なぜ専属産業医の選任が義務なのか?探し方と人事の注意点

2019.11.6 更新 / 2019.9.20 公開
産業医とスムーズな連絡・共有
なぜ専属産業医の選任が義務?

常時労働者が50名以上いる事業場では必ず選任しなければならない産業医。常時労働者1,000人を超えると専属の産業医の選任も必要となってきます。ただ一般的な産業医である嘱託産業医とは何が違うのでしょうか?その違いや法律上のこと、探し方から人事の注意点までご説明いたします。

専属産業医と嘱託産業医の違い

専属の産業医と一般的な産業医である嘱託産業医の一番の違いは企業との契約内容です。専属産業医は基本的にはその事業場でのみ活動するのに対し、嘱託産業医は嘱託(非常勤)として企業と契約を結び活動、他の事業場とも嘱託産業医としての契約を結んでいることが多々あります。

企業との契約内容が違うだけで、どちらも産業医であること変わりなく、業務内容には大きな違いはありません。

なぜ専属産業医の選任が必要?

労働安全衛生法第13条で、常時使用する労働者が1,000人以上の事業場有害な業務に常時500人以上の労働者を使用する事業場には専属の産業医の選任義務があると定められているからです。

日本の安全衛生体制について、表をご確認ください。選任専属産業医数がそれぞれあります。

労働者の数に対して求められる産業医の数

例えば、常時3,000人を超える労働者を使用する事業場の場合、2人以上の産業医を選任しなければなりませんが、そのうちの1人以上は専属産業医でなければなりません。また有害業務に常時500人以上の労働者を使用する事業場の場合も同じく、1人以上専属産業医を専任する必要があります。文章だとややこしく感じるかもしれませんが、表で考えると非常にシンプルで分かりやすいと思います。

増加するメンタル不調に専属産業医への期待

職場でのメンタルヘルスケア

最近では産業医も精神科医と連携し、職場でのメンタルヘルスケアに対応することも求められるようになってきました。特に専属産業医が企業に常駐している場合には、専属産業医も産業保健スタッフの一人としてメンタル不調へのケアにも関わってもらえるようにしたいところです。

もし精神科医を産業医として選任している場合には、事業場内の他の産業医(特に専属産業医)がメンタル不調に関して学ぶ機会を得られるように配慮してもらいましょう。実践的な教育や指導を受けることで、専属産業医による労働者へのケアもより充実していくと思います。

日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について(PDF)」ではアンケートに答えた回答者4,153人のうち、約44%の人が専門の診療科を内科と答えています。このことからも数少ない専属産業医の中に精神科を専門とする人がより少ないことは推認できます。

ただそのアンケート結果では精神科医のいる企業であったとしても、労働者が心に不調を感じた場合には外部の診療所や精神科を受診するケースが多いそうです。労働者が自宅周辺でメンタル不調に関して受診した場合には難しいかもしれませんが、会社近くの精神科や心療内科などの診療機関とは連携して、労働者のケアに当たってもらえるようにしましょう。

企業側にやってもらいたいこと

一般的に企業側が労働者のメンタル不調を知るのは、労働者が診断書を提出したタイミングであることがほとんどです。ですから労働者に承諾をとった上で、通院している精神科や心療内科に実際に連絡をとり、診療情報や職場での情報を交換して職場での対応などについて専属産業医を通じて相談することをお勧めします。

その労働者が職場で出来るセルフケア、周りの配慮が必要なこと、職場の環境で何か改善すべき点があるかどうかなどを確認していただきたいのですが、専属産業医が活動する中で必要な診療機関との連携は必要ですので、企業としても診療機関との連携がとりやすい体制を作るようにしてください。

また診療機関とも相談した上で、特に管理監督者に対して、該当労働者に対して配慮が必要な事象に関する教育や研修を行うことも治療上の必要性があれば行ってもらってください。

専属産業医は通常は事業場に常勤していて、常勤しているからこそできる活動があります。それが、今お話ししたようなメンタル不調者に対する職場での日常的なケアの指導者的な役割です。専属産業医には労働者のかかりつけの診療機関と連携し、職場での日常のケアをしていただければと思います。

