健康診断の費用負担・受診時間の取り扱いは?3つのケースに分けて解説!

「会社の規模が大きくなったため、健康診断の受診に関するルールを整備したい」
「従業員から健康診断受診中の賃金について質問があり、詳しくまとめたい」
と思うことはありませんか。
健康診断は、安全衛生法第66条により1年に1回の実施が義務付けられています。そのため受診費用については、原則、企業負担です。
しかし、健康診断のコース(オプション検査の追加、人間ドックで代用など)によって個人負担となったり、健康診断を受診した際の賃金もケースによって変わったりするので注意が必要です。
そこで本記事では、「3つのケースに分けた健康診断の費用負担・賃金の取り扱い」について、人事・総務担当者が気になる情報をまとめました。費用に関する規程を考え直したい方は、ぜひご一読ください。
企業が考えるべき健康診断の費用負担・受診時間とリスクの関係とは?
健康診断は「労働安全衛生法 第66条」により、年に1度の実施が義務づけられています。よって法定項目の受診費用については、企業負担が基本です。
しかし健康診断の受診にかかった時間や賃金の取り扱いについては、企業ごとに異なります。なぜなら企業が健康診断を実施する義務があると同時に、従業員も健康診断を受ける義務があり、賃金まで企業が負担すべきと定めた法律がないからです。
とはいえ「健康診断は従業員も受診する義務があるのだから、受診にかかった時間は賃金に含めません」と決めてしまうと、以下のリスクが発生してしまう可能性も。
■健康診断の受診時間を賃金支払しなかった場合のリスク
- 健康診断の受診率が低下するリスク
- 再検査を受診してもらえないリスク
リスクを放置してしまうと、従業員が病気などになってしまった場合に「会社に責任を問われてしまう可能性」もあります。従業員の健康を守るため、そして会社として健康管理の徹底を証明する意味でも、これらのリスクは無くしておきたいところです。
可能であれば、
- 勤務時間としてルールを決める
- シフトを調節して受診しやすくする
といった配慮をするのが望ましいでしょう。
なお、「健康診断の受診費用の負担」は、健康診断を受けるコース(オプション検査の追加や、人間ドックでの代用など)によって変わります。受診費用の負担の違いについて事前に知りたい方は、以下をご一読ください。
ここまでが、企業が考えるべき受診費用・賃金などの取り扱いの基本です。とはいえ、正社員、パートやアルバイトなど、働き方のケースによって取り扱いは変わるもの。
そこで、3つのケースに分けて、健康診断の費用負担や受診時間の取り扱いについて解説します。
健康診断の費用負担・受診時間の取り扱いで考えたい3つのケースと対応方法
健康診断の費用負担・実施時間をどのように考えるべきか、3つのケースに分けて解説します。
- 正社員に健康診断を受けてもらう場合
- パート・アルバイトに健康診断を受けてもらう場合
- 特殊健康診断を受けてもらう場合
特にパート・アルバイトの場合や、特殊健康診断の場合は注意が必要です。1つずつ詳しく見ていきましょう。
【ケース1】正社員の場合
正社員に健康診断を受診してもらう場合、勤務時間中に受診させるのが一般的です。このとき、有給などを利用しての受診なども問題ありません。
また土日祝日に健康診断を受診する場合ですが、
- 無給休暇扱い
- 有給休暇扱い
どちらにすべきかは、会社の方針などによって異なります。参考までに、厚生労働省の見解を見てみましょう。
一般健康診断は、一般的な健康確保を目的として事業者に実施義務を課したものですので、業務遂行との直接の関連において行われるものではありません。そのため、受診のための時間についての賃金は労使間の協議によって定めるべきものになります。ただし、円滑な受診を考えれば、受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいでしょう。
厚生労働省:健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?
