ストレスチェックで組織改善
2022年12月19日 更新 / 2019年9月17日 公開

ストレスチェック運営担当者が感じた問題点5つをまとめてみました

運営担当者が感じるストレスチェック5つの問題点

2015年12月に始まったストレスチェック制度。あれから2年以上の日が経ちましたが、ストレスチェック運営担当者が感じた問題点はどのようなものだったのでしょうか。ここまでの経過と併せて確認してみました。

ストレスチェック制度とは

ストレスチェック制度とは、2015年12月に施行された改正労働安全衛生法で、50人以上の労働者を使用する事業場を対象に義務化されたもので、労働者の心理的な負担の程度を把握してメンタルヘルスの不調を未然に防ぐための制度です。

一般的にはストレスに関する選択式の質問票を用意し、労働者がその質問票に回答して、それを集計・分析することで労働者がどのようなストレス状態にあるのかを調べます。労働者を50人以上使用する事業場では毎年1回このストレスチェックを全ての労働者(※)に実施することが義務付けられています。

※契約期間が1年に満たない労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象には入っていません。

メンタルヘルス不調者の推移を確認

では、ストレスチェック制度が義務化された背景としても考えられるメンタルヘルス不調者の推移はどのようになっているのでしょうか。厚生労働省の資料で確認してみたいと思います。

メンタルヘルス不調者の近年の推移

年々、精神疾患を有する患者数が増えているのがよく分かりますね。それから、厚生労働省が平成27年6月25日に発表した平成26年度「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害の労災請求件数1,456件、支給決定件数497件、ともに過去最多だったそうです。

精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
厚生労働省 平成28年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2 精神障害の労災補償状況(PDF)

精神障害の労災補償状況のグラフからは、毎年のように請求件数が増加していることが分かります。実際の支給決定件数には増減がありますが、少なくとも「請求」している数が増えているという状況からは、患者数が減少していないことが推測できます。

先ほどの資料と併せて見ても、メンタルヘルスに不調を抱えている人が年々増えている現状にあることが分かります。

では、そのような中で義務化されたストレスチェックは本当に機能しているのか、効果があるのか、問題点はないのか確認してみましょう。

健康経営とメンタルヘルス対策

健康経営という言葉が日本で広がってきたのは2009年ごろのことでした。ストレスチェックが義務化されたのが2015年12月ですから、健康経営が世に広く知られているのではないかと思っていたのですが、実はそうでもなかったようです。というのは、経済産業省の「健康経営の啓発と中小企業の健康投資増進に向けた実態調査」調査概要及び中間報告(2015年10月29日・PDF)によると、約6割もの経営者が健康経営という言葉を知らないという衝撃の事実が判明しました。

健康経営を知っているか
左 : 経済産業省 「健康経営の啓発と中小企業の健康投資増進に向けた実態調査」調査概要及び中間報告(PDF)より
右 : 健康経営センサス調査2013(ヘルスケア・コミッティー株式会社、株式会社日本政策投資銀行、株式会社電通)(PDF)より

さらに、東証1部上場企業を対象に行った健康経営センサス調査2013(ヘルスケア・コミッティー株式会社、株式会社日本政策投資銀行、株式会社電通)では、健康関係担当者の健康経営の認知度は業種に関わらず8割で、その内容まで認知しているのはわずか31.4%でした。

メンタルヘルスケアと健康経営は切っても切れない関係ですが、このような調査結果からストレスチェック制度の効果が社会にうまく機能していない問題点が浮かび上がってきます。

ストレスチェック制度の問題点は…

これまでもストレスチェックの集計・分析結果をうまく活用できていないという声は聞こえていました。それを証明するかのように、中央労働災害防止協会から非常に興味深い発表がされています。
この発表によりますと、ストレスチェックの集計・分析以前の問題としてストレスチェックを実施するための運用の時点での苦労と、ストレスチェックを実施した後の対応や結果の活用に関しての課題などが挙げられていました。

つまり、ストレスチェックを実施するための準備がなかなか進みにくいこと、ストレスチェックを実施したとしてもその後の対応が難しいことが全体に共通する問題点として考えられるのではないでしょうか。実際、ストレスチェックを実施・運営した担当者にとってもこれらは非常に大きな問題になっているようです。

ストレスチェックの問題点その1:運用の準備

ストレスチェックを実施するための準備がなかなか進みにくいとよく耳にしますが、これはストレスチェック制度に対する理解不足に起因しているものと思われます。例えば、会社で行う健康診断とストレスチェックは何が違うのか?を考えてみると、非常におおざっぱな言い方ですが、健康診断は体の状態を調べるためであるのに対して、ストレスチェックは心の状態を調べるためにあります。大きな違いを列記してみましょう。

