基礎から分かるストレスチェック後の集団分析。必要性はあるの?

2020年5月18日 更新 / 2019年9月17日 公開
ストレスチェックで組織改善
ストレスチェック後の集団分析

ストレスチェックが義務付けられて、早いもので丸2年が経過しました。平成27年12月から義務化されたストレスチェックでは集団分析も必要ですが、そもそも集団分析とは何でしょう。本当に必要なのでしょうか。

最近、集団分析という言葉をよく聞くようになりました。ネットで検索しても分かったような分からないような…そうです、ある程度の知識がある人向けの情報はたくさんありますが、初心者が集団分析について知りたいと思っても本当に知りたい基礎的な情報が見つけにくいほど、世の中では知っていて当たり前のものになりつつあるのが集団分析です。では、そもそも集団分析とはどのようなものなのでしょうか。集団とはどのようなもので、何をどのように分析することなのでしょうか。そして、この集団分析は本当に必要なものなのでしょうか。

ストレスチェックとは

集団分析について考える前に、まずはストレスチェックについて簡単に概要をおさらいしておきたいと思います。通常、「ストレスチェックの後の集団分析」としてストレスチェックと集団分析はセットで扱われています。ですから、ストレスチェックを理解しなければ集団分析を正しく理解することはできません。ストレスチェックは1年以内ごとに1回、定期的に「心理的な負担の原因」と「心理的な負担による心身の自覚症状」、「職場での他の労働者による当該労働者への支援」について行わなければなりません。

ストレスチェックとは、労働者のメンタル不調を未然に防止するための一次予防と、職場の環境を改善するために実施するものです。つまり、ストレスチェックというのは、労働者がストレスをため過ぎて心のバランスを崩さないようにしたり、職場の環境を改善したりするためのもので、ストレスを未然に防止するためのものということですね。

ストレスチェックは、選択式のストレスチェック質問票(もしくは、インターネットや社内イントラネットのページ)を使って実施します。その調査結果を集計し、分析することでその人のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単なテストです。このストレスチェックは労働安全衛生法(以下、安衛法と言います)が改正され、平成27年12月から労働者が50人以上いる事業所で実施が義務付けられました。50人未満の事業場は、しばらくは努力義務になっています。根拠法は以下の安衛法 第66条の10です。

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。
4 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
5 事業者は、第三項の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
6 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
7 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
8 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。
9 国は、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持に及ぼす影響に関する医師等に対する研修を実施するよう努めるとともに、第二項の規定により通知された検査の結果を利用する労働者に対する健康相談の実施その他の当該労働者の健康の保持増進を図ることを促進するための措置を講ずるよう努めるものとする。

中央労働災害防止協会(全日本産業安全連合会と全日本労働衛生協会の事業を引き継いで、労働省(現・厚生労働省)が認可法人として設立し、現在は特別民間法人になっています。)によると、最近では仕事や職業生活に関して強い不安や悩みあるいはストレスを感じている労働者が5割を超えるそうです。また、同協会によると仕事による強いストレスを原因として精神障害を発病してしまったり、労災認定される労働者が増加傾向であったりするために、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが急務になってきたことがストレスチェック制度の創設の背景にあります。

ストレスチェックの目的

このストレスチェック制度では、労働者が高ストレス状態にあった場合にはストレスをため過ぎないように対応したり、医師の面接や助言を受けることにつなげたりしていきます。企業としては、高ストレス者に対して仕事からの負荷を減らすために業務量や内容の軽減などを行うことにつなげていくこともできます。ストレスチェックを行うことで、労働者本人のストレスに関する気付きを促したり、職場の環境改善をすることでより健全な環境を作り出したりすることもできますね。ストレスチェックを実施することで個々の労働者のセルフケアを促進させることができるのも大きなポイントです。

また、ストレスチェック後に個人の結果を評価するだけではなく、調査の結果を一定規模のまとまりとして集計して分析をします。この分析の結果を踏まえて職場の環境を改善することにつなげて、メンタル不調者の発生や状況の悪化を防いでいきます。

ストレスチェックの結果報告書

それから、ストレスチェックの結果報告書を労働基準監督署に提出しなければなりません。法的には事業場ごとの人数が50人以上の場合に労働基準監督署への提出義務があります。50人未満の事業場については、ストレスチェックの実施は努力義務で報告義務はありませんが、同一の企業内で事業場ごとの人数が違うからといってストレスチェックを行う事業場と行わない事業場があるのは望ましくないので、たとえ50人以上の事業場の数が一つしかなかったとしても全ての事業場でストレスチェックを行うようにしてください。

