健康経営の実務
2022年12月26日 更新 / 2021年3月18日 公開

人事が対策できるメンタルヘルスの不調を未然防止する方法とは

従業員のメンタルヘルス不調未然防止方法

人事労務の担当をしていると、従業員のメンタルヘルスの不調にどのように対応すれば良いのか、頭を悩ませる機会も多いのではないでしょうか。事業所の規模が50人以上の場合はストレスチェックを実施する必要がありますが、高ストレス者がいた場合の事後対応、集団分析や職場環境の改善など、やるべきことは多々あります。

今回の記事では、次のことについて詳しく見ていきます。

  • メンタルヘルスで何が誤解されやすいのか
  • そもそもストレスチェックは何のために行うのか
  • テレワークにおいてどのようなメンタルヘルス対策を行うべきか
  • すでにメンタル不調者がいる場合はどうすべきか

メンタルヘルスで誤解されがちなこと

メンタルヘルスの不調は、身体的なケガや病気と異なり、第三者の目からは見えにくいものです。見た目には問題がないように思えても、過度なストレスなどによって精神状態が悪化しているケースもあります。

事業所の生産性を高めるためには、従業員のメンタルヘルスケアが不可欠です。「ある日突然出社できなくなった」「職場復帰ができずに退職した」という事態を防止するためにも、メンタルヘルスケアの基本をしっかりと把握しておきましょう。

メンタルヘルスに関して誤解されがちなのが、以下の3点です。

  • 精神科医の産業医でなければ対応できない
  • 個別に対応する必要がある
  • 主観的な症状なので見つけにくい

ここからは、それぞれの詳細を見ていきましょう。

誤解1:精神科医の産業医でなければ対応できない

メンタルヘルスの相談先として、多くの方が「精神科医の先生」を思い浮かべるのではないでしょうか。実際、職場でのメンタルヘルス対策となると、「精神科の産業医でなければ対応できないだろう」と考えている方も多いものです。

メンタルヘルスの歴史はまだまだ浅く、大企業に勤めているような産業医の先生や保健師さんでも、どのように対応すべきか悩むことがあります。とはいえ、産業医であるなら、メンタルヘルス対応は基本的な科目として理解しておくべきものです。

そもそも産業医になるためには、以下のいずれかを満たす必要があります。

  1. 医師会の産業医学基礎研究を受ける
  2. 産業医科大学を卒業する
  3. 労働衛生コンサルタントに合格する

上記の過程において、メンタルヘルスの勉強は産業医の基本科目となっています。つまり、メンタルヘルスの知識がない産業医自体がそもそも存在しないということです。

ただし、同じ医者という分類に該当していても、主治医と産業医とでは仕事内容が大きく異なります。主治医の場合はケガや病気の診断、薬の処方を行いますが、産業医はこれらの仕事を行うわけではありません。産業医の場合は、従業員が安心して働き続けられる環境であるか、メンタルヘルスに関する専門的な知識を持って、アドバイスや勧告を行います。

繰り返しにはなりますが、精神科や心療内科の先生でないからといって、「メンタルヘルス対策をまったくできない」というわけではないことを理解しておきましょう。

産業医としての適性を調べたい場合は、「産業医チェックリスト(※配布中)」を利用するのがおすすめです。現在来てもらっている産業医の先生に、リストの内容を確認してもらうとよいでしょう。

新型コロナウイルスの流行という特殊な状況下において、人々の暮らしは大きく変貌しました。コロナ禍の状況であっても面談の対応をしてくれるのか、従業員がコロナに感染した場合に会社としどのように対処すべきか、など産業医の対応が重要なポイントとなっています。

コロナ禍により人々の働き方も変化していくなかで、産業医の先生の真価が問われているのです。

誤解2:個別に対応する必要がある

ストレスチェックの結果、高ストレス状態であると判断された場合、たしかに個別での対応が必要となるでしょう。しかし、人事労務担当者にとって大切なことは、「メンタルヘルス不調をいかに予防するか」という点です。

メンタルヘルス不調に関しては、一次予防・二次予防・三次予防という概念が存在します。

  1. メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」
  2. メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置をする「二次予防」
  3. メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援などをする「三次予防」

いわゆる「ストレスチェック」は一次予防の役割を果たすもので、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ一番大切な部分です。従業員のなかには、そもそも自身のストレスに気付いていない方もいます。まずはそのような方に対して、「ストレスを抱えている状態である」という気付きを促すことが重要です。

そもそもストレスチェックとはなぜ行う?

