安全配慮義務に有用なEAPー信頼できるEAPと契約する3つのポイント

EAP(Employee Assistance Program;従業員支援プログラム)は、従業員のパフォーマンス向上のためのメンタルヘルス対策を行うプログラムです。日本では1990年代後半からEAP会社が増え始め、今では多くの企業が活用しています。
しかし、日本ではEAPのサービスの質を評価するしくみがないため、EAP会社によってその質にはバラツキがあるのが現状です。せっかくEAPの契約をしても、結果的に人事労務の負担が増えてしまったり、従業員に全く使ってもらえないということがよく起こります。
これから契約するには、どのようなEAP会社が良いのでしょうか?また、今自社が契約しているEAPは適切なのでしょうか?
EAPには、いくつか種類があり、それによってサービスの目的や内容も異なります。EAP契約で失敗しないためには、自社のニーズに合ったEAPを選び、費用対効果のあるEAPを見抜くことが大切です。ここでは、EAPの種類や目的、EAPを利用するメリットや注意点をまとめていきます。
EAPを導入する法的根拠
厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では「4つのケア」が示されています。EAPは、その4つうちの1つ、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」に当たります。
福利厚生の一環としてEAPを活用する企業も多いですが、企業の安全配慮義務を履行するためにも有用なプログラムです。自社で産業保健スタッフを雇うよりも安く済み、高度なスキルと経験のあるスタッフと提携できます。
また、2020年6月からパワハラ防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)が履行されました。*1それを受けて、ハラスメント外部相談窓口を新たに設けるためにEAP企業と契約するケースも増えています。
EAP企業はセクハラやマタハラなどのハラスメント対策のノウハウが蓄積されています。被害者へのカウンセリングだけでなく、防止のための研修や職場の対応の補助などもしてくれます。ハラスメントが発生すると、男女雇用機会均等法や育児介護休業法、あるいは民法上の責任が問われることもあります。ハラスメント対策は、今後も対応の強化が求められています。
*12019年5月に成立した法律で、2020年6月から大企業に、2022年4月から中小企業に施行されます。
EAP選びが重要な理由ーなぜ失敗してしまうのか?
せっかくEAP契約をしても、全然効果が出なかったり、人事労務の負担が増えてしまうことが多くあります。
例えば、従業員がメンタルヘルスの相談をできるように、カウンセリング事業を行っているEAP会社と契約したとします。わが社は従業員のメンタルケアが充実している!となるのでしょうか。
実際には、メンタル不調者が次々と見つかり、休職者が増え、人事労務はその対応に追われるかもしれません。復職の手続きをどうするのか、職場復帰プログラムを1から整備しなくてはなりません。不調者が次々と見つかるばかりで、不調者を減らすことはできているのか?と悩むことになるかもしれません。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか?その原因は、「自社がメンタルヘルスで困っている原因に合ったEAPサービスでない」ことと、「効果評価の指標が明確になっていない」こと、「EAPの質が悪い」ことが原因として挙げられます。
自社のメンタルヘルスの課題に合ったEAPでない
EAP企業には、様々な種類があります。同じサービスを行っているように見えても、実はその目的や進め方には企業によって違いがあるのです。そのEAP企業は何が得意で、どう自社をサポートしてくれるのか、しっかりと見抜くことが大切です。
そのためには、EAP契約をする前に、何が自社の課題なのかを明確にする必要があります。休職者の復職(三次予防)へのサポートが欲しいのか、メンタル不調者の早期発見・早期治療(二次予防)が目的なのか、或いは予防や生産性向上(一次予防)をしたいのか、どれになるでしょうか?
どういったサポートが欲しいかによって、同じEAPカウンセリングでも契約すべき会社は変わってきます。
効果評価の指標が明確でない
EAPの効果が感じられない原因の1つに、その効果を何で測るかの指標、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)がはっきりしていないことがあります。
メンタルヘルス不調を防止するためにカウンセリングを契約するのであれば、その効果はカウンセリングの利用率ではなく休職者数で効果を測ります。一方、従業員が日頃の悩みを相談できる場を提供することが目的であれば、利用率も有用な指標になってくるでしょう。
何を目的にEAPサービスを利用するかによって、採用すべきKPIも変わってきます。KPIがはっきりすれば、EAPの効果も可視化できるようになります。EAP導入の目的とそれに対するKPIの設定の例は、厚労省こころの耳のサイトをご参照ください(こちら)。
EAPのサービスの質が悪い
EAP会社は数がとても多く、サービスの質が必ずしも良くないのが現状です。EAPによってはハラスメントの相談で企業の対応が必要であっても、企業に情報を提供してくれなかったり、カウンセリングの質が良くなくて利用率やリピーター率が上がらなかったりします。
メンタル不調者が発生したときに自社とどのように連携できるのか、そしてKPIの実績がどうなのかを事前にチェックしておきましょう。
EAPとは?その目的と対象
EAPの目的は、「従業員と職場のパフォーマンス向上」を目指し、組織と個人の両方を支援することです。従業員の生産性を下げている原因を特定し、解決支援をして生産性を早期に回復できるようサポートします。
「業務パフォーマンスの向上」に焦点をあてて、従業員個人の問題解決や職場の生産性向上のためのサービスを提供しています。医療や産業保健の専門家が集まり、疾病そのものを治療するのが目的なのではなく、疾病があったとしてもパフォーマンスを保てるようサポートをしたり、疾病以外の問題にも対応したりします。
日本では、主にメンタルヘルス予防目的として活用されています。しかし、本来は健康(ウエルネス)、メンタル、家族、経済問題(借金など)、アルコール、薬物、法律、感情、ストレス、など、幅広い問題に対応するものとされています。*2
EAPがカバーする事業範囲
主にメンタルヘルス対策のサービスを展開するEAP企業が多く、EAP会社ごとに様々な事業を行っています。疾患の予防(一次予防)から職場復職支援(三次予防)まで、幅広いメンタルヘルスの問題をカバーしています。
また、従業員や管理職などの個人に対するアプローチと、部署や企業などの組織・会社に対して行う事業があります。株式会社シード・プランニングがEAP企業に対して行った調査では、次のような事業内容が報告されています。*3