ストレスチェック制度の実施に関して注意すべきこと

ストレスチェックを適正に実施するためには、ストレスチェックに関わる事業者、労働者、産業保健スタッフなどの関係者が、ストレスチェック制度の趣旨を正しく理解した上で、協力・連携してストレスチェック制度をより効果的なものにするよう努力していくことが重要です。そのためにも、以下の点についてもご注意ください。

ストレスチェックは全労働者が受けるように配慮してください

ストレスチェックの対象者についてはさまざまな考え方があるようですが、厚生労働省労働基準局安全衛生部の「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度検討会報告書」(PDF・平成26年12月17日)では「現行の一般定期健康診断対象者の取扱いを参考とし、これと同様とすることが適当」との記載が確認できますが、これに関しては、修正が繰り返されました。厚生労働省の最新の見解が記載されているストレスチェック制度関係 Q&A(PDF・平成27年9月30日)によると、以下の通りです。

ストレスチェック
厚生労働省労働基準局安全衛生部「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度検討会報告書」(PDF)より

つまり、パートやアルバイトなど雇用形態上の名称に関係なく常時使用している者かどうかで判断すれば良いということです。「使用している者」ですので、使用者である社長や役員は含まれないのですが、原則として全ての労働者が対象となります。ただし、名前だけは役員であっても実態として労働者と同じような就労状態にある場合には労働者と判断してストレスチェックの対象者として判断してください。労働者としてのストレスがどの程度のものなのかを調べることが目的と考えると、役員であっても業務に労働者性がある場合にはストレスチェックの対象者の可能性になる場合がありますので注意が必要です。

企業にはストレスチェックが義務化されましたが、これは常時50人以上の従業員がいる事業場に対する義務です。厚生労働省の労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(平成27年5月。改訂平成28年4月)によると、ストレスチェックの実施は事業主には義務化されていますが、労働者がストレスチェックを実際に受けるかどうかは強制できないとされています。労働者にとってストレスチェックの受検はあくまでも任意ですから、できるだけ対象となる全ての労働者が受験することが望ましいことを周知させるようにしてください。

面接指導について

ストレスチェックによって面接指導を受ける必要があると認められた労働者は、できるだけ申し出をして医師による面接指導を受けるようにしてください。

事業者にはストレスチェックと面接指導の実施の義務がありますので、医師による面接指導の費用も事業主が負担します。ただし、面接指導が必要な労働者が面接指導を受けた場合の賃金の支払いについては労使使間の協議によりますが、基本的には一般の検診と同様に労働者の健康の確保は事業の円滑な運営の不可欠な条件という観点から賃金の支払いをすることが望ましいと考えられています。

面接指導の申し出の勧奨に関しては、衛生委員会などで審議をした上で事業場ごとに決めて構いません。なお、安衛法(第66条の10)に基づく面接指導の実施状況については、労働基準監督署への報告の必要があります。

ストレスチェックの結果による対策

ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析およびその結果を踏まえた必要な措置は努力義務にはなっていますが、事業者は必要な措置をできるだけ早めに実施するようにしてください。

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集団分析

では、ストレスチェック後に行う集団分析についてお話を戻したいと思います。ストレスチェック後には集団分析をするということを言われていますが、集団分析とは具体的にどのようなもので、どのように行うものなのでしょうか。そして、本当に必要なものなのかを考えていきます。

集団分析の「集団」とは

集団分析の「集団」というのは、端的に言うとチームや部または課などの一定規模の集団のことで、原則として10人以上の課ごとの単位を指します。ただし、10人未満だと個人が特定されプライバシーが守られない恐れがあるため、一つの課が10人未満の場合には同じ部門内の他の課を合わせて一つの集団と考えます。

例えば、工場の生産ラインと経理では職場の環境も業務内容もメンバーも違いますから、ストレスの特徴や傾向も異なっていることが想像できますね。また「〇〇部」を集団として考えてみると、同じ事務系の職種でも法務部と人事部、経理部と購買部などでは業務内容が大きく異なりますので、同じような業務を行う労働者を集団として考えるようにしてください。職場の環境を改善するためにも、同じような業務を行う労働者を一つのまとまりとして考えることは有効と考えられるからです。先ほどお話しした中央労働災害防止協会の発表にあった仕事や職業生活に関して強い不安や悩みあるいはストレスを感じている労働者が5割を超えるということと照らし合わせると、労働者の半分の人たちが心に何らかの問題を抱えているという状況ですから、仕事に関連するストレスなどは個人の問題ではなく全体の問題として捉えた方が良さそうですね。

この集団分析を有効に行うためには、集計・分析の単位となる集団ごとに同じ時期に一斉にストレスチェックを行うようにしてください。また、必要に応じてストレスチェックは年に複数回行っても構いません。ただし、この場合には実施頻度や実施時期について、衛生委員会等において調査審議を行った上で実施することが望ましいとされています。