一般的な嘱託産業医の場合は事業場への来訪頻度も低いこともあり、労働者の日常的なメンタルヘルスケアに関わる時間はほとんどない状況です。もちろん嘱託産業医が事業場に来訪した時に相談するという選択肢もあるとは思いますが、やはり日常的にその事業場に常勤している専属産業医ほどは労働者に関わる時間はありません。

労働者のメンタル不調に周りの人が気付いた時のために産業保健スタッフや専属産業医に伝えるためのスキームは社内に確立しておいてください。早めに労働者の不調を知ることで、専属産業医は労働者に必要な医療機関を紹介することができます。

事業場内での突発的なケガや病気などに関しては産業医活動の妨げにならない範囲で専属産業医としてではなく「医師」として患者を診ることもありますが、基本的には専属産業医と治療医は別とお考え下さい。実際の診察や治療にあたる外部の医師と連携して情報共有をしてもらうことで、必要に応じて治療医に対して専属産業医としての意見も出してもらってください。

治療医はその労働者の日常の業務や職場の環境などは分かりませんし、基本的には患者さんの意思に沿った治療をしてくれます。嘱託産業医、専業産業医の別に関わらず産業医はその労働者が職務に耐えられるかどうかで復職や休職の判断をするように、医師の立場によって必要となる情報が違いますので個人情報の取扱いに関しても労働者・専属産業医の双方と必要な取り決めを事前にしておくことをお勧めします。

専属産業医の業務

メンタルヘルスを中心に話をすすめましたが、専属産業医はその事業場にのみ属して事業場の労働者のために、専門的な知識を使って様々な活動をします。

  1. 健康診断と労働者への面接指導などの実施・結果に基づいて労働者の健康を保持するための措置
  2. 労働者の作業環境の維持管理
  3. 労働者の作業の管理
  4. 労働者の健康管理
  5. 労働者の健康教育や健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置
  6. 労働者の衛生教育
  7. 労働者の健康障害の原因の調査とその再発防止のための措置
  8. 事業主への勧告
    • 労働者の健康を確保するために必要がある場合には、事業者に対して労働者の健康管理などについての必要な勧告
    • 労働者の健康障害の防止に関して必要がある場合には、総括安全衛生管理者に対する勧告または衛生管理者に対する指導と助言
  9. 毎月1回、職場巡視(条件を満たせば2カ月に1回でも可能)
    労働者の作業方法や安全衛生状態に問題がある場合には、健康障害を防止する為に必要な措置を講じる義務があります。

産業医の種類

改めて産業医について確認しておきましょう。産業医は企業と契約して、事業場で労働者の心身の健康管理を行ったり労働者の健康管理などに関して、専門的な立場から指導・助言を行ったり、労働者の健康管理に関することや、労働者の健康を確保する為に必要がある場合の事業主への勧告や、事業場の巡視などを行いますが、嘱託産業医と専属産業医があります。

嘱託産業医

嘱託産業医は、常時使用する労働者が50人以上999人未満の事業場で活動をします。産業医と言われて、多くの方が想像するのはおそらくこの嘱託産業医です。日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について(PDF)」では、企業と嘱託(非常勤)として契約を結び、本業の傍ら他の事業場の産業医を兼務する産業医が8割弱と発表されています。診療・管理などの他業務も兼任している産業医は全体の2割強の割合を締めてます。

専属産業医

常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医が活動しています。

専属産業医を探すのは難しい

専属産業医を決めなければならない状況になった時に、なかなか専属産業医が見つからないというケースが多いと聞きます。専属産業医が少ないことは日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について」で、他の事業場の産業医に専任(外部機関)している医師がアンケート結果のわずか1%しかいなかったことからも推測できます。

専門の斡旋機関の活用も視野に

地域性もあるとは思いますが、もし、どうしても専属産業医になってくれる医師が見つからなかった場合には、管轄の労働基準監督署に相談したり外部の産業医の斡旋機関などを活用したりするなどしましょう。

厚生労働省からは、産業医が見つからない場合には健康診断を実施している機関に産業医の資格を有した医師がいる場合に他の事業場での産業医活動が可能な場合があるので相談すること、親会社などに産業医がいる場合は、その方を産業医に選任できるか相談してみることが提案されています。

