ストレスチェックで組織改善
2023年1月31日 更新 / 2019年9月17日 公開

ストレスチェックの集団分析とは?結果の見方や活用事例をわかりやすく解説

2015年から義務化されたストレスチェック。
ストレスの調査票への回答を集めた後は、集団分析をすることが努力義務となっています。

そもそも集団分析とはどのようなものなのか、実施するメリットや評価方法など基礎をわかりやすく解説します。

ストレスチェックの集団分析とは?

集団分析とは、労働安全衛生法の改正により2015年12月1日に施行されたストレスチェック制度の一環として実施される分析のことです。

ストレスチェックの結果を事業部や部署単位、性別、年代単位で組織の傾向を分析します。集団分析の目的は、集団ごとの「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」の状態を可視化して組織課題を特定し、職場環境の改善に役立てることです。
個人が特定されないように、原則として10人以上のグループ単位で分析します。

例えば、「営業部の疲労感が強く、その要因として仕事の量的負担、職場の人間関係、同僚からのサポートの弱さが考えられそうだ」というようなことがわかります。

労働安全衛生規則で下記のように規定されています。

(検査結果の集団ごとの分析等)
第五十二条の十四 事業者は、検査を行つた場合は、当該検査を行つた医師等に、当該検査の結果を当該事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならない。

2 事業者は、前項の分析の結果を勘案し、その必要があると認めるときは、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

ストレスチェック制度の全体像については以下の記事を参照ください。

集団分析は努力義務

ストレスチェックの集団分析は努力義務です。ただし、職場環境の改善に非常に役立つ分析結果を得られるため、実施が推奨されています。

集団分析を実施する事業場の割合は増加しており、2020年度の集団分析は85%、その後の職場環境改善は49.2%の事業場が取り組んでいます。

(出所:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(令和4年3月))

集団分析を実施するメリット

集団分析のメリットは、人事や上司、産業保健スタッフが職場の課題を理解して職場環境の改善策を考え、実行に移しやすくなることです。

ストレスチェック制度の主な目的は、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止する「一次予防」です。

そのためには、労働者自身がストレスを把握し気づきを促すセルフケアだけでなく、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアを組み合わせることが重要です。

(出所:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(令和4年3月))

集団分析のやり方

集団分析を実施するためには、第一に集団分析単位を決める必要があります。原則として1グループ10名以上で、部署や職種ごとの単位を設定します。

ストレスチェックを受検すると、多くのストレスチェック関連システムは自動で集団分析結果が画面に表示されるようになっています。集団分析単位ごとの「心身のストレス反応」「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」を見て分析ができます。

集団分析結果画面

集団分析結果の見方

ストレスチェックの集団分析結果は、集団ごとに各項目の平均値の数字が並べられたものです。この数字をどのように評価するかが重要になります。

集団分析結果の見方として、以下の3つの代表的な方法をご紹介します。

  • 職業性ストレスモデルによる評価
  • 仕事のストレス判定図による評価
  • 経年比較による評価

職業性ストレスモデル

ストレスチェックは、NIOSHの「職業性ストレスモデル」をもとに作られています。仕事のストレス要因に対して、仕事以外の要因や周囲のサポート(緩衝要因)を挟んで、ストレス反応が生じ、疾病に至るというものです。

集団分析結果は、最初に「心身のストレス反応」が強い部署や職種を確認して、次に「仕事のストレス要因」と「周囲のサポート」を確認して、ストレス反応が出ている要因を特定して行きます。
そうすると、会社としてどの部署のどんな要因に対して職場環境改善をする優先順位が高いかが明確になります。

仕事ストレス判定図

仕事のストレス判定図も集団分析によく活用されます。

  • 量-コントロール判定図
  • 職場の支援判定図

と呼ばれる、以下のような2つの判定図を用いて分析する方法です。

(出所:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(令和4年3月))

「量-コントロール判定図」は「仕事の量的負担」と「仕事のコントロール」の集団ごとの平均値を算出して数値をプロットします。
「職場の支援判定図」は「上司の支援」と「同僚の支援」の集団ごとの平均値を算出して数値をプロットします。
これにより、全国平均(標準集団)と自社の状況を比較することができます。
また、以下の計算式で「総合健康リスク」も算出できます。

総合健康リスクは高いほど従業員の健康リスクが高く、仕事のストレスで休職や病気をの発症が起こりやすいことを意味しています。

経年比較・前後比較

ストレスチェックは毎年1回の実施が義務付けられています。
そのため、ストレスチェック制度を導入してから数年が経過している事業場では、過去の結果と比較ができます。
集団分析結果が昨年と比較して改善しているのか悪化しているのかがわかります。

また、従業員のメンタルヘルスに影響を与える施策の介入効果を検証する目的で、施策実施前と実施後の前後比較にストレスチェックの集団分析を活用することもできます。

平均値を比較するだけでは、たまたま1人の回答が平均値に大幅に影響を与えている可能性もあるため、意味のある差なのか、偶然の差なのかがわかりません。
匿名化するなどして個々人の受検データも解析できる場合は、平均値の差の検定(t検定)によって、有意差があるかどうかを検証しましょう。

