ストレスチェックの実施者は誰のこと? 決め方や仕事内容を調べてみました

2020年5月18日 更新 / 2019年9月20日 公開
ストレスチェックで組織改善
ストレスチェックの実施者の決め方

ストレスチェックの実施者というのは、具体的に誰のことを指すのでしょうか?誰でもストレスチェックの実施者になれるのか、どんな人がなっているのか、決め方は?数々の疑問について調べてみました。

ストレスチェックとは

ストレスチェック(制度)は、2015年12月に施行された改正労働安全衛生法で、50人以上の労働者を使用する事業場を対象に義務化されたものです。労働者の心理的な負担の程度を調べてメンタルヘルスの不調を未然に防ぐための制度でストレスに関する選択式の質問票を用意し、労働者がその質問票に回答して、それを集計・分析します。この一連の作業を通して、労働者がどのようなストレス状態にあるのかを調べます。労働者を50人以上使用する事業場では毎年1回このストレスチェックを全ての労働者(※)に実施することが義務付けられています。

※契約期間が1年に満たない労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象には入っていません。

ストレスチェックの目的

まずは、心に不調を抱える人のデータをご覧いただきたいと思います。
下の二つの資料からは、精神疾患を抱える人の数や精神疾患での労災の請求・支給決定件数が増加の傾向にあることが分かりますね。

それから、下の資料からは「うつ病」や「躁病及び躁うつ病」の患者の数が増加の傾向にあることが分かります。「気分変調症」は増減を繰り返していますが、一定数以上は減っていないことも分かります。

気分障害患者数の推移


厚生労働省 平成26年度地域・職域連携推進事業関係者会議 職場におけるメンタルヘルス対策の推進について(PDF)より

このように、現代の労働者は心に不調を抱えている人が多くいますので、労働者自身による気付きやセルフケアをはじめとするストレスへのケアが必要になってきています。ストレスチェックでは、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことで労働者の心身を健康な状態に保とうとするものです。また、万が一、高ストレス状態にあった場合には早めに対策をとることで重症化を防ぐことにもつながります。そのためにも、ストレスチェックは決められた実施者が適正に行う必要があるのです。

ここが非常に重要なのですが、ストレスチェックは、事業主が行うことは認められていません。ストレスチェックの実施は、事前に決めた実施者が行わなければならない規定があるからです。この「実施者」とはどのような人なのか? というのが、今回のお話です。

ストレスチェックの実施者とは

上記でお話ししたストレスチェックを実施運営する人をストレスチェックの実施者と呼びます。では、ストレスチェックの実施運営とは一体どのようなものなのでしょうか。

ストレスチェック実施者に関する法律上の規定

労働安全衛生法(以下、安衛法と言います。)第66条10第1項によると、以下のように規定されています。

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

上記の規定の中に明記されていますが「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」で、ストレスチェックを実施する人のことをストレスチェックの実施者と呼びます。そして、ストレスチェックの実施者は、ストレスチェックを計画して、実施し、結果を評価します。なお、この規定にある「その他の厚生労働省令で定める者」というのは、厚生労働大臣が定める研修(※)を修了して検査のための知識を習得している「看護師」「精神保健福祉士」を指します。それから、ストレスチェックの実施者が複数いる場合、その実施者を共同実施者と呼びますが、複数名の実施者を代表する者を「実施代表者」と呼びます。

※厚生労働大臣が定める研修とは

厚生労働大臣が定める研修とは、以下のものを指します。

次の各号に定めるところにより行われる学科研修(これに相当する研修であって、平成27年12月1日前に開始されたものを含む。)で、次のイからハまでに掲げる科目について、それぞれイからハまでに定める時間以上行われるものが認められます。

イ 労働者の健康管理 2時間
ロ 事業場におけるメンタルヘルス対策 1.5時間
ハ 事業場における労働者の健康の保持増進を図るための労働者個人及び労働者の集団に対する支援の方法 1.5時間

以上が、法的に規定されている部分からのお話です。それから、ストレスチェックの実施者に関しては平成26年10月3日に開催された平成26年度地域・職域連携推進事業関係者会議「職場におけるメンタルヘルス対策の推進について(PDF)」でも、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが事業者の義務になることや、ストレスチェックの実施者が医師、保健師のほか、一定の研修を受けた看護師、精神保健福祉士になることが予定されていました。どのような人がストレスチェックの実施者になれるかということについては、安衛法とストレスチェック制度に関する省令(PDF)で詳細を確認することができます。

ストレスチェック実施者になれない人

上記の法律上の規定を満たしていれば誰でもストレスチェックの実施者になれるというわけではありません。上記の資格を満たしていても、検査を受ける労働者について解雇、昇進または異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある人は、 ストレスチェックの実施の事務に従事する実施者・実務従事者(※)になれません。