2015年にスタートしたストレスチェック制度ですが、「そもそもストレスチェックをなぜ行うべきなのか」「ストレスチェックに意味があるのか」という声も、よく聞かれるのが現状です。

このような意見が上がる原因の一つとして「ストレスチェックを有効活用できていない」という点が挙げられます。

ストレスチェックを実施する目的は、大きく分けると3種類あります。

  1. 従業員のみなさんご自身のストレスへの気付きを促す
  2. 職場改善につなげて、働きやすい職場づくりを進める
  3. 労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する

従業員全体の10%ほどが高ストレス者であったとしても、そのなかで適切なケアを受けられているのは5%ほどといわれています。「ストレスチェックを実施するだけで満足している」「高ストレス者のケアが行われていない」など、本来の運用が行われていないケースがあるのが実情です。

職場で働く多くの高ストレス者が必要なケアを受けられていないことを考えると、やはり産業医との連携が重要なポイントとなるでしょう。

ストレスチェックの個人結果からは、過去・現在について読み取るだけでなく、将来的にその人がどうなっていくのか、といった点まで見えてくることがあります。メンタルヘルスの不調には原因があり、過去や現在のどこかにストレス要因が存在するものです。

集団分析を行うことで実際の職場の状況が想像できてくるので、そのような部分をうまく活用できれば、職場環境の改善にスムーズにつなげられるでしょう。

誤解3:主観的な症状なので見つけにくい

ストレスというものは、仕事のパフォーマンスにも多大な影響を与えるものです。しかし、主観的な症状であるため、労働者本人がストレスによるメンタルヘルス不調を隠していれば、症状を見つけるのは困難になります。

ストレスの症状として最初に現れるのは、「何となく元気がない」「イライラしている」といった症状です。今まで問題なくこなせていた仕事がスムーズにいかなくなったり、仕事の進捗が滞ってきたりしたら、その人はストレスを感じている可能性があります。

また、「朝起きられず遅刻しがちになる」「不安で夜なかなか寝つけない」というような不調が出たり、頭痛やめまいなどの症状が現れたりする場合も注意が必要です。

近年はテレワーク化が進んでいるため、上司が部下の体調の変化に気付かないケースが増えています。テレワークといっても、やはり業務量が多かったり、自分の作業に集中しづらかったりすると、ストレスが徐々に蓄積するものです。そのため、定期的にストレスチェックを行い、メンタルヘルスの状況を細かに把握することが重要となってきます。

ストレスは主観的な症状であるものの、ひどくなれば身体の症状にまでつながります。目に見えない症状であるからこそ、ストレスチェックによって心身の状況を可視化することが大切です。

テレワークにおける4つのメンタルヘルス対策

近年は、政府によってテレワークの普及促進が行われてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、急速にテレワーク化が進んできている状況です。当然ながらテレワークの場合でも、従業員のメンタルヘルスケアを十分に行う必要があります。

従来のように、オフィスで上司や同僚と毎日顔を合わせていれば、ちょっとした表情や行動の変化で、メンタルヘルスの不調にいち早く気付くことができるかもしれません。しかし、テレワークの場合、メンタルヘルスのささいな変化には周囲が気付けない可能性があります。

テレワークにおいては、以下の4つのメンタルヘルス対策が必要です。

  1. コミュニケーションロスの解消
  2. 定期的なアセスメント
  3. ストレスチェックの頻度を上げる
  4. オンライン産業医の活用

以下では、それぞれの対策の特徴を説明していきます。

コミュニケーションロスの解消

テレワークにおいて、メンタルヘルス不調を見抜けない原因として多いのが、コミュニケーション不足です。出社している場合は、昼休憩の間に交わす何気ない会話や、残業時の声掛けなど、自然とコミュニケーションが発生しやすくなります。しかし、テレワークでは基本的に顔を合わせることなく仕事が進むため、やはりコミュニケーションをとる機会が減ってしまいます。

テレワークでのコミュニケーションロスの解消方法としては、以下のような例が挙げられます。

  • 15分ほどのWeb会議を行う
  • イベントの実施
  • 相談窓口の設置

Webカメラを活用した短めの会議を入れることにより、日々の業務にメリハリをつけられるでしょう。また、イベントを実施したり、相談窓口を設置したりすることで、コミュニケーションの機会を増やすことができます。

