検査票を提出できない可能性もあります。労働者が理解できる言語の翻訳版や、絵・ふりがな付きの質問票を検討するなどの対応がおすすめです。
なお、厚生労働省のメンタルヘルスサポートサイト「こころの耳」では、絵・ふりがな付きの質問票をダウンロードできます。必要に応じて活用しましょう。
参考:こころの耳「ストレスチェック制度について|実施ツール」
また各外国語版の調査票(57項目)が厚生労働省のサイトで提供されています。
参考:厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策|過重労働対策等・外国語版の調査票等」
ここまで、ストレスチェックの拒否理由をみてきました。従業員がストレスチェックの受検を避ける場合、社内での説明が行き届いていない可能性があることと、受検時期や回答のしやすさなどを再度点検するとよいでしょう。
続いて、ストレスチェックの実施に向けたチェックリストを紹介します。
拒否率を下げる!ストレスチェックのためのチェックリスト
今回、Carely編集部では、社内のストレスチェックの受検率を上げるためのチェックリストをご用意しました。

ストレスチェック制度を上手に活用して職場の課題を可視化している企業(や実施サポート会社)にヒアリングして、実務的な内容で項目をまとめています。従業員の不満解消・回答率アップのためにぜひチェックリストをお役立てください。
チェックリストの内容はどれも大切ですが、なかでも意識して従業員に周知すべきことがあります。次の章では受検を勧めるために伝えるべきことを詳しく解説します。
ストレスチェックの受検を勧めるために社員に伝えるべきこと3つ
ストレスチェックの拒否者を1人でも減らすには、以下の点を伝えるだけではなく、しっかりと理解してもらう必要があります。
- 受検することで得られるメリット
- 結果情報に守秘義務があること
- 人事権のある役職者はストレスチェックに関わらないこと
それぞれ詳しくみてみましょう。
1. 受検することで得られるメリット
ストレスチェックには、「従業員一人ひとりのストレスケアをサポートできることと、職場環境の改善につながる」メリットがあります。
具体的には、以下の3つを従業員に伝えましょう。
- ストレスへの気づき
- 産業医のサポート
- 環境改善
「ストレスへの気づき」は、従業員自身のセルフチェックを促すことです。受検結果から自身の業務ストレスに気づけば、ストレス解消などの対処法を考えやすくなります。具体的な対処法を伝えたい場合は、厚生労働省で紹介の「こころと体のセルフケア」をご参照ください。
参考:厚生労働省「こころと体のセルフケアーこころもメンテしよう」
「産業医のサポート」は、ストレスチェックで高ストレス者になった場合に、第3者である医師に助言をもらって対処法を見つけ出すことです。ストレスケアや無理のない働き方を一緒に考えてもらえます。社内には言いにくい悩みがあっても、産業医に伝えて対処法を考えることで問題解決に向かいやすくなります。
「環境改善」は従業員の受検結果を集計し、部署ごとの集団分析を行うことで業務環境の改善につなげられることです。
厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(令和4年3月)は、実施の効果を以下のように記しています。
継続的にストレスチェック制度に取り組んだ結果、実施以前と比べて、メンタルヘルス不調者が5分の1に減少した事業者もいました。
厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(令和4年3月) p.4
働きやすい職場づくりの大きなヒントになることがわかり、今では全事業場のうち約8割以上がストレスチェックを実施しています。
2. 結果情報に守秘義務があること
ストレスチェックの結果情報は、本人の同意なしに上司や同僚に共有されることはありません。そのため「職場で個人情報が筒抜けになる」と思い込んでいる従業員には、はっきりと伝える必要があります。また高ストレス者になって産業医面談を実施した場合も、その内容が公になることもありません。
ストレスチェックの結果や、その後の産業医との面談も含めて全てが個人情報にあたり、検査の実施者には守秘義務があるからです。
なお、従業員がストレスチェックを受けたかどうかは個人情報ではないため、受検率を上げるために未受検者リストをもとに受検を推奨することは可能です。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度 導入マニュアル」p.7
3. 人事権のある役職者はストレスチェックに関わらないこと
人事部の部長などがストレスチェックの事務従事者になれば、受検結果が出世や人事異動に影響するのではないかと心配する人もいます。この点に関しても心配無用であることを伝えてください。
ストレスチェックの実施や事務処理には経営者や人事権のある社員が携わってはいけないからです。
参考:厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」 p.22
そのため、ストレスチェックの結果で評価が下がったり、左遷されたりすることはありません。産業医面談を受けた従業員に対しても不当な解雇や雇い止め、配置替えも禁止されています。
ただし、従業員の受検結果や健康情報そのものを扱わない範囲の場合は、人事権のある社員も関われます。たとえば、ストレスチェックの実施計画や、質問票の配布、産業医などの委託機関との契約関連です。
参考:厚生労働省「改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について」 p.23