もし、検査を受ける労働者に対する人事権を持っている人がストレスチェックの実施者になった場合、ストレスチェックの結果や面接指導の内容や結果によっては、該当の労働者が人事的に不利益な対応(不当な異動や解雇、降格や降給など)をしてしまう可能性がありますから、それを避けるためにこのようになっています。ただし、人事権などを持っているためにストレスチェックの実施者にはなれない人でも、ストレスチェックを受ける労働者の個人情報に触れることのない実施計画の作成や管理などに携わることはできます。

※実務従事者とは

ストレスチェックの実務従事者とは、実施者の指示を受けて、ストレスチェックの実施の事務(個人の調査票のデータの入力、ストレスチェックの結果の出力や記録の保存(事業者に指名された場合に限る)などを含む。)に携わる人を指します。

ストレスチェックの実施者は何をするのか

ストレスチェックの実施者の役割は以下のものです。

ストレスチェックの実施者は専門的なアドバイスをする

ストレスチェックの実施者は、事業者に対して専門的な見地から意見を述べます。事業場におけるストレスチェックの調査票の内容や項目の選定、調査票に基づくストレスの程度の評価方法、高ストレス者の選定基準の決定などがこれに該当します。

ストレスチェックの実施者は評価方法や基準の確認をする

どのような人を高ストレス者とするのか、その評価の方法や選定の基準を決定する為に専門的な見地から提案や助言などをします。企業や部署などによって労働者の置かれている環境には大きなと害がありますからその事業場に詳しい衛生委員会の意見も参考にします。

ストレスチェックの実施者は面接対象者を選定する

ストレスチェックを実施し、検査結果を集計・分析すると、ストレスを抱えている労働者が分かります。ストレスチェックの実施者は、高ストレス者として面接指導が必要なのは誰かを判断します。高ストレス者の選定基準について専門的な立場に立って事業主に意見したり、医師による面接を受ける必要性の有無について確認したりします。

お役立ち資料"従業員50人からはじめる健康労務の法令遵守"をダウンロードする
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ストレスチェックの実施者の決め方

ここまで読んでいただくと、ストレスチェックの実施者には専門的な知識が求められていることが分かりますが、では、ストレスチェックの実施者はどのように決めるのが良いのかということにお話を移していきたいと思います。

第1段階:ストレスチェックの実施者を社内で探す

ストレスチェックの実施者をどのように決めれば良いのか?という疑問にお答えしたいと思います。

まず、ストレスチェックの実施義務があるのは常時使用する労働者の数が50人以上の事業場です。この50人にはパートタイム労働者や派遣先の派遣労働者も含めて考えます。人数がこれに満たない事業場の場合には、しばらくの間はストレスチェックの実施が努力義務とされています。下の表にあるように、常時使用する労働者の数が50人以上の事業場には1人以上の産業医の選任義務がありますから、一般的にはその事業場の産業医がストレスチェックの実施者になるのが望ましいです。最もその事業場の状況について詳しく知っている医療職ですので、まずはその事業場の産業医にストレスチェックの実施者になってもらえるように依頼してください。ただ、産業医には嘱託産業医と専属産業医がいます。

常時使用する労働者の数が50人以上999人までの一般的な業種の場合、嘱託産業医の可能性が高いので、その産業医の他の業務の状況によってはストレスチェックの実施者になることを断られてしまうこともあります。

事業場に必要な産業医の数

もし、事業場の産業医にストレスチェックの実施者になることを断られてしまった場合、どうしたら良いのか…というのが疑問として残ります。このような場合には、ストレスチェックの実施者になることができる人がいるかどうかをまずは社内で確認してみてください。安衛法第66条10第1項の規定をもう一度見てみましょう。

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

つまり、医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を修了して検査のための知識を習得している「看護師」「精神保健福祉士」がいないかどうか確認します。もしこれらの条件に該当する人がいない場合やこれらの人にも断られてしまった場合には、外部の事業者を委託先として探しましょう。

第2段階:ストレスチェックの実施者を外部に依頼する

社内でストレスチェックの実施者を探してもうまくいかなかったからと言って、ストレスチェックの実施義務が免除されたり猶予されたりするわけではありません。そのような場合には外部機関にストレスチェックの実施者を依頼してください。このような場合には2つの方法があります。

まず1つ目は、外部機関にストレスチェックの実施者を依頼するというパターンです。完全に外部にストレスチェックの実施者を依頼する場合には、ストレスチェック運営担当者が感じた問題点5つをまとめてみましたをご参照いただき、「内でストレスチェックが実施できない場合」の各注意点に十分気を付けた上で委託先の業者を選択するようにしてください。