具体的な事業としては、これらを実施しているEAP会社が多いです。
- EAPカウンセリング(キャリア・メンタル・コミュニケーション等)
- コンサルテーション(人事や上司へのラインケアのアドバイス)
- ストレスチェックの実施と集団分析
- 社員・管理職・ハラスメント研修
- 職場復帰支援 など
また、緊急時対応(災害、ポストベンションなど)やハラスメント相談窓口を設けている会社もあります。
EAPには産業医、精神科医、臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、社会保険労務士、キャリアコンサルタントなどの専門家が在籍しています。そのため、医学的なものやキャリアに関するものまで、幅広いトピックに対応しています。
カウンセリングやコンサルテーション、研修の中にも様々な内容のサービスがあるので、自社の従業員に必要なサービスを選んで契約することができます。
*3株式会社シード・プランニング「EAP相談機関の活動実態調査 ー調査協力会員様サマリー版ー」電話またはメールにてEAP企業計30事業者に取材を実施(調査期間2011年8月~10月)
EAPの種類とその得意領域
目的に合ったEAP会社を選びましょう、というお話をしてきましたが、ではどのようにEAP会社を見分ければいいのでしょうか?見分けるヒントになるのが、EAPの得意領域です。
EAPには、その得意領域によって主に「コンサル系」「心理系」「医療系」EAPの3つに分類されます。

コンサル系EAPでは、キャリアカウンセリングや自己啓発、組織コンサルテーションといった発達支援を中心としています。ストレスチェックの実施とそれに伴う集団分析と職場環境改善へのコンサルテーションを行う場合も多いです。一次予防など、戦略的なメンタルヘルス対策に強みをもっています。
心理系EAPは、カウンセリングや上司へのコンサルテーション等の適応支援を中心としています。臨床心理士や保健師、精神保健福祉士などの専門スタッフが充実しており、従業員個人へのサポートを得意としています。
カウンセリングの内容によってサービス利用の目的も変わってきます。従業員にどのようなカウンセリングが必要なのかによって、利用するサービスを選べると良いでしょう。
医療系EAPでは、職場復帰支援などの医療的支援を中心としています。大人の発達障害の傾向にある方が働きながら医学的ケアも受けられるサポートをするEAPもあります。職場復帰制度がまだ自社で整備されていない場合などは、力になってくれるかもしれません。
3種類のEAPはどれも似たような事業を展開しており、見分けがつかないこともあります。しかし、どの系統のEAPなのかを見分けられると、自社のニーズに対して適切なEAP会社を選ぶことができます。
EAP選びに成功する3つのポイント
ここまでの話を踏まえて、EAP会社と契約する前に検討すべき3つのポイントをまとめます。
- EAPと契約する目的・KPIは何か
- 目的に合ったEAP会社であるか
- サービスの質がどれだけ担保されているか
EAPと契約する前に、自社の従業員が抱えている問題を明らかにし、何をEAP効果評価のKPIとするのかをよく検討してみてください。EAPは一次予防から三次予防まで、そして個人に対するアプローチから組織に対するアプローチまで、様々な事業を展開しています。
上記で説明した通り、EAP会社にはそれぞれ得意領域があります。自社が必要とするサービスが、その得意領域と一致していることが大切です。同じようなサービスを展開しているEAP会社でも、各EAPの目的や対応には違いがあります。
また、EAPの質には企業によってバラツキがあります。問題が起きた時の対応方法や、これまでの対応件数などを確認しておきましょう。KPIの実績や利用者の声などを参考に、費用対効果がきちんと得られるEAPであるか、チェックすることをおすすめします。
健康経営で効果的なKPIを設定する方法は、こちらの記事でご説明します。
EAPを導入するメリット
社外のEAP企業と契約するには、主に3つのメリットがあります。
- 経営上の効果がある(メンタルヘルス不調の減少や従業員の生産性向上)
- 社員自身へのメリットがある(従業員満足度向上など)
- 問題発生のリスクマネジメントになる
EAPには、従業員による事故やミスの減少や、欠勤・休職などによる労働損失の減少、従業員の生産性向上という経営上のメリットがあると言われています。株式会社シード・プランニングによる調査では、EAPによる休職者の減少や精神健康度、パフォーマンスの向上、心理的ストレス反応の低下などの成功事例が報告されています。*3
福利厚生として、従業員自身へのメリットもあります。メンタルヘルスが良くなるだけでなく、キャリアカウンセリングや能力開発の研修ではキャリアアップに繋げることができます。従業員の満足度が向上し、仕事のやる気もアップさせることができます。
また、休職者の発生やパワハラ発生による企業イメージの低下は、大きな対応コストがかかります。リスクマネジメントのためにEAPを活用する企業も多くあります。
EAPは外部資源のため、内部の産業保健スタッフや人事よりも相談をしやすいというメリットがあります。例えば、従業員はハラスメントの相談をしたら会社にバレるのではないか、という不安を持っています。会社とは別組織であることをアピールすることで利用率を上げ、ハラスメントの早期発見・早期対応ができるようになります。
EAPを上手く活用すれば、大きなメリットがあります。EAPのメリットが十分に発揮されるように、ここでご紹介した3つのチェックポイントを実践してみてください。