アルバイトの健康診断は義務なのか?必要になる2つの条件を解説!

従業員への健康診断は「労働安全衛生法第66条」で義務づけられており、企業は必ず実施する必要があります。しかしアルバイトの場合、正社員と同様に健康診断を受診させなければいけないのか分かりにくいもの。
特に健康診断の規程を作るとき悩むのが、アルバイトやインターンなどの時給制で働く従業員への対応です。
近年では中高年以上のアルバイトも増えています。若い人と比べて
- 生活習慣病を抱えている人が増え、病的リスクが高い
- 収入を維持するためダブルワークをしており、実は長時間労働している
といった可能性もあり、定期健康診断がリスクの対策として有効です。
そこで今回は、
- アルバイトはそもそも健康診断の受診が義務なの?
- アルバイトに健康診断を受診させる条件は?
- アルバイトの健診費用は会社側が負担すべきもの?
- アルバイトが健康診断の受診を拒否した場合の対応は?
といった流れで、アルバイトの健康診断についてまとめて解説します。
突然の病気で業務が止まってしまう事態を防ぐためにも、ぜひ最後までご一読ください。
アルバイトでも健康診断を受けさせる必要はある?その理由を解説!
まずは、以下の流れで受診すべき理由や条件について見ていきましょう。
- アルバイトでも健康診断の受診が必要な根拠は?
- 健康診断の受診が必要となるアルバイトの条件は?
1つずつ詳しく見ていきましょう。
【結論】アルバイトでも契約内容によって健康診断が必要
事業者は従業員に対して「雇入れ時の健康診断」および1年に1度の「定期健康診断」を実施する義務があります。健康診断の実施義務は、条件を満たしたアルバイトに対しても発生するものです。
健康診断の実施義務については、「労働安全衛生規則」にて、事業者側の義務が明記されています。
(雇入時の健康診断)第四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
労働安全衛生規則 第一編 第六章 健康の保持増進のための措置
(定期健康診断)第四十四条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
労働安全衛生規則 第一編 第六章 健康の保持増進のための措置
まとめると、「常時使用する労働者」の条件を満たしている場合は、
- 雇入れ時の健康診断(雇入れ時)
- 定期健康診断(1年に1度)
どちらも実施が必要となります。
これを聞いて、「常時使用する労働者って、アルバイトも該当するの?」と思った方もいるのではないでしょうか。そこで、アルバイトも「常時使用する労働者」になる条件について見ていきましょう。
アルバイトに健康診断が必要になる2つ条件とは?
アルバイトでも健康診断が必要になるのは、
- 特定の業務に従事する場合
- 契約期間・労働時間が一定の条件を満たす場合
の2つです。まずは、厚生労働省より発表された以下の資料を見てみましょう。

表の内容をまとめると、以下のとおりです。
1.契約期間 | ・無期契約労働者 ・有期契約で契約期間が1年以上の労働者 ・有期契約の更新により1年以上使用される予定のある(または使用されている)労働者 |
---|---|
2.労働時間 | ・1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の3/4以上の労働者 |
つまり1年以上の長期雇用を行なって(予定して)おり、かつ労働時間が(対正社員比で)4分の3以上も働いているアルバイトに対しては、健康診断を実施する義務が発生します。
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ただし、「特定業務」または「有害業務を行う労働者」などの場合は、上記以外も健康診断の受診が必要となるケースもあります。詳しく見ていきましょう。
アルバイトでも健康診断が必要か見極めるときの2つのポイント
アルバイトでも健康診断を実施する必要があるのか見極めるときは、以下2つのポイントをチェックしましょう。
- 特定労働または有害業務を行う労働者か
- 労働時間が一定基準を超えるか
1つずつ詳しく解説します。
【ポイント1】仕事内容が深夜業など特殊な業務になっていないか
さきほど、健康診断の受診の条件の中で「契約期間が1年以上」とご説明しました。
しかし、特定業務(深夜業や重量物を取り扱う業務など)の場合は、6か月に1回は定期健康診断の実施が義務づけられている点にも注意しましょう。
ちなみに特定業務とは、「労働安全衛生規則第13条第1項第2号」で定められている以下の業務のこと。
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
労働安全衛生規則第13条第1項第2号
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲(びよう)打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務
また一般健康診断ではなく、有害業務に従事する場合に必要となる「特殊健康診断」の場合も話が変わってきます。
有害業務とは、「労働安全衛生法施行令 第22条第1項」で定められている以下のような業務のこと。
- 有機溶剤業務
- 特定化学物質の取り扱いなどの業務
- 放射線業務
- 石綿などの取り扱い等の業務 など
特殊健康診断の場合は、アルバイトであっても雇入れ時の健康診断が必須となる点に注意しましょう。
まとめると、