次に2つ目は、ストレスチェックの実施者を複数にして、複数名の実施者を代表する「実施代表者」を外部に依頼して、共同実施者を社内の産業医などに依頼するパターンです。外部の事業者にストレスチェックの実施者を依頼する場合には、厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」(平成27年5月。改訂 平成28年4月 PDF)によると、産業医等の事業場の産業保健スタッフが共同実施者として関与し、個人のストレスチェックの結果を把握するなど、外部機関と事業場内産業保健スタッフが密接に連携することが望ましいとされています。

これは、産業医が共同実施者にならなかった場合には、各労働者のストレスチェックの実施結果を知ることについて産業医が把握するために労働者ごとに個別の同意をとらないといけなくなってしまい、万が一、同意がとれなかった場合に対応することが難しくなってしまうためです。やはり、その事業場について最もよく知る立場にある産業医にはストレスチェックの実施者を断られてしまった場合でも共同実施者になってもらえるよう依頼していただきたいと思います。

ストレスチェックの実施者が見つからない場合には相談しましょう。

医師や保健師、それから看護師、精神保健福祉士(厚生労働大臣が定める研修を修了して検査のための知識を習得している)の中でストレスチェックの実施者として最適なのは産業医ですが、産業医につてがない場合には外部の紹介機関や日本医師会などに相談してみてください。例えば、健康診断を実施している機関に産業医の資格を有した医師がいて、かつ、他の事業場での産業医活動が可能な場合がありますし、親会社やグループ企業などに産業医がいる場合には相談してみてください。

また、平成25年12月25日の厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課長の専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務する場合の事業場間の地理的関係について(基安労発1225第1号)によると、専属産業医の所属する事業場と非専属事業場の2つの事業所間の距離が徒歩又は公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、1時間以内で移動できる場合も含まれるとなっています。ですから、地理的に近い関係にあれば他の事業場の専属産業医が非専属の事業場での活動も認められます。

ストレスチェックの実施者がいなければ実施しなくて良い?

どうしてもストレスチェックの実施者が見つからなかった場合には、ストレスチェックの義務がある事業場でもストレスチェック自体を実施しなくても良いのでしょうか?

ストレスチェックに関する罰則

ストレスチェックに関する罰則を確認しておきましょう。

ストレスチェック後には労働安全衛生規則様式第6号の2「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」で労働基準監督署への報告書の提出が必要です。常時使用する労働者の数が50人以上の事業場で、ストレスチェック実施後の結果の報告を行わなかった場合には50万円以下の罰則金の支払い義務が課せられることもあります。これは、安衛法第120条5条の規定によります。結果の報告書を提出するまでが、ストレスチェックの一連の流れということですね。(常時使用する労働者の数が50人未満の事業場で実施する場合も、法令や指針等に従う必要はありますが労働基準監督署への報告に関しては報告義務がありません。)

それから、ストレスチェックを実施しなかった場合にも、安衛法第100条、労働安全衛生規則第52条の21の規定に基づいて「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(様式第6号の2)」を所轄の労働基準監督署長に提出しなければならず、提出しなかった場合には、安衛法第120条5条の規定により罰則が課される場合があります。ストレスチェックの義務の対象になっている場合には、ストレスチェックを実施してもしなくても義務が必要ということですね。さらに、状況次第では安全配慮義務違反が問われることにもなりますので、十分にご注意ください。

以上を踏まえて、事業主は事業場ごとに毎年1回以上のストレスチェックを実施して面接指導も終了してから、その結果を提出してください。報告書の提出時期は、各事業場の事業年度の終了後など、事業場ごとに設定して差し支えないとされています。なお、複数の事業場がある場合でも、ストレスチェックは事業場ごとに行うものですから本社がまとめて結果を提出することはできません。ですから、本社の所在地を管轄する労働基準監督署への一括提出ではなく各事業場を管轄する労働基準監督署へ提出してください。所定の書類を労働基準監督署に持参もしくは郵送するか、Webサイト「電子政府の総合窓口 e-Gov(イーガブ)」を利用することもできます。よく聞かれるのですが、下にある心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書(PDF)の「産業医」という欄は、その事業場の産業医を指します。ストレスチェックの実施者や外部の委託業者ではありませんのでご注意ください。

心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書の産業医の欄

さいごに

ストレスチェックの実施者になれる人や選び方についてお話ししてきました。ストレスチェックは実施してもしなくても結果の報告が必要です。ストレスチェックの実施者が定まっていない場合には、紹介機関の力なども借りてみてくださいね。

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