人事・総務向け 定期健康診断の事後措置ガイドブック(2021年2月更新)

2021年6月30日 更新 / 2021年2月1日 公開
健康診断の効率化

企業には、従業員の健康と安全を守るための義務(安全配慮義務)があります。2020年は感染症の流行により、企業における健康管理業務がいまだかつてないほど注目されましたね。

実はこれまでも、企業の健康管理の義務は厳しくなりつづけてきました。

  • ストレスチェック制度によるメンタルヘルス不調の予防
  • 働き方改革による過重労働への罰則付き上限規制
  • 産業医権限が強化され企業側の情報提供義務が追加
  • 個人情報の観点から健康情報取扱規程を策定する義務

そして健康診断においても、これまでのように従業員に受診させれば十分ではなく、感染症対策をふまえた事後措置の徹底が企業の法令遵守として求められています。

そこで本ガイドブックでは、健康診断・健康管理について基礎から学びたい担当者向けの情報をまとめました。感染症対策によって変わった業務・変わらない業務もふまえた実務を解説していますので、参考にしてみてください。

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本ガイドブックは全文をHP上でご覧いただけますが、文量が多いため冊子版(PDF)をご用意いたしました。ダウンロードいただくことで、HPで検索する手間がなくなり、社内共有にもお使いいただけます。ぜひご活用ください。

事後措置として対応すべき4つの義務

まずは健康診断について、企業に課せられている義務をおさらいしておきます。健康診断にはいくつかの種類がありますが、本ガイドブックではすべての企業が対象になる、定期健康診断を具体例に進めていきます。

定期健康診断とは

企業が常時勤める(雇用形態の違いに関わらない)すべての従業員に対して、1年1回実施しなければならない健康診断。一般健康診断には定期健康診断の他にも、雇入れ健診や特定業務従事者健診などの種類がある。※労働安全衛生法第66条

定期健康診断は、実施と事後措置に分かれる

「健康診断の時期は、電話やFAXの対応に追われて仕事が追いつかない」と聞かれるほど、人事や総務にとって健康診断の事務作業は大きな負担になっています。

健康診断の業務を整理すると、主に2つのフェーズに分かれます。

健康診断の実施

  1. 健診機関の選定
  2. 従業員の日程希望調査
  3. 健診機関への予約
  4. 従業員への受診勧奨
  5. 健診機関への精算
  6. 健保組合への補助申請

健康診断の事後措置

  1. 健康診断結果の通知
  2. 個人票の作成と保存
  3. 有所見者への保健指導
  4. 産業医による就業判定
  5. 再検査の勧奨
  6. 労基署報告書の提出

上記の健康診断業務のうち、実施については多くの企業でも積極的な取り組みがされています。受診率100%を目指して、従業員への受診日のリマインドをこまめに行なったり。健康経営の取り組みとして法定項目以外のオプション検査について、会社からの補助制度を設けたりなど。

一方で、事後措置への取り組みはどうでしょうか?

実は法令遵守の観点では、実施部分よりも事後措置において重点的に義務が課されています。それでは事後措置の中でも、人事や総務の担当者にとって業務負荷の高い義務を4つご紹介します。

※以下4つに含まれていませんが、「健康診断の結果を従業員に通知」する義務もあります。実務として業務負荷の高い業務ではないため、今回は取りあげておりません。

義務1. 個人票の作成と保存

健康診断の結果は、実施したその年の分だけではなく過去の履歴も含めて管理・保存する義務があります。

事業者は、(中略)健康診断の結果に基づき、健康診断個人票(様式第5号)を作成して、これを5年間保存しなければならない。

労働安全衛生規則 第51条

ここに「健康診断個人票(様式第5号)を作成し」と書いてあるため、健康診断の結果は紙で保管しなければならない、と思われている担当者もいるかもしれません。実務としては電子データ(エクセルやPDF、クラウドシステムなど)として保管することも可能です。

またこれまで個人票の作成においては、就業判定を行った医師(産業医)の押印が必要だったため、個人票を紙で作成する企業も多く残っていました。しかし、2020年8月の法改正により、個人票への押印(または電子署名)が不要になりました。

https://www.mhlw.go.jp/content/000673020.pdf

紙のままでの保管は、個人票の作成だけでなくこの後の義務についても、業務負荷を高める原因になっています。個人票の作成に押印が不要になったことで、電子データ化のハードルはなくなりましたので、テレワークの導入をきっかけに健康診断結果のペーパレス化を検討してみてください。

義務2. 有所見者への保健指導

健康診断を実施した結果、検査項目において所見が認められた従業員(有所見者)には医師・保健師による保健指導が努力義務となっています。

事業者は、(中略)健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。

労働安全衛生法 第66条の七

よくある誤解が努力義務についてです。努力義務とは「してもしなくてもよい」という意味ではなく、「特別な理由がない限りするべき」という意味があります。ですので、少なくとも健康診断の検査項目において改善すべき点がある従業員には、企業として何らかの対応をする体制はとっておかなければいけません。

具体的にどのような対応(保健指導)を実施するかについては、努力義務ですので企業ごとの事情に合わせて柔軟に変えることができます。

一方で、健康診断結果から有所見や再検査を判定するにはひとつ大きな問題があります。それは健康診断結果の基準値が、健康診断の実施した医療機関によって異なることです。

そのため全国に支社や店舗がある企業や、テレワークへの移行により近所のクリニックで健康診断を受けている企業では、判定基準が統一されていないので単に「B判定だから保健指導」「C判定だから再検査」と振り分けることができないのです。

