健康保険には、協会けんぽ組合健保共済組合国民健康保険などがありますが、それぞれどんな違いがあるのでしょう。今回はその中でも「協会けんぽ」と「組合健保」に絞り、そもそも何なのか、日本の健康保険の歴史やそれぞれの健保の特徴とともにわかりやすく解説していきます。「協会けんぽ」と「組合健保」とは?「協会けんぽ」とは全国健康保険協会の略称で、多くの中小企業が加入している健康保険です。また「組合健保」とは、中規模から大手の企業が主に加入している健康保険です。参考情報:全国健康保険協会とは参考情報:健保連について|けんぽれん[健康保険組合連合会]健康保険と関わる労務管理の実務「協会けんぽ」や「組合健保」などの健康保険は、人事労務・産業保健スタッフの仕事と大きな関係があります。主には以下のような業務で、健康保険が関係してきます。社会保険の資格取得・資格喪失標準報酬月額の計算と算定基礎届などの提出社会保険料の納付健康診断の予約健康診断の補助申請健康診断後の特定保健指導健康保険とは病気や怪我、その影響による休業や出産・死亡といった事態に備える公的な医療保険制度です。日本の公的医療保険日本の「公的医療保険」は、加入者やその家族が病気やケガをした時に公的な機関が医療費の一部を負担する制度のことで、以下の5種類に大別されます。健康保険国民健康保険後期高齢者医療制度共済組合船員保険ご覧の通り、健康保険は公的医療保険の中の1つとして位置付けられています。参考資料:時代のニーズに対応した社会保障制度の発展を 振り返る参考資料:【日本の国民皆保険制度の特徴】ここではまず健康保険を含めた公的医療保険の全体像について見ていきましょう。健康保険民間企業で働く人とその家族を対象とした公的医療保険です。中小企業が加入する「協会けんぽ」と、大企業単体もしくは同業種の企業などが集まって独自に設立する「組合健保」が存在します。全国健康保険協会(協会けんぽ)健康保険組合(組合健保)単一健保とは、単一の企業で700名以上の被保険者で構成される組合総合健保とは、複数の事業所もしくは事業主の元で3000名以上の被保険者で構成される組合国民健康保険会社の健康保険など他の医療保険に加入できない方を対象とする医療保険が国民健康保険です。自営業で会社に雇用されていない個人事業主などが加入しています。具体的には、職場の健康保険(健康保険組合や共済組合など)に加入していない人生活保護を受けていない人後期高齢者医療制度の対象ではない人などです。日本は国民皆保険といって全ての国民が何らかの公的医療保険に加入することになっています。国民健康保険は、他の医療保険に加入していない方の受け皿となるような位置付けです。保険事業の運営は市町村と都道府県が担っており、2020年(令和2年)3月末時点で1,716の保険者がおり、約2,660万人が加入しています。また国民健康保険には扶養という概念がないため、国民健康保険加入者の家族も加入する事になります。参考情報:国民健康保険の加入・脱退について参考情報:我が国の医療保険について |厚生労働省後期高齢者医療制度75歳(65歳以上で一定の障害が認定された人)以上の方が加入する独立した医療制度で、老人保健制度に代わり、2008年(平成20年)4月より開始されました。加入者が医療機関等で支払う自己負担分が原則1割、現役世代からの支援金(国保や健保など若年者の保険料)が約4割、公費が約5割(国:都道府県:市区町村=4:1:1)を負担して成り立っています。参考情報:後期高齢者医療制度について|厚生労働省共済組合国家公務員、地方公務員等を対象とした保険制度です。2020年(令和2年)3月末時点で85の保険者がおり、約854万人が加入しています。保険料率が健康保険の1割ほど安くなる場合が多いなどのメリットがあります。参考資料:共済のしおり船員保険船員法第1条に規定する、船員として船舶所有者に使用される者を対象としている公的医療保険制度です。業務上の災害や事故による場合でも、保険給付が行われるという部分が健康保険との大きな違いと言えます。日本の健康保険の始まり日本が国民皆保険制度の国なのは今では当たり前の話ですが、最初からすべての健康保険制度が整っていたわけではありません。健康保険制度の始まりとして工場などの労働者を対象にした健康保険法が1922年(大正11年)に制定・1927年(昭和2年)に施行され、これらのブルーカラーの労働者本人に限定しました。ちなみに、この時点では一部の大企業などを対象にしたものだったため、国民のほとんどが健康保険制度に加入できていない状態でした。参考情報:医療保険制度にはどんな種類があるの? | ニッセイ基礎研究所1958年(昭和33年)になって、ようやく現行の国民健康保険法が制定され、その3年後の1961年(昭和36年)4月に国民皆保険の制度が始まりました。