専属産業医がすぐに見つからなくてもまずは指導がされて、即罰則の適用には通常はなりません。そうは言っても、産業医を探す努力は猶予期間に勘案されても免除になるわけではありませんし、状況次第では50万円以下の罰金が課されます。ですから、専門の斡旋機関などの活用も視野に入れて必要な人数の産業医を揃えるようにしてください。

専属産業医を探す方法としては、専門の斡旋機関に相談すること以外にも、産業医科大学などに相談する、メンタルヘルス研修などに出席している医師に紹介を依頼する、産業医認定研修(産業医、未認定産業医などが参加します。)の主催団体などに問い合わせるなどあらゆる手段を使ってみてください。この産業医認定研修は日本医師会から指定を受けた、産業医制度に係る研修会として中央労働災害防止協会などが行っているようです。

専属産業医がいない状態で、長時間労働や過重労働などに起因する労働災害が生じた時のリスクを考えてみると、企業としての安全配慮義務を果たしていないと判断される恐れがあります。

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(労働契約法

企業がこの義務を果たしていない状態で事故や労働者に損害を負ったりしてしまうと、企業は労働者に対して損害賠償責任を負うことにもなりますし、企業イメージの低下も避けられない状況になってしまいます。

行政も専属産業医の兼務について緩和通達

なかなか専属産業医が見つからないというケースが多いこともあり、行政では「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて(PDF)」(基発第214号。平成9年3月31日)の通達がだされています。

趣旨は、元請け事業場にいる専属産業医が、下請事業場の産業保健活動に関して指導などをした方が、効率的でかつ効果的な可能性があり、それについては認めるというものです。

あくまでもこの時点でのポイントは、地理的にも密接しており、下請事業も元請事業と業態が似ていてることになります。また対象労働者数は、3,000人を超えないようにということ、通常の業務に支障をきたさない程度にという形で釘をさされています。

そして「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務する場合の事業場間の地理的関係について(PDF)」(基安労 発1225第1号平成25年12月25日)では、「地理的に密接していること」ということが「曖昧」であったため、「事業場間の地理的関係」については、「徒歩又は公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、1時間以内で移動できる場合」と客観的に分かりやすいものにされました。

兼務する場合の条件

  1. 地理的に密接している (当該二つの事業場間を徒歩又は公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、1時間以内で移動できる)
  2. 労働の態様が類似している
  3. 2つの事業場で連絡体制にある
  4. 通常業務に支障をきたさない
  5. 対象人数が3,000人を超えない

専属産業医の兼職は条件付きで可能

実は専属産業医の場合、週5日も実施する業務量や業務内容がありません。企業側は報酬が高い産業医の人件費を圧縮したいと考えています。産業医には診療側での臨床能力を維持するためにも、研究日を設けたり事業所内での臨床業務、勤務日以外の嘱託産業医など行い、専属産業医としては週3.5日から4日勤務するケースが多く存在します。この場合は、企業側との合意の上、労働基準監督署に許可をとって承認する形式をとれば兼職可能です。

専属産業医の選任の報告

専属産業医が決まったら、産業医選任報告で行政への報告をします。厚生労働省の総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式(様式第3号。第2、4、7、13条関係)からダウンロードして印刷して使用するか、電子申告で行います。この所定の書式の中央右寄りに産業医の専属の別がありますので、専属を意味する「1」を記入してください。

一般の嘱託産業医の場合、この部分は非専属を意味する「2」を記入します。産業医の選任報告の書類の書き方は京都労働局・労働基準監督署の事業場における安全衛生管理体制のあらまし(PDF)にとても分かりやすくまとめられていましたので、参考にされると良いですね。

産業産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、所定の様式で遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告することになっていますので、どうしても産業医が見つからない場合には早めに所轄の労働基準監督署に相談してください。

さいごに

専属産業医も基本的には嘱託産業医と同じような業務を担います。ただし、事業場に常勤しているという特性を活かして、より労働者のメンタルヘルスケアへの踏み込んだ対応を期待できます。その専属産業医を探し出すのは難しいですが、行政側も兼務に対する通達を出してることから企業側も協力し、専門の斡旋機関の活用も視野に入れ、企業側と産業医双方にふさわしい専属産業医を選任しましょう。

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