義務3. 産業医による就業判定

なぜ、企業には従業員に健康診断を受けさせる義務があるか?ご存知でしょうか。健康診断は福利厚生(従業員にとってのメリット)と思われていることが多いですが、本来は従業員が今の仕事を続けても大丈夫な健康状態かをチェックするために行われています。

ですので、健康診断の結果を従業員から受け取った人事・総務は、産業医(医師)に健診結果を見てもらいます。そこで、このまま仕事を続けても良いのか、あるいは健康上の理由は就業制限をかけるべきなのかの意見をもらう必要があります。

事業者は、(中略)健康診断の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。

労働安全衛生法 第66条の四

ここで疑問が思い浮かびますよね。

「健康診断を受診した時点で医師が判定をしているのだから、もう一度、産業医が健診結果をチェックする必要はあるのか?」

実は、健康診断を実施する臨床の医師と、企業に選任されている産業医では、健康診断の結果を判断する目的が異なります。

  • 臨床医:日常生活を送る上で、健康上の課題が発生しているか。その対応として、経過観察や治療が必要かどうかを判断する。
  • 産業医:日常生活よりも負荷の高い仕事を続ける上で、健康上の課題が発生していないか。その対応として、働き方を制限したり休業が必要かどうかを判断する。

ですので健康診断の結果は、産業医にチェックしてもらう必要があります。また場合によっては意見書の作成を依頼する必要もあります。人事・総務が産業医に依頼しなければならない業務については、以下の記事にまとめていますので参考にしてください。

[人事が産業医に依頼する3つの業務]

義務4. 労基署への報告書の提出

健康診断の事後措置として最後の義務が、労働基準監督署への報告書の提出です。

労働安全衛生規則 第52条より抜粋
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、健康診断(定期のものに限る)を行ったときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書様式第六号を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

もし、まだ定期健康診断結果報告書を作成したことがない方であれば一度、以下のリンクからどのような項目を報告しなければならないか、確認してみてください。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei36/dl/18_01.pdf

見ていただくと分かる通り、報告書では健康診断をいつ何人が受けたか?だけでなく、法定項目について有所見者それぞれの人数や、医師から保健指導や精密検査が必要だと判断された人数を記入しなければいけません。

この報告書のために、健康診断結果を集計して記入する作業が人事・総務の健康診断担当者にとってはハンザツな作業になってしまっています。

しかし、すでに上記で見てきた義務1〜3を適切に実施していればそんなに難しい業務ではありません。詳しい書き方や、書類提出においての疑問については以下の記事を参考にしてください。

健診結果をペーパレス化して、人事の管理負担を軽減する

前段までは健康診断の事後措置における義務と、担当者にとって業務負荷の高い業務についてご紹介してきました。

なぜ健康診断の事後措置では、これほどまでに人事・総務の手をわずらわせてしまうのか?その理由は健康診断結果が紙のままであるからです。

紙の健診結果が引き起こす、負のサイクル

人事や経理をはじめとしたバックオフィス業務では、ここ数年でペーパレス化が進みました。紙のままで保管せず、一度表計算ソフトやシステムにいれてしまえば、ムダな書類整理やファイリングが不要になるからですね。

健康診断においても同じです。紙で健康診断を保管したままだと、様々な業務において整理と集計に時間がかかってしまいます。すると以下のような負のサイクルが発生します。

一方で、健診結果をペーパレス化できれば、事後措置をスムーズに完了させるだけでなく、従業員の健康を予防して生産性の高い職場づくりができるようになります。

健康診断のペーパレス化は法的にも実務的にOK

なぜこれまで多くの企業で健康診断結果のペーパレス化が実現できなかったのか?それには法的な誤解と実務的なハードルがありました。

まず1つめは法的な誤解です。

健康診断結果は、従業員の健康情報ですので要配慮個人情報です。企業として厳密に管理しなければなりません。そのため、紙のままファイリングして鍵付きの倉庫やキャビネットにしまう必要がある、と思われてきました。

確かに以前までは書面、つまり紙としての保存が必要でしたが平成17年の法改正および省令により、健診結果をデータ化して保存することが可能になっています。

しかし法的には問題なしだとしても、実務的にはデータ化しづらいハードルもありました。

それは個人票(従業員それぞれの過去5年分の履歴と医師の意見が書かれた書類)を作成した際に、医師に押印が必要だったからです。厳密に法律を守ろうとすると、せっかくデータ化したのにプリントアウトして押印し、またデータ化するという逆にハンザツな実務になっていました。

ところが、2020年8月の法改正により、個人票への押印(または電子署名)が不要になりました。ですのでつい昨年までは、健診結果を紙で保管しておくメリットがあったのですが、2021年現在では紙で保管しておくこと理由はなくなりました。

では具体的にどのようにして健診結果をペーパレス化できるのか?またペーパレス化する際に注意しなければならない点は何なのか?実務上の課題については、別記事にまとめておきましたのでご確認ください。

本ガイドブックと関連記事をまとめてダウンロードできます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本ガイドブックでは健康診断に関連した法令遵守を徹底するための基礎知識と実務ノウハウをお届けしました。人事総務として経験の浅い方から、保健師として最新の情報収集をしている方まで、幅広い健診担当者に向けて作成しております。

事後措置に絞ってお話しましたが、ひとつの記事におさまりきらないためにいくつかの関連記事をご覧いただく形式となっております。

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