現在は協会けんぽ、組合健保、共済組合に加入している場合、療養の給付、高額療養費、出産育児一時金などが受けられます。参考情報:【日本の国民皆保険制度の特徴】参考情報:我が国の保健医療をめぐる これまでの日本の被用者保険「被用者保険」とは、会社で勤務している労働者向けの公的医療保険の総称で、健康保険、共済組合などが被用者保険にあたります。少し古いデータですが、医療保険制度の加入者数は下記のように発表されています。厚生労働省 我が国の医療制度の概要(PDF)被用者保険の内訳は協会けんぽ3,488万人、組合健保2,950万人、共済組合919万人となっています。主な被用者保険の種類と特徴では次に、それぞれの特徴と違いを順を追って見ていきましょう。公的な医療制度を実施するための法律について、協会けんぽ、組合健保、共済組合という3つでは、それぞれ根拠になっている法律が違います。協会けんぽと組合健保は健康保険法、共済組合での医療保険に関する短期給付(※)については国家公務員共済組合の場合は国家公務員共済組合法、地方公務員共済組合の場合は地方公務員等共済組合法に基づいて行われます。この記事では、民間企業が加入する「協会けんぽ」「組合健保」の2つについて詳しく解説していきます。協会けんぽとは医療保険制度の一つに該当し被用者保険の中でも加入者数・被保険者数がともにトップの協会けんぽです。2012年(平成24年)3月末現在の上記円グラフによると、協会けんぽ(全国健康保険協会)の加入者数は3,488万人ですから、組合健保(組合管掌健康保険)の2,950万人、共済組合の919万人に比べてもかなりの人数の加入者がいることが分かります。協会けんぽ(全国健康保険協会)は、健康保険の適用事業所に勤める中小企業のサラリーマンやOLが加入し、その扶養家族も被保険者が加入する医療保険制度に加入しています。下の方に「全国健康保険協会 〇〇支部」と書かれている水色の健康保険被保険者証が被保険者だけではなく、被扶養家族にも一人一枚ずつ支給されています。協会けんぽに加入するメリット協会けんぽは、従業員数や業種などの制限がなく、法人設立時点から加入する健康保険になっています。そのため、日本の多くの中小企業にとって医療保険のセーフティーネット的役割を果たしています。協会けんぽは、各種健康関連のサービスを事業者向けに提供しています。例えば、以下の3つがメリットと言えます。健康診断について年度末年齢が35歳以上の方は充実した検査項目を安い価格で受診できる一定年齢の女性は子宮がん、乳がんの検査も補助が出る健康企業宣言など会社の健康施策を推進する上で活用できる制度がある協会けんぽの歴史協会けんぽの正式名称は全国健康保険協会といい、2008年(平成20年)10月1日に設立された若い法人です。もともと、現在の協会けんぽが担っている業務は社会保険庁が執り行っていましたがさまざまな問題が起き、その後の社会保険庁改革によって社会保険庁は解体されました。それまで政府管掌健康保険事業として行われていた部分については、新しく設立された全国健康保険協会という公法人が担うことになりました。協会けんぽは公法人になり、職員は公務員ではなくなりました。協会けんぽの保険者と保険料率健康保険を運営している運営主体のことを保険者と言います。協会けんぽの保険者は保険証の下部に記載されている全国健康保険協会(〇〇支部)です。保険者数は「1」です。健康保険法の規定によって、「千分の三十から千分の百三十までの範囲内において」保険料率が決められています。協会けんぽの保険料率は、2009年(平成21年)より前は全国一律でした。しかし、2009年(平成21年)からは地域ごとの医療費の実態に合わせて都道府県単位で決めることになりました。2022年(令和4年)度の協会けんぽの健康保険料率は、最高が佐賀県の11.00%、最低が新潟県の9.51%です。 同じ30万円の給料の場合、1ヵ月の保険料(労使折半前)は佐賀県(11.00%)が33,000円、新潟県(9.51%)が28,530円です。協会けんぽの被保険者数協会けんぽの令和2年度事業報告書(PDF)によると、現在の協会けんぽへの加入者数は約4,031万人、加入している事業所数は約239万事業所で、日本では最大の保険者です。独自で健康保険組合を設立できない中小企業など多くが加入していて、加入している事業所の過半数が従業員9名以下の事業所という特徴があり、サラリーマンの医療保険として非常に重要な存在です。被保険者は第1号厚生年金被保険者になります。協会けんぽの保険財政の状況2020年(令和2年度)の資料によると、協会けんぽは財政が赤字状態です。上述の協会けんぽの令和2年度事業報告書(PDF)によると、加入者1人当たり医療費総額は180,291円となっており、前年度と比べて2.8%減少していたそうです。協会発足以来はじめて減少に転じました。引用:協会けんぽ 令和2年度事業報告書(PDF)次に組合健保について解説していきます。