ストレスチェックサービスのなかには、オンライン相談窓口を用意しているところもあるので、適宜利用してみるとよいでしょう。

定期的なアセスメント

労働者の心身の不調を見逃さないために、定期的なアセスメントを行うことも大切です。簡単なもので良いので、「心身のチェックリスト」を用意してみるとよいでしょう。

さらには、厚生労働省が推奨している「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」などを利用するのも一つの方法です。このチェックリストを使うことにより、労働者本人が自身の疲労蓄積度を把握できるようになります。厚生労働省または中央労働災害防止協会のホームページにチェックリストが掲載されていますので、ぜひ活用してみてください。

ストレスチェックの頻度を上げる

メンタルヘルスの不調を未然に予防する手段として、ストレスチェックが役立ちます。しかし、テレワーク化した場合など、年に1回の頻度では物足りないように感じるかもしれません。

法律で定められている実施頻度は年に1回ですが、必要に応じて半年に1回、四半期に1回のような頻度で行うことも可能です。1年間に複数回ストレスチェックを行える体制になれば、集団分析の精度もより高められるでしょう。

加えて、部署ごとや年代ごと、性別ごとなど、集団によってどのような傾向があるのかを比較すると、わかりやすくなります。

オンライン産業医の活用

事業場の規模が大きくなると、産業医の選任が必要となります。これに関しては、オフィスだけでなくテレワークの場合でも同様です。

ストレスチェックの結果から高ストレス者と判断された場合、産業医との面談指導を勧奨されます。テレワークが中心の方が多い企業は、オンライン産業医への依頼も検討してみましょう。産業医と直接会って話す必要がないため、心理的障壁が少ないように感じる方もいるかもしれません。

また、オフィスからテレワークへと切り替えた企業において、「テレワーク化を進めたものの、選任中の産業医がWeb面談に応じてくれない」という悩みが発生するケースもあります。しかし、産業医がしっかりとメンタルヘルス関連の業務に介入しなければ、事業所として「安全配慮義務を怠っている」とみなされる可能性がある点が問題です。

明らかに高ストレス状態の従業員に対して、面談指導を行えない、勧奨できない状況という事態は避けなければなりません。高ストレス者の健康状態がひどくなった場合には、訴訟リスクにもつながりかねないため、十分に注意が必要です。

どうしてもWeb面談が難しいようなら、産業医の先生を交代するという選択肢も検討してみてください。

すでにメンタル不調者がいる場合はどうすべきか

すでにメンタル不調者がいる場合は、人事労務担当者が介入できることは少ないものです。基本的には、産業医や保険医、もしくは看護師などの相談窓口を活用することになります。

まず行うべきは、メンタル不調者がいる場合に即座に対応できるような管理体制の整備です。定期的にストレスチェックを実施することはもちろん、結果を効果的に活用できるよう適切な体制を整えましょう。

ストレスチェックを実施する際は、インターネット上で回答する方法と、紙の調査票で回答する方法の2種類があります。業務の効率化を考えるなら、ストレスチェックをオンラインで管理できるツールを使うのがおすすめです。外部にいる産業医との連携が容易に行えるため、メンタル不調者に対してもスムーズな対応ができるでしょう。

事業所の状況によっては、「高ストレス状態であるのに面談指導を受けていない」従業員がいるケースも見られます。しかし、「ただストレスチェックを受検させただけ」という状況で放置するのは、非常にもったいないことです。

産業医の先生と連携しながら、高ストレス者に対しては順次面談指導をしていきましょう。面談指導は強制ではありませんが、やはり今後のためにも受けてもらうのが望ましいといえます。

まとめ

メンタルヘルスに関しては、誤解されがちな点が多々あります。

「そもそもストレスチェックは必要なのか」と感じる方もいるかもしれませんが、単に「効果的に使われていないだけ」というケースも多くあります。ストレスチェックの趣旨を正しく理解したうえで、職場環境の改善につなげていきましょう。

昨今では政府のテレワーク推進、新型コロナウイルスの影響などにより、テレワークを導入する企業も増えつつあります。テレワークの場合はどのようにメンタルヘルスケアを行うべきか、メンタル不調者に対してどのようなケアを行うのかなど、従業員の心身の健康を維持ためにも考えてみてください。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。