集団分析の活用事例

集団分析の活用事例として、上司・同僚の支援が低い部署でコミュニケーションを改善し、総合健康リスクが改善したケースをご紹介します。

(出所:ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(令和4年3月))

上記のように、製造業・卸売業の50〜299名の会社にて集団分析結果から職場の課題を明らかにして、改善施策として、

  • 相互支援しやすいチーム作りを目標に設定
  • 業務の多能工化(1つの仕事を複数人で行うようにする)

を実践し職場環境改善に繋がっています。

集団分析結果を具体的な改善施策に繋げるには、メンタルヘルスアクションチェックリストの活用がおすすめです。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野と株式会社富士通ソフトウェアテクノロジーズとの産学共同研究で作成されたもので、メンタルヘルス向上を目的とした職場活性化のためのアクションがまとめられています。

集団分析の開示範囲

集団分析の結果については個人が特定されない形となっているため閲覧の制限などはありません。

厚生労働省の「労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル」によると、集団分析の結果は、管理者等に不利益が生じないように留意しつつ、管理監督者向け研修の実施、衛生委員会での職場環境の改善方法の検討などへの活用が望ましいとされています。

経営会議やマネージャー会議で共有し、自主的に各部門の課題を認識して職場環境改善を促せるように集団分析結果を適切に活用していきましょう。

なお、ストレスチェックの個人の受検結果は、実施者と実施事務従事者以外は原則として閲覧することができません。詳細は以下の記事を参照ください。

集団分析の効果を高める3つのポイント

ここまで集団分析の方法や活用事例を紹介してきました。最後に、集団分析の効果をより高めるための3つのポイントをご紹介します。

【1】受検率をなるべくあげる

従業員がストレスチェックを受検することは任意となっており、強制することはできません。しかしながら、受検率があまりにも低いと集団分析結果も組織の課題を的確に示したものではなくなってしまいます。

受検のメリットを伝える、操作しやすいシステムを使うなど、なるべく受検率を高められるような工夫を徹底しましょう。
ストレスチェックの受検率100%を達成するためのチェックリストを以下の記事で解説しているため、受検率を向上したい方は参考にしてください。

【2】10名未満の小さな部署を適切に取り扱う

集団分析は、原則10人以上を集計単位とします。

しかし小規模な事業場では、1つの部署が10名未満のことも多いでしょう。その場合の対応について、厚生労働省の「ストレスチェック制度関係 Q&A」には以下のような記載があります。

Q15-1 当社は全ての部署が 10 人以下ですが、会社全体の集団分析以外はできないのでしょうか。

いくつかの部署を合わせて集団分析を行うことも可能ですし、例えば対象集団について、ストレスチェックの評価点の総計の平均値を求める方法など個人が特定されるおそれのない方法であれば、10 人を下回っていても集団分析は可能ですので、事業場の実情に応じ、工夫して対応していただきたいと思います。

(出所:ストレスチェック制度関係 Q&A

いくつかの部署を合わせて10名以上の集団分析単位にすることと、「ストレスチェックの評価点の総計の平均値を求める方法」、「仕事のストレス判定図を用いる方法」など10名未満でも個人が特定されないような形での分析をすることで、小さな部署でも集団分析ができます。

営業職・事務職など職種でわける、直接部門・間接部門など部門の特性ごとにわける、など、意味のあるグルーピングになることに注意して、集団分析単位を決めて行きましょう。

【3】現場に課題をヒアリングする

ストレスチェックの集団分析結果は、定量的に集団ごとの課題を明確にできることです。「この部署には、これくらいの心身のストレス反応が出ていて、その要因としてこんなことがありそうだ」ということがわかります。

集団分析の情報に加えて、管理監督者や現場の従業員などにヒアリングすることでより課題の解像度を高めることができます。その結果、解決策もより的確に考え実行していくことができます。

定量的な集団分析結果と、定性的な現場からのヒアリング情報を組み合わせて職場環境改善を効果的に進めていきましょう。

最後に

ストレスチェックの集団分析は職場環境を改善するために重要な示唆を得ることができます。努力義務ではありますが、組織改善のためにぜひ実施していきましょう。

ストレスチェックをやりっぱなしに終わらせずに、効果的に活用するためのコツは以下の資料を参考にしてください。

脱・やりっぱなしのストレスチェック~効果的に行うための集団分析の基本~
脱・やりっぱなしのストレスチェック~効果的に行うための集団分析の基本~

執筆・監修

  • Carely編集部
    この記事を書いた人
    Carely編集部
    「働くひとの健康を世界中に創る」を存在意義(パーパス)に掲げ、日々企業の現場で従業員の健康を守る担当者向けに、実務ノウハウを伝える。Carely編集部の中の人はマーケティング部所属。