単一健保と総合健保組合健保の設立方法には2つの種類があります。1つ目が、社員数が700人以上の企業は国の認可を受けて、自分の会社だけで健康保険組合を設立する方法です。このような健康保険組合を「単一健康保険組合」と呼びます。例えば、トヨタ自動車健康保険組合、ソニー健康保険組合、全日本空輸健康保険組合などがあります。2つ目が、同業種のいくつかの企業が一緒になることで社員数が合計して3,000人以上になる場合に、共同で健康保険組合を設立する方法です。このような健康保険組合は「総合健康保険組合」と呼びます。協会けんぽとは違い、組合健保は保険者が複数いますので、保険証の種類もかなりの種類にのぼります。組合健保に加入している会社の場合は、各種の届出などは、原則、社会保険事務所に対して行うのではなく健康保険組合に対して行います。組合健保に加入するメリット健康保険の給付には、最低限しなければならないと法律などで決められている法定給付、組合健保が法定給付に追加する「付加給付」があります。つまり、協会けんぽよりも手厚いサービスを受けることができます。組合健保はそれぞれ保険者が異なり、考え方も財政状況も違いますので付加給付の内容も組合によってさまざまなものがあります。【健康保険組合に加入するメリット】・協会けんぽよりも低い保険料率に抑えることができる・組合の特徴にあった健康関連のサービスを受けることができる・独自の付加給付制度がある付加給付については、高額療養費の上限が1カ月に2万円程度だったり、休業補償が給料の80%超だったりと、魅力ある内容をそれぞれの健康保険組合が提供しています。組合健保の歴史組合健保の正式名称は組合管掌健康保険です。大手企業などに勤務していて、その勤務先の企業が健康保険組合を設立し、その健康保険組合が保険者になっているものです。国民皆保険の制度が確立したのは、1961年(昭和36年)4月でしたが、1955年(昭和30年)代は日本で企業の活動が活発化し、世界に進出するような企業も出てきた時代です。環境省の環境白書 日本の環境問題の変遷によると、戦後の経済復興を優先した時代である1955年(昭和30年)から1965年(昭和40年)代の高度成長期には、日本国内の生産活動が活発になり、実質経済成長率は、1955年(昭和30年)代前半には8.9%、同後半には9.1%、昭和40年代前半には10.9%だったそうです。このように活発化し続けていく企業活動の中で、多くの大企業は組合健保を設立することに成功しました。組合健保の保険者と保険料率日本全国の組合健保の保険者数は、2012年(平成24年)3月末時点およそ「1,400」です。保険料率は組合健保によって違いますが、全国平均は9.103%(平成28年4月1日、健康保険組合連合会発表(PDF))です。ただし、平均保険料率は10%以上の組合健保が、およそ300もあります。ちなみに、組合健保の保険料率は健康保険法の規定によって、健康保険組合が管掌する健康保険の一般保険料率について準用するとされています。同じ30万円の給料の場合、1ヵ月の保険料(労使折半前)は、全国平均(9.103%)は27,309円、10%の場合30,000円です。組合健保の被保険者数健康保険組合連合会が発表した平成28年度健保組合予算早期集計結果の概要(平成28年4月21日)(PDF)によると、組合健保の被保険者数は前年度より32万6,000人(前年度比2.07%増)増の 1,606 万人です。(加入者数ではなく、被保険者数として発表されています。)組合健保の保険財政の状況「令和4年度健康保険組合 予算編成状況について-予算早期集計結果の概要-」によると、2022年(令和4年)度は赤字の組合は69.5%で、2,770億円の赤字となる見通しです。そのような中で、財政が非常に健全だとして各界から評価されているのが、関東ITソフトウェア健康保険組合です。一般保険料・介護保険料が他の保険者に比べて低額ですから、保険料を負担する被保険者・事業主の双方にとってメリットがあります。そして、保険料の負担が少ないことに反して、保養施設やイベントが多く独自性が見られます。このように、財政が良い組合健保の場合、そこに加入している事業所や被保険者にとっても大きな魅力があると言えます。健康保険の保険者はそれぞれの運営にあたる際に、財政状況を考えてそれに見合う保険料を設定します。ですから、医療費があまりかからない健康な人が多かったり若い人が多かったりして医療機関などで健康保険があまり使われていないと、保険者が支払うお金が少なくなるので、毎月の保険料の負担が少なくなります。さいごに日本の健康保険制度は職域、地域、年齢で分けられています。民間の企業も加入する健康保険制度を選べますから自社に最適な健康保険制度について、ご検討いただければと思います。保険料や福利厚生でメリットがあるかもしれません。