まとめると、
- 受診時の賃金の支払いは労使間の協議によって定めるもの
- 円滑な受診を考えると、事業者が賃金も支払うことが望ましい
といった見解も出ているので、上記を参考にしつつ安全衛生委員会などで協議し、労使間で合意の上方針を決めましょう。
次に、パートやアルバイトなどの「シフト制・時給制で働く場合」について見ていきましょう。
【ケース2】シフト制・時給制など、パートやアルバイトの場合
パートやアルバイトなどのシフト制・時給制で健康診断を受診する場合も、受診費用は企業負担となります。一方で受診する時間については、「シフト時間外」で受診する点に注意しましょう。
このとき気になるのが、「シフト時間外に受診した賃金はどうなるの?」といった点ではないでしょうか。結論から言うと、「企業ごとに労使間で合意の上、賃金に含める/含めないを決定する」流れとなります。
とはいえこれまでお伝えした通り、賃金を支払わないことで、
- 健康診断の受診率が低下する
- 再検査を受診してもらえない
といったリスクを抱えてしまう可能性はあるので、「賃金の支払いを認める」「健康診断の受診がしやすいように、シフトを調整する」などの配慮をするのがおすすめです。
なお、「そもそもアルバイトの健康診断は義務なの?」と疑問に思った方向けに、以下で詳しく解説しています。あわせてご一読ください。
ここまで雇用形態ごとに、健康診断の受診費用や受診時の賃金の支払いについて解説しました。
雇用形態に関わらず、健康診断の賃金については労使間で協議の上、決定する必要があります。ただし円滑な受診を促すためにも、健診時間を賃金の支払い対象とするのが望ましいでしょう。
一方で一般健康診断ではなく、「特殊健康診断」の場合は考え方が大きく変わるので注意が必要です。詳しく見ていきましょう。
【ケース3】特殊健康診断の場合
特殊健康診断は、法定の有害業務に定める業務を行う人を対象に実施する健康診断のこと。特殊健康診断の場合は一般健康診断と異なり、健診時間を勤務時間に含める必要があります。
その理由として、厚生労働省は以下の見解を発表しています。
特殊健康診断は業務の遂行に関して、労働者の健康確保のため当然に実施しなければならない健康診断ですので、特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間であり、賃金の支払いが必要です。
厚生労働省:健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?
また健診時間も労働時間に含まれるため、仮に夜間や土日祝日に健康診断を実施した場合は、割増賃金の対象となります。この点、一般健康診断と異なるので注意しましょう。
ここまで、健康診断の受診費用や健診時間、賃金の取り扱いなどについて解説しました。ただ、賃金以外にも健康診断のルール化で悩む点は他にもいろいろあります。
続いて、「健康診断のルール化を進めるにあたって考えたい4つのこと」について見ていきましょう。
健康診断のルール化を進めるときに考えたい4つのこととは?業務効率化に影響あり!
健康診断のルールを決めるときは、以下の4つも考えるのがおすすめです。
- 効率的に社内で健康診断の予約業務を内製化する方法は?
- 業務効率化につながる健診機関・クリニックを選定するコツは?
- スムーズに健康診断の従業員予約を進めるコツは?
- 健康診断の予約は代行できるのか?
特に「スムーズに健康診断の従業員予約を進めるコツ」では、予約業務を効率化するときに考えたい点についてまとめています。1つずつ詳しく見ていきましょう。
1.効率的に社内で健康診断の予約業務を内製化する方法は?
健康診断の予約業務は、従業員1人あたり30分以上かかることも多いです。仮に従業員が500名だとすると1500時間必要となり、1~2ヵ月健康診断の予約業務にかかりっきりになるほど負荷が高くなります。
一方で、
- 健診担当者が健康診断以外も兼務しており、時間があまりとれない
- 健康診断の受診、受診後の業務について法律で期日が定められている
といったこともあり、業務効率化を余儀なくされることも。
この時まず考えるのが、「社内で業務効率化を図ること」ではないでしょうか。そこで、健康診断の予約にかかる6つの業務に分けて、効率化する方法を以下でまとめています。規程に関わる部分も多いので、ご一読ください。
2.業務効率化につながる健診機関・クリニックを選定するコツは?
