産業医が職場巡視でチェックする項目は?頻度を2ヶ月に1回に変更するルールも解説

産業医の職務の一つとして、職場巡視があります。職場巡視は、労働安全衛生法の遵守のために必要な職務です。産業医を初めて選任した場合に、具体的に職場のどこをどんな点に留意して巡視してもらえばよいのか、人事としては事前にポイントを知っておく必要があります。
ちなみに、産業医の職場巡視は1ヶ月に1回が基本ですが、条件を満たせば2ヶ月に1回でもよいとされています。今回は、産業医が職場巡視でチェックすべき項目や、事業場を訪問すべき頻度について見ていきましょう。
産業医が行う職場巡視とは?
企業が選任した産業医の役割は大きく3つの管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)に分かれます。事業場で行う職場巡視では、「その作業環境で病気にかかるリスクはないか」(作業環境管理)「腰痛など怪我をしやすい作業内容ではないか」(作業管理)といった点をチェックすることにより、労働者の健康管理につなげる業務のことです。
職場巡視の効果を高めるためには、何に気を付ければよいのでしょうか。以下で、全体の流れを確認してみましょう。
職場巡視をする前の準備
たとえばデスクワーク中心のオフィスでは産業医の職場巡視に長い時間をあてる必要はありません。それでも、リスクの高い箇所を見逃さないように職場巡視の準備が必要です。
まずは、職場巡視の計画表や巡視で使用するチェックリストを作成します。職場巡視の当日に、「職場巡視に来たけれど、何を見ればよいのか分からない」という状況は避けたいものです。従業員の作業の邪魔にならないよう配慮する必要もあります。
計画表を作成することによって、巡視の具体的なイメージが湧きやすくなるでしょう。また、チェックリストを用意しておけば、職場巡視時の確認漏れを防ぐことが可能です。
実際に職場巡視と記録を行う
職場巡視を実際に行うにあたって、以下の点を抑えておきましょう。
- 作業者が立ち入る場所はすべて巡視する
- 巡視の際には、作業者と同様の作業着を着用する
- 巡視者の安全を確保した上で巡視を行う
- 労働者の仕事内容、行動範囲などを観察する
- 作業環境、設備面に不備がないかチェックする
- 災害が起きる可能性があるかをイメージする
- 積荷や汚れの程度を確認し、作業者の行動パターンを予測する
- 間接的な災害要因がないかを確認する(作業性・コスト・品質など)
- 作業所以外の場所も見て回る(事務所・トイレ・休憩室など)
上記のような着眼点を持って職場巡視を行い記録します。ただし、悪い点ばかりを抽出するのは避けた方がよいでしょう。職場環境に良い点を見つけたら、あわせて言及するのが望ましいです。
職場巡視終了後の記録の保存
職場巡視を行ったら、詳細を忘れないうちに職場巡視記録を作成しておきます。ちなみに、職場巡視記録の作成は、法律で義務付けられているわけではありません。しかしながら、労働基準監督署による臨検の際、職場巡視についてチェックされることがあります。そのため、職場巡視のたびに記録を作成して、臨検ですぐに提示できるようにしておくのが望ましいでしょう。
職場巡視の詳細については、衛生委員会と共有する必要があります。産業医の職場巡視にあわせて衛生委員会を行うケースも多く、衛生委員会の議事録と職場巡視記録が一緒にまとめられることもあります。
職場巡視は2ヶ月に1回でも可能

従来は、職場巡視を1ヶ月に1回行うのがルールとされていました。しかし、2017年に法令が改正され、2ヶ月に1回の頻度でも認められるようになったのです。
このルールについては、以下の「労働安全衛生規則第15条」で説明されています。
(産業医の定期巡視)
労働安全規則規制第15条
第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 第十一条第一項の規定により衛生管理者が行う巡視の結果
二 前号に掲げるもののほか、労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であつて、衛生委員会又は安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの
職場巡視の頻度を2ヶ月に1回に変更するために必要な条件をまとめると、以下の通りとなります。
- 事業者の同意を得ること
- 事業者が産業医に対して、所定の情報を毎月提供すること
- 衛生管理者が、職場巡視を週1回行うこと
これらの条件の中で最も重要なのが、「衛生管理者が職場巡視を週1回行うこと」という条件です。多くの企業では、衛生管理者による職場巡視はあまり行われていません。特に、デスクワーク中心の企業ではその傾向が顕著です。衛生管理者が職業巡視を行えば、産業医の巡視回数を「1ヶ月に1回」から「2ヶ月に1回」に減らせるようになります。
ちなみに、50人未満の事業場の場合、産業医・衛生管理者の選任義務はともに発生しません。このため、産業医や衛生管理者による職場巡視義務も発生しないことになります。
ただし、大手企業の支社や店舗などの場合、労働者数が50人未満であったとしても、職場巡視を行うケースが多いです。その場合は、事業場内で「衛生推進者」を選任して巡視してもらったり、本社の保健師が2~3ヶ月の頻度で訪問し巡視を行ったりすることで対応しています。
職場巡視の頻度は勝手に変更できない
条件を満たせば産業医の職場巡視の頻度を「2ヶ月に1回」に変更できますが、産業医が独断で頻度を変更することはできません。変更することを事業主に伝え、同意を得る必要があります。
そして、産業医の同意を得ないまま、事業主の一存で頻度を変更することもできません。職場巡視の頻度を変える際には、一定期間ごとに衛生委員会などで審議を行います。

まとめ
産業医が職場巡視を行うなら、計画表やチェックリストを活用するとスムーズです。ただ作業現場を眺めているだけでは、職場巡視が無意味なものとなってしまいます。チェックすべき項目を確認しておき、巡視当日は効率よく回りましょう。
職場巡視の頻度を2ヶ月に1回に減らすこともできますが、事業主と産業医双方の同意が必要であることを頭に入れておきましょう。衛生管理者などと連携しつつ、職場環境の改善に努めることが大切です。