健康診断結果の取扱方法と保存期間、法律関連も交えて徹底解説

健康診断には大きく分けて、一般健康診断と特定健康診断の2種類があります。
実施頻度や健康診断結果の保存期間などに違いがある2種類ですが、今回はそれら違いの中から健康診断結果の保存やその取扱方法に関して解説していきます。
健康診断結果の種別ごとの保存期間
健康診断には、定期健康診断や雇い入れ時の健康診断などの一般健康診断と、労働衛生上特に危険な業務に関する特殊健康診断があります。
厚生労働省|労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~
一般健康診断の保存期間
一般健康診断は定期健康診断、雇い入れ時の健康診断、特定業務従事者の健康診断、海外派遣者の健康診断、給食業務従事者の健康診断があります。労働安全衛生規則第51条に基づき5年間の結果保存義務があります。
代表的な、定期健康診断、雇い入れ時の健康診断、特定業務従事者の健康診断についての検査項目は以下の1~11の検査項目で、これらの検査結果を会社で保管する必要があります。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
(GOT、GPT及びγ-GTPの検査) - 血中脂質検査
(LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド) - 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
特殊健康診断の保存期間
労働衛生対策上、特に有害であるといわれている業務に従事する労働者を対象として実施する「特殊健康診断」には以下のようなものがあります。
- じん肺健康診断
- 高気圧家業務健康診断
- 除染等電離放射能健康診断
- 四アルキル鉛健康診断
- 特定化学物質健康診断
- 鉛健康診断
- 有機溶剤健康診断
- 石綿健康診断
- 歯科健康診断
特殊健康診断の結果の保存期間も5年間のものが多いですが、一部はより長期間の保存が義務となります。
具体的には、特定化学物質健康診断の特別管理物質、電離放射線健康診断、除染等電離放射線健康診断は30年間、石綿健康診断は40年間、じん肺健康診断は7年間の保存義務があります。
詳しくは厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」という資料を参考にしてください。
労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう|厚生労働省
健康診断結果の取り扱い
健康診断は受診する義務だけでなく、健康診断結果の取り扱いについても法令でルールが決められています。厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく定期健康診断関係資料 資料2」には以下のように事後措置の概要がまとめられています。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断関係資料 資料2
健康診断結果の保存
健康診断結果の保存は、業務災害と考えられる健康被害が発生した際に、過去の健康診断結果を確認したり、保健指導をしたりするために求められており会社が保管します。定期健康診断の場合、結果の保存期間は5年間です。
従業員への健康診断結果の通知
健康診断実施後は、所見の有無にかかわらず受診者全員に健康診断の結果を文書で通知する必要があります。
健診クリニックから本人用の健康診断結果が届くため、人事部から本人宛に渡すケースが多いです。その他にも、健診クリニックが直接従業員の自宅に郵送しているケースや、雇入れ時の健康診断では本人が受診結果を会社に提出することもあります。
就業判定(医師の意見聴取)
健康診断の受診後は、医師による意見聴取が義務付けられています。健康診断結果を事業所で選任している産業医に確認してもらうことが多いです。
仕事を継続する上で問題のある健康状態の労働者については、個別に産業医面談を実施して就業上の措置を決定します。
労働基準監督署への報告
常時使用する労働者が50人以上の事業場は、所轄の労働基準監督署へ結果の報告義務があります。報告書に受診者数や有所見者数を記入して提出します。
各種健康診断結果報告書|厚生労働省
聴力検査、肝機能検査、血中脂質検査など、項目ごとに「実施者数」と「有所見者数」を計算して記入する必要があり、健康診断結果をデータで管理していないと集計に時間がかかります。
また、50名以上の事業場単位での提出が必要なため、50名以上の拠点が複数ある企業については複数の労働基準監督署への報告書を作成して提出しなければなりません。
有所見者への保健指導
有所見者には保健指導の実施が努力義務となっています。
外部サービスを利用したり、産業医から衛生委員会の際に衛生講話で従業員向けの健康教育をしてもらうなど、健康診断結果の受領を健康な生活習慣に変える1つの機会として活用されています。
保健指導についての詳細は、厚生労働省の「健診・保健指導のあり方」のWEBサイトや「標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会 3編 保健指導」の資料等を参照ください。
健康診断結果の取り扱いに関するよくある質問4選
【質問1】健康診断結果が届くのが遅いのはなぜ?
健康診断を受診してから、健康診断結果が届くまでには2週間〜1ヶ月半ほど時間がかかります。なぜかというと、血液検査は健診クリニックで血液採取した後に外部機関で分析結果を出していたりすることと、健康診断結果のデータを入力したり、郵送する書類の整備をするのに時間を要するためです。
【質問2】紙・PDFが多い健康診断結果。おすすめの保管方法や注意点は?
健康診断の結果は、多くのケースでは紙で発行されます。
会社の倉庫内に紙で保管すると、集計作業をしたり、過去の健康診断結果を取り出したりするのに手間がかかります。健康診断結果は5年間の保管義務がありますが、保管するだけではなく、過去の健康診断結果を使う場面が意外と多いことに注意が必要です。
健康診断結果はデジタル化して健康管理システムで管理するのがおすすめです。
集計作業を自動化できたり、産業医面談の準備に健康診断の結果を探す必要もなくなったり、大幅に作業を効率化できます。
なお、健康診断結果は5年保管義務については、デジタルデータでも果たすことができます。
【質問3】退職した従業員の健康診断結果は、どう扱えばよい?
退職した従業員の健康診断結果も、5年間保存する義務があります。退職後も健康診断結果を破棄することはできません。
【質問4】健康診断結果は、長期保存が望ましい?
健康診断結果は5年間の保存義務がありますが、長期保存すれば良いというわけではありません。一般的には5年間経過後に、健康診断結果を破棄しています。「健診結果等の保存期間について(現状)」によると、保険者や被保険者・被扶養者は健康診断結果を長期保存することが望ましいと記載されています。
被保険者・被扶養者は、生涯を通じた自己の健康管理の観点から、継続的な健診データの保管が望まれる。健診データを保有すべき期間は5年間であるが、保険者や被保険者・被扶養者は、できる限り長期間、健診データを保存し参照できるようにすることが望ましい。
健診結果等の保存期間について(現状)
とはいえ、企業については、法律で求められていない健康診断結果を保管することは、
- 情報管理のコストや情報漏洩のリスクが伴うこと
- 安全配慮義務の範囲が拡大すると解釈されうること
- 従業員や退職者から反対される可能性があること
などから5年という法律の規定を超えて長期保存していることはあまりありません。
さいごに
2019年4月の労働安全衛生法改正により、企業は「健康情報等の取扱規程」の策定が義務付けられています。そのため、健康診断結果について、どんな情報を会社で把握し、どのように保管し、活用していくのかルール設計がより慎重に求められるようになりました。
健康診断は実施するだけではなく、労働者が健康な状態で働けるよう、作業管理や作業環境管理に活かしていく必要があります。有効な健康診断を実施するためにも、正しい保管・取り扱いを実施するようにしましょう。