集団分析をどうやってするのか

集団分析は、実施者がストレスチェックの結果を一定規模の集団ごとに集計し、分析することで行われますが、集団ごとに質問の項目ごとの平均値を求めて比較することで、その集団固有の問題なども把握できます。その後、その集団分析の結果を事業主は提供してもらい、職場環境の改善を行います。それから、集団分析は原則として10人以上の集団を対象にして、個人が特定されないように配慮して職場ごとに行います。(10人未満の規模の場合、個人が特定される可能性があります。)

ストレスチェックの項目がその企業の独自だった場合には「仕事のストレス判定図」を参考に、これまでの研究や実践事例なども参考にして各企業が自社に合う適切な集計・分析をすることで対応できますが、ストレスチェックが始まったばかりの時期ですので、国のものを使う方が集計や分析を行いやすいと思います。例えば、国が無料公開・配布するプログラムでは自動実施もできますし、厚生労働省から無料で配布されている集団分析を行うためのアプリケーションを利用する方法もあります。厚生労働省の集団分析のための無料アプリケーションはコチラです。→厚生労働省「ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト

集団分析をする際に、国が標準的な項目として示す「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)(※)あるいは簡略版(23項目)を使用する場合は、「職業性ストレス簡易調査票」に関して公開されている「仕事のストレス判定図」が利用できます。しかし、この「仕事のストレス判定図」は、仕事のストレスの4つの側面からしか評価できないので、それ以外の項目のストレスに対応できません。ですから、この「仕事のストレス判定図」を使う際には、健康診断のデータの集計結果や、職場の巡回巡視、労働者や職場上司からの聞き取りなど、その他の検査結果なども考慮に入れることに注意してください。

※仕事のストレス判定図とは

仕事のストレス判定図は、平成7~11年度に労働省で「作業関連疾患の予防に関する研究」に開発されました。業務上の心理的なストレス要因が、労働者のストレスの状態や健康にどのくらい影響があるのかを調べるためのものです。以下の左の図が仕事のストレス判定図で、右の図が図の読み方です。判定図は男女別になっています。色が濃くなるほど、危険な状態です。

集団分析からできること

上の「仕事のストレス判定図」に当てはめて考えてみましょう。

仕事の課を一つの集団として分析をした時に仕事の量的な負荷が大きすぎる場合には、業務を分散させることで労働者一人当たりの負荷を減らすことができます。さまざまな改善方法があるとは思いますが、例えば労働者を補充したり、個人の能力を上げるための教育を行ったりすることで業務から受ける負荷を減らすことができます。それから、業務フローを見直して無駄や類似作業を改善することなどが想定できます。労働者の補充や教育ができない状態であれば、納期を伸ばすなどさまざまな他の面からのアプローチを考えてみてください。

次に周りからの支援についてです。例えば、特定の労働者が一人だけで全面的に行っている業務があったら複数の人がその業務を行えるようにマニュアル化したり、定期的にミーティングの機会を設けたりするなどして周りとのコミュニケーションの機会を増やすようにします。その業務に没頭するあまり、特定の労働者が業務的な面で孤立しないようにサポートする体制を整えてください。

また、集団を性別で考えたり、雇用形態別で考えたりすると別の問題が見えてくるケースもあります。様々な集団を作って分析をしてその結果を突き合わせることで、より明確な問題点を把握することができますので、ぜひ試してみてください。

集団分析は事業主の義務なのか??

ストレスチェック制度自体は企業に義務化されていますが、結論から言うとその後の集団分析は義務ではなく「努力義務」です。これについては、厚生労働省の「心理的な負担の程度を把握するための検査および面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(PDF)」や「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書(PDF)」にも集団分析が努力義務であることが明記されています。

また、ストレスチェック制度に関する省令(労働安全衛生規則の一部改正)でも「事業者は、実施者に、検査の結果を一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めるとともに、この分析結果を勘案し、必要と認められる場合は、その集団の労働者の実情を考慮して、この集団の労働者の心理的な負担を軽減するため、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。」と書かれていることからも努力義務であることがわかります。尚、集団分析の結果に関しては事業者が5年間保存の努力義務を負います。

ストレスチェック後の集団分析は事業主の努力義務として考えて差し支えありませんが、以上のようなことから、出来る限り集団分析を行い、その結果を事業場に反映させることが良いと言えます。

さいごに

集団分析を何のためにするのか、集団分析後にいかに分析結果を活かすかが将来の企業の状況に大きく関係してくると思います。せっかくのストレスチェックですから、結果も有意義に使うようにしましょう。

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