<体の健康診断>

  • 労働安全衛生法で実施が義務付けられています。
  • 従業員は定期健康診断を受ける義務(受診義務)があります。
  • 事業主には健康診断実施後の措置を行う義務があります。
  • 事業主は、健康診断の実施後に健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、保存してなければなりません。

<心の健康診断>

  • 常時50人以上の労働者を使用する事業場には実施義務があります。
  • 従業員には受診義務はありません。
  • 従業員本人の同意がなければ会社にはストレスチェックの結果は報告されません。
  • 労働者が高ストレス状態にあっても、労働者自らが高ストレス者面接を申し込まなければ業務上のストレスの軽減措置はとられません。

このように、体の健康診断と心の健康診断では大きな違いがあります。しかし、この違いが大きいのに反してそれを知る人が少ないことからストレスチェックの実施運営担当者は周りの理解不足により運用や調整がうまくいかないという問題点に突き当たってしまうのです。

ストレスチェックの問題点その2:社内でストレスチェックが実施できない場合

ストレスチェック制度は義務化から既に2年以上の月日が経ったものですが、これまで実施運営者がさまざまな困難を抱え、問題点や課題も抱えています。ストレスチェックをどのように実施するのかという点も悩みどころの一つだったようです。社内で行うのか、それとも外部の専門家の力を借りるのかという点です。もし、今後ストレスチェックを外部に委託する場合には、以下の点を必ず確認するようにしてください。

  1. 委託先がストレスチェックの趣旨や守秘義務について正しく理解できているか
  2. 委託先のセキュリティ状態や個人情報保護に対して理解・徹底できているか
  3. 外部の委託先とその事業場の産業医が連携できる体制を整えられるか
  4. 委託業務全体の責任者が明確にされているか
  5. ストレスチェックの実施体制(人数や資格など)が適正に整えられているか
  6. 調査票や評価方法、実施方法がどのようになっているか
  7. 実施後の対応はどのようになっているか
  8. 多言語への対応でできるか
  9. 面接指導の方法は適正か
  10. 面接指導後の対応はどうなっているか
  11. コストの問題(※)

※厚生労働省では、ストレスチェックに関する助成として、50人未満の中小企業限定ですが従業員一人に500円と設定しています。常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任義務がありますが、労働者が50人未満の事業場の場合には産業医の選任義務がありませんから一般的に産業医を選任していません。(常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合、ストレスチェック制度は当分の間、努力義務とされていますが、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止のため、できるだけ実施することが望ましいとされています。厚生労働省のストレスチェックの助成金は上記の規模の場合、ストレスチェックの実施の場合には従業員一人に500円が上限、ストレスチェックに関する意思による活動(「ストレスチェック実施後に面接指導を実施すること」「面接指導の結果について、事業主に意見陳述をすること」に限定されます。)の場合には1事業場あたり1回の活動につき21,500 円が上限(上限3回)ですので、外部に委託する場合のコストの参考にしてください。

ストレスチェックは誰もが実施者になれるわけではありません。ストレスチェックを受診する労働者の解雇や昇進、異動について直接的な権限を持つ監督的地位にある人(※)は、実施者にも実施事務従事者にストレスチェックの実施者にもなることができません。これらになることができるのは医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師や精神保健福祉士です。ちなみに、実施事務従事者(ストレスチェックの実施者の補助として調査票を回収してデータ入力したり、結果通知等の事務を担当したりします。)には産業保健スタッフや事務職員が担当することもありますが、この人たちにも守秘義務があります。

※厚生労働省の労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(PDF)によると、人事を決定する権限が与えられていなくても、人事に関して一定の判断を行う権限を持つ人も「直接の権限を持つ監督的地位にある人」に含まれます。

社内の産業医がストレスチェックの実施者になりたくない場合や、専門の医療職がいないなど何らかの事情があって社内でストレスチェックを実施できない場合には外部の機関にストレスチェックを委託することになります。
最近では、ストレスチェックを業務としている企業もありますので、外部の機関を使う方法も考えてみてください。社内でストレスチェックを実施できないさまざまな事情はあるとは思いますが、厚生労働省の心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針で、その事業場の産業医がストレスチェックをすることが望ましいとされていますから、外部の専門機関などにストレスチェックを委託する場合にも事業場の産業医を中心に据え、共同実施者として実施するように努めてください。