会社の規模が大きくなったり、テレワークなどの影響で健診機関・クリニックの再選定が必要となったりするケースもあるのではないでしょうか。
このとき、インターネットで調べて出てきたクリニックにそのまま依頼してしまうと、「健康診断の予約がしづらいクリニック」を選定してしまう可能性も。健診機関・クリニックを選ぶときは、以下の3つを押さえておくことが重要です。
- 健康保険組合が指定している健診クリニックか
- 健診クリニックの予約方法はやりとりしやすいか
- 健診クリニックからのレスポンスは早いか
特に予約方法については、
- メール
- 電話
- FAX
- Webフォーム
などいろいろあり、FAXやWebフォームだと健康診断の予約が大変になってしまう可能性も。その理由や詳しい選定方法については、以下をご一読ください。
3.スムーズに健康診断の従業員予約を進めるコツは?
健康診断の予約は、健診クリニックに電話やFAXなどで連絡するだけではありません。従業員一人ひとりに、
- 受診するクリニックやコースの希望
- 受診希望日
などを確認した上で、健診クリニックとやりとりして予約を進める必要があります。
このとき、従業員への希望調査をメールで行ってしまうと、
- 従業員の人数分希望を確認する
- Excelなどの資料に整理する
といった時間がかかってしまいます。仮に「従業員1人あたり5分」で終わったとしても、500人いれば約40時間です。
また健診クリニックに連絡して従業員の希望が通らなかった場合は、もう一度従業員へ希望調査を進める必要も出てきます。
こういった従業員とやり取りしながら健康診断の予約を進めるコツについて、以下記事で詳しくまとめています。「もっとスムーズに従業員の健康診断を予約したい」とお悩みの方は、以下記事をご一読ください。
4.健康診断の予約は代行できるもの?
健診機関・クリニックへの予約業務は、外部の業者へ代行してもらうことも可能です。これを聞いて、「健康診断は個人情報なのに、外部に情報を渡しても大丈夫なの?」と思った方もいるかもしれませんが、ご安心ください。
「健康情報等の取扱規程(PDF)」に詳しくまとめられていますが、「健診結果等の入力、編集分析等を委託して実施する場合」は例外として、個人情報の提供先が第三者とみなされないこととなっています。つまり、外部に委託する場合は、個人情報の観点でも問題ありません。
まとめ:健康診断の時間も賃金を支払おう!
今回は、健康診断の受診費用・時間・賃金の取り扱い、また健康診断のルール化を進めるときに考えたいことについて解説しました。最後に、ここまでの重要事項をまとめます。
- 健康診断の受診費用については、企業負担となるのが基本
- 一般健康診断の場合
⇒健診時間の賃金は「労使間の協議によって定めるべきもの」
⇒ただし受診してもらえなくなるリスクを考慮し、賃金を払うのが望ましい - 特殊健康診断の場合
⇒健康診断の受診も勤務時間の扱いとなり、土日祝日の場合は割増賃金となる点に注意が必要 - 健康診断のルールを整備するときは、業務効率化も同時に考えるのがおすすめ
健康診断は「労働安全衛生法 第66条」により、年に1度の実施が義務づけられています。ただし受診時の時間や賃金の支払いについては、「労使間で協議したうえで決定」するものです。
とはいえ健康診断の時間に対して賃金を支払わないと、「受診率の低下」や「再検査の拒否」といった健康リスクを抱えてしまう可能性があります。企業として健康管理を徹底するためにも、健診時間は労働時間として扱い賃金を支払うのが望ましいでしょう。
また健康診断のルールを整備するときあわせて考えたいのが、「健診業務の効率化」です。健康診断は、主に以下の業務が発生します。

これらの業務は人的コストがかかるものですし、以下のように期日も定められています。
- 健康診断の受診:1年に1度
- 医師への意見聴取:健康診断後から3ヵ月
ただ、「期日までに間に合わせること」を重視した結果、適切な就業判定ができなくなっては意味がありません。大切な従業員を守れなくなってしまうため、可能な限り業務効率化を進めておくことが重要です。
特にペーパーレス化は、法律で定められた期日を守る上で効果の高い施策です。以下で詳しくご紹介しているので、ご一読ください。