- アルバイトが「特定業務」を行う場合は、6ヶ月に1度の健康診断が必要
- 有害業務の場合は、契約形態や使用期間にかかわらず「特殊健康診断」の受診が必要
他にも、アルバイトで健康診断が必要か判断しにくいケースがあります。詳しく見ていきましょう。
【ポイント2】シフト制となっており、労働時間が多い月がないか
さきほどまとめた条件を、もう一度見てみましょう。
1.契約期間 | ・無期契約労働者 ・有期契約で契約期間が1年以上の労働者 ・有期契約の更新により1年以上使用される予定のある(または使用されている)労働者 |
---|---|
2.労働時間 | ・1週間の労働時間が、通常の労働者の所定労働時間の3/4以上の労働者 |
「通常の労働者の所定労働時間の3/4以上」が条件となっているため、雇入れ時はシフトが少なく条件に合致しないケースもあるでしょう。
しかし業務の慣れや繁忙期などが重なり、シフトが増えて「通常の労働者の所定労働時間の3/4以上」となってしまうことも。健康診断受診の条件となってしまうため、アルバイトに健康診断を受診させる義務が発生します。
もしかすると、「今月しか『通常の労働者の所定労働時間の3/4以上』を超えてないけど、それでも健康診断の受診が必要なの?」と思った方もいるかもしれませんね。
また、「実際に超えてしまった月はあるけど、すぐに受診させるべき?遅れると法的リスクはあるの?」と思った方もいるのではないでしょうか。このような場合は、労基署に相談するのが確実です。
間違っても自社判断で先延ばしなどにはしないよう、注意しましょう。
ここまで、「アルバイトでも、健康診断を受診させる必要はあるのか?」といった疑問についてお答えしました。アルバイトでも、
- 1年以上の長期契約かつ労働時間が長い(通常の労働者の3/4以上)
- 特定業務・有害業務を行う
といった場合は健康診断を実施する必要があります。
一方でアルバイトにも健康診断を実施すると、
「健康診断の実施日に出勤しない人をどうするべきか」
「アルバイトが健康診断の受診拒否をしたらどう対応すべきか」
など、疑問点もでてきます。
そこで次に、「アルバイトに健康診断を受診させる時によくある5つの質問」について回答します。
アルバイトに健康診断を受けさせるときよくある5つの質問
アルバイトに健康診断を受けさせる時、よくある質問は以下の5つです。
- 健康診断を実施する日に出勤しない人はどうするべきか
- 受診を拒否されたらどう対応するべきか
- 健康診断の費用は会社で負担すべきなのか
- アルバイトの健康診断について就業規則に記載しておくべきか
- 健康診断の業務を効率化できないか
1つずつ詳しく見ていきましょう。
【質問1】定期健康診断の実施日にいない人はどうすればいい?
健康診断を実施するときにアルバイトが出勤しないケースもあります。この場合は健康診断を実施する日を事前に伝えて、受診してもらうよう促しましょう。また複数の受診日を設定するのも有効です。
一定の条件を満たしたアルバイトは健康診断を受診させる義務が発生するため、会社側はアルバイトが健康診断を受診しやすいようにシフトを調整するなどの配慮が必要です。もし健康診断の日が出勤日でなくても、健康診断を受けるよう促しましょう。
また事前に健診の実施日を複数設定すれば、出勤したタイミングで健康診断を受けやすくなります。どうしても健康診断を受診できない場合は、産業医に相談して対応を検討しましょう。
しかし中には「健康診断の受診を拒否する」と主張するアルバイトもいるかもしれません。このような場合にどうするべきか、詳しく解説します。
【質問2】アルバイトに健康診断の受診を拒否された場合は、どうすればいい?
健康診断の受診を拒否する理由は、「めんどくさい」といった理由だけとは限りません。もしアルバイトが健康診断の受診を拒否した場合は、まずは産業医と相談したうえで、従業員に対してヒアリングを実施しましょう。
一定の条件を満たしたアルバイトは、健康診断を実施する義務が企業側に発生します。しかし、健康診断の受診拒否を理由に解雇や懲戒処分などをしてしまうと、トラブルになる可能性もあります。
アルバイトが健康診断の受診を拒否した場合は、以下の手順で対応することをおすすめします。
【健康診断を拒否された場合の対応手順】
- 産業医に相談し、判断を仰ぐ
- 従業員に対してヒアリングを実施
- 産業医の判断で健康診断の受診不要となった場合は、内容を記録を残して終了
- ただし受診が必要と判断した場合は、労基署に相談するべき
- 労基署からの回答を参考に対処しつつ、回答を記録に残して終了
一方で「アルバイトを採用してたくさん働いてもらいたいけど、健康診断の費用は負担すべきもの?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。どこまで会社側が費用負担すべきか、見てみましょう。
【質問3】アルバイトの健康診断にかかる費用は、会社で負担すべき?
アルバイトに対して健康診断の実施義務が発生した場合、通常の従業員と同じように「雇入れ時の健康診断」や「定期健康診断」を受診させるべきです。ただし「雇入れ時の健康診断」については従業員の個人負担とすることもできます。
とはいえ健康診断は法律で実施が義務付けられていることなので、「領収書をもらって健診料金を後払い」にするなど、会社負担にすることをおすすめします。
一方で「アルバイトへの健康診断について、就業規則に記載しよう」と検討している人もいるでしょう。就業規則を変更する場合の手順について、詳しく見ていきましょう。
【質問4】アルバイトへの健康診断については、どのように就業規則に載せておくべき?