上記は混同する従業員もいるため、わかりやすく伝える必要があります。
ストレスチェックの拒否率を下げる具体的な施策5つ
ストレスチェックの目的や仕組みを従業員に正しく伝えることは大切ですが、実際にどのようにすればよいのかわからない方もいるのではないでしょうか。
そこで、拒否率を下げる具体的な施策を紹介します。
- 【施策1】ストレスチェックの情報が従業員に伝わるシステムを作る
- 【施策2】職場環境の改善のために協力を仰ぐ
- 【施策3】繁忙期を避けてストレスチェックを実施する
- 【施策4】産業医面談申し込み時に、企業に開示したくない情報を確認する
- 【施策5】産業医面談が知られないように場所と連絡方法を工夫する
ストレスチェックを円滑に進めたい方は、取り入れられるところからぜひご検討ください。
【施策1】ストレスチェックの情報が従業員に伝わるシステムを作る
ストレスチェックに関する誤解や思い込みをなくすためにも、従業員に社内教育を行うことが必要です。
受検率の高い企業では、以下の工夫がされています。
- 朝礼や全体ミーティングでストレスチェックの目的と実施方法を説明する。
- 部署ごとのメーリングリストや、チャットページで上司にアナウンスしてもらう。
- 未受検者に向けてリマインドメールをストレスチェック実施中に何回も行う。
- 曜日や時間を工夫してリマインドメールを送る。(例.月初や週明けは避け、火・水・木曜日や昼休み時間を狙って流す。)
特に未回答者に向けたリマインドができるオンラインシステムを活用できれば、実施者側の負担軽減や効率化が可能です。
【施策2】職場環境の改善のために協力を仰ぐ
ストレスチェックは従業員一人ひとりのメンタルヘルスケアだけではなく、同じ部署の受検データを集計分析して、職場環境の改善にも活かせます。そのため1人でも多くの従業員に協力をお願いすることも大切です。
具体的には実施する目的や主旨・効果を得た例などをわかりやすく伝えて、理解を促します。たとえば、他社の成功事例を紹介したリーフレットや、職場改善の取り組みについて解説した漫画を作成して、社内報に載せるのも良策です。
また、ストレスチェックの拒否者が多い職場では、人事労務部門が率先して取り組んで環境改善に活かし、その経験を元に他の部署に広めた例もあります。やらされてるのではなく職場改善できることをお手本に見せるのも1つの方法です。
参考:「職場環境改善スタートのための手引き」p.18
【施策3】繁忙期を避けてストレスチェックを実施する
業務量が増える繁忙期はなるべく避けてストレスチェックを実施しましょう。
もしも受検で高ストレス者と判定が出た場合、その後の対応に影響が出る可能性があります。繁忙期で業務に追われると産業医に面談を申し込む余裕がなくなり、心のケアを後回しにしがちだからです。
「我慢すればよい」と思いながら忙殺されているうちに、心身の不調が出てきてしまうこともあります。そのようなことにならないよう、ストレスチェックはできるだけ忙しくない時期を選んで実施することが大切です。
参考:厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(令和4年3月)
【施策4】産業医面談申し込み時に、企業に開示したくない情報を確認する
面談内容は、「本人に確認してからでなければ会社に伝えない」原則を徹底していることを伝えましょう。
個人情報の共有は、従業員が不安に感じることが多い部分です。
高ストレス者となった従業員が産業医面談を申し込むと、「自動的にストレスチェックの結果を産業医などの実施者に開示することに同意した」とみなされます。
そのため、ストレスチェックの実施規則を決める際に、「面談申し込み時点で上司や人事に共有してほしくない情報があるかを確認する」などの規定を盛り込むことで、従業員の不安が軽くなります。
【施策5】産業医面談が知られないように場所と連絡方法を工夫する
ストレスチェックの結果や産業医面談の内容が守られていても、産業医面談を受けたことを同僚に知られたくない人もいます。
従業員の気持ちに配慮して周りに公にしないためには、産業医面談を実施する「場所」と「連絡方法」の工夫が必要です。
たとえば下記の工夫があげられます。
「場所」の工夫
- 中の様子がわかってしまう、作業場に隣接する会議室を避ける。
- 近くのカフェで行う。
- オンライン通話で行う。
「連絡手段」の工夫
- 口頭ではなくメールで情報交換する。
- スケジュール管理の中で、「上司との面談」として入れておき、産業医面談であることがわからないようにする。
また、メンタルヘルス不調にオープンな職場の雰囲気を作ることも大切です。
日頃から従業員の就業環境や心の健康に配慮する習慣を持ち、ストレスチェックを受検する文化が根付きやすい環境を整えましょう。
まとめ:的確な対応でストレスチェックの拒否率を減らそう!
ストレスチェックを拒否されないためには、従業員に制度そのものを正しく理解してもらうことが重要です。
原則として受験結果は個人情報として、勝手に共有されることはないこと、結果を元に不当な扱いを受けることがないなど、根本的な理解が進めば受検拒否者を減らすことができるでしょう。
そのためには、口頭や社内報、メーリングリストやリーフレットなどで、確実に周知する工夫が必要です。従業員の意識を変えてストレスチェック制度を社内の職場環境の改善に活かしましょう。
なお、ストレスチェックを含む従業員の健康管理にお悩みの方は、健康管理システム「Carely(ケアリィ)」がお手伝いします。
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