ストレスチェックの問題点その3:受診の環境の調整

それから、ストレスチェックは労働者が自分で記入して答える形式の調査票を使って行うものですから、労働者本人が自分自身のことについて落ち着いて冷静に答えることができるように配慮しなければなりません。回答に必要な環境をどのように整えるかも、ストレスチェックの実施運営者にとっては難しい問題点です。ストレスチェックが正しく理解されていない中で、受診に適した環境を整えるというのは少々厄介に感じるかもしれませんが、正しくストレスチェックを行うためにも非常に重要なことですからこそ担当者は困難に感じているのかもしませんね。

ストレスチェックの問題点その4:実施後の個別対応

労働者が高ストレス状態にあることが分かっていても、労働者自らが動かない限りストレスチェックの実施運営者はそれに対応するための行動がとれないという問題点も非常に大きなものです。

というのは、体の健康診断と違って心の健康診断であるストレスチェック制度は、労働者の同意がなければストレスチェックの結果を事業主に提供できないことや、検査の実施の事務に従事した者の守秘義務があるために、労働者自らが面接指導などの申し出をしなければ、ストレスチェックの実施運営者からは会社に特定の労働者に関して高ストレス状態にあることなどを申告できないからです。個別の面接指導を希望しているのに申し出ができていないのか、そもそも面接指導を希望していないのかということの見極めも非常に難しいようです。担当者として何とかしたいという思いと、高ストレス者でありながら医師の面接指導を希望しない人へのフォローも大きな課題として挙げられます。そして、ストレスチェックの実施運営担当者として目の前の労働者が高ストレス状態にありながら、担当者として自分の意思や裁量で事後対応ができないために非常にもどかしく歯がゆい思いをしている状況は、法的な理由があるとは言え、なかなか難しい問題ですね。個人情報や守秘義務があり、担当者は率先して関与することができないのです。

また、ストレスチェックを落ち着いて冷静に受信できる環境を整えるのと同様に、高ストレス状態という結果が出た労働者が安心して面接指導を受けられる環境づくりも必要です。高ストレスの労働者のプライバシーに配慮し、安心して面接指導を受けられるように配慮してください。

ストレスチェックの問題点その5:実施後の結果の活用

ストレスチェックの実施運営を担当した人が苦労するポイントには労働者が受診した後の結果の活用の仕方も挙げられます。ストレスチェックを実施した後には仕事のストレス判定図を使ってストレスになった要因を見ながら対策を考える集団分析があるのですが、その結果をどのようにフィードバックしていくのかということについてです。特に管理職に関して部下への配慮や自分が得ている評価に対する納得感や、職場の人間関係などは問題点であることが分かっていてもなかなか解決が難しい問題点でもあります。仕事の量が多過ぎることなどは比較的対応しやすいのですが、各種のハラスメントを含め人間関係はどちらか一方だけの責任だけで起きているとは言えないケースもありますし、プライベートや自尊心への配慮も必要ですから、担当者が非常に苦労する部分とも言えます。

ストレスチェックの結果が出た後、どのような優先順位で対策を立てるか、個人ごとの結果が担当者に知らされない状況で必要な対策を検討できないなど課題は山積みです。

ストレスチェックが企業にもたらす効果

ストレスチェックは労働者個人が高ストレス状態になることを未然に防止するためにも重要なのですが、それと同時に労働者の心身の健康に必要十分な配慮をすることは企業にとっても大切なことです。労働者の健康状態が悪化すると経営上のマイナスにもつながります。生産性の向上や業務の効率化を推進するためにも労働者の個々の心身の健康を保持し増進すること、企業全体としての健康レベルを底上げすることは今や常識にもなっていますよね。

最初にお話ししたように、メンタルヘルスに絡む労災の支給請求件数は増加の傾向にあります。仕事の場だけではなく社会全体で精神疾患の患者の総数が増加していますし、メンタルヘルス不調に関して労災としての請求件数や認定件数も増加しています。精神疾患の判定が以前よりも明確になったことで認定数が増えたことや、働き方改革が広がって働き過ぎと心の状態の関係に対して社会の認識が変わってきたことなども関係していると推測できます。そのような中で、企業におかれたストレスチェックの実施運営担当者の考える問題点は非常に大きな問題です。健康経営にも直結する問題ですし、特に中小企業の場合には従業員が一人でもかけてしまった場合のリスクを考えると早めの対策が必要ではないでしょうか。

さいごに

ストレスチェックの問題点は、解決に時間のかかるものもありますね。担当者と企業でストレスチェックに関する各種の問題意識を共有することで、ぜひそれぞれの事業場に適した方法を探していただければと思います。

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。