アルバイトの健康診断についてのルールを就業規則に記載する場合は、以下の手順を踏みましょう。
- 安全衛生委員会で労使間で協議する
- 協議内容を議事録にまとめる
- 就業規則に落とし込む
- 労働基準監督署へ届け出る
企業側の判断で、就業規則をいきなり変更することはできません。労使間で必ず協議する必要があるので、安全衛生委員会を開き内容を決める必要があります。
また、労基署から「労使間でどのように協議したのか」と質問された場合に根拠を示せるよう、議事録を残しておきましょう。そして就業規則に落とし込み、労基署に提出すれば完了です。
なお、就業規則では「以下の条件に合致しない場合は健康診断を省略する」など、健康診断の実施条件を明確にすることをおすすめします。
1.契約期間 | ・無期契約労働者 ・有期契約で契約期間が1年以上の労働者 ・有期契約の更新により1年以上使用される予定のある(または使用されている)労働者 |
---|---|
2.労働時間 | ・1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の3/4以上の労働者 |
一方でアルバイトへの健康診断実施を進めるにあたり不安になるのが、人的コストの増大です。健康診断は「健診クリニックに予約して終わり」というものではなく、さまざまな業務が発生するもの。
具体的にどのような仕事が発生するのか、また健康診断業務を効率化する方法はあるのか解説します。
【質問5】健康診断の業務を効率化する方法はないの?
健康診断は予約して受診するだけでなく、以下のような業務があります。

これらの業務に対応するため、費用はもちろん人的コストも発生します。さらに健康診断の業務は、従業員の人数が増えると対応が複雑になるもの。
たとえば「有所見」と診断された従業員が発生した場合、
- どの部署の誰が有所見になったのか
- どこに連絡するべきか
- 就業判定に問題はないか
といった問題が発生します。
もし数100人以上の従業員に対して健康診断を実施する場合、誰が有所見でどのような対応を行うべきか、対応に時間がかかりますよね。さらに健康診断業務が紙ベースの場合、個々の情報を確認して連絡、対応の進捗管理をするだけでも一苦労です。
また事後措置を怠ったり事後措置の実施を証明したりできないと、労基署の臨検で是正勧告されるリスクもあります。具体的に必要となる事後措置については、以下をご一読ください。
このように、健康診断は正確かつ定められた期限内に実施しないといけないものです。業務を圧迫しないためにも、業務効率化が重要となります。
健康診断を効率化するには、
- 健康診断予約のシステム化
- 健康診断業務のペーパーレス化
が有効です。具体的にどのようなメリットがあるのか紹介します。
■「健診WEB予約システムの利用」で効率化できる健康診断業務の例
- 従業員が医療機関にWEBで直接予約できるので日程調整・問い合わせ対応時間の削減
- 受診勧奨や受診報告のチェックが、自動的に受診完了で受診率向上
- 残業時間、ストレスチェック、産業医面談の記録をシステムで一元管理
■ペーパーレス化で効率化できる健康診断業務の例
- 結果がデータで届くため、自動的に個人票の作成を保管
- 結果を1枚ずつ確認しなくても、自動で有所見者の抽出や労基署報告書の集計
- 履歴を確認しやすくなり、産業医面談の準備を効率化
一方で「健康診断業務をペーパーレス化したいが、どのように実現すればよいのか分からない」という方は、こちらをご一読ください。
まとめ:健康診断の受診義務について理解することが重要
今回はアルバイトにも健康診断を受診させる必要があるのか解説しました。最後に重要なポイントをまとめます。
- アルバイトにも健康診断を受診させる必要があるケースは2つ
- 1年以上使用され(る予定があり)、かつ通常労働者の所定労働時間に対して3/4以上の時間働いている場合
- 特定労働もしくは有害業務に従事する場合
- アルバイトへの健康診断でよくある質問への回答
- 定期健康診断を受診するよう促し、かつ診察日を複数設けて受診しやすい環境を整える
- 健康診断の受診を拒否された場合は、産業医と相談のうえでアルバイトに対してヒアリングを行う
- アルバイトの健康診断費用は会社負担となる
- アルバイトへの健康診断について就業規則に追加する場合は、安全衛生委員会を開催し、議事録を残しておく
- 健康診断業務の効率化は「健診代行」の活用や「業務のペーパーレス化」がおすすめ
業務内容や労働時間、契約期間によってはアルバイトでも健康診断を受診させる必要があります。仮に条件に一致しているにもかかわらず健康診断を受診させていないと、労基署から指摘を受けるリスク(行政処分など)があります。
加えて健康診断業務は「健診クリニックに予約を取って終わり」というものではなく、以下の業務が発生するもの。

法律で定められた期間内に健康診断を執り行うには、業務効率化が重要です。ミス・漏れなく、かつ効率的に健康診断業務を遂行する方法について、以下資料にて解説しています。ご興味ある方はぜひご確認ください。