専属産業医って何だろう? 普通の産業医とは何が違うの?

2019.9.20 更新 / 2019.9.20 公開
産業医とスムーズな連絡・共有
専属産業医と普通の産業医の違いとは?

お医者さんにはいろいろな専門があるように、産業医も一種類だけではありません。同じように「産業医」と呼ばれているのに何がどのように違うのでしょう。ちょっと気になるので調べてみました。

産業医とは

企業と契約して、事業場で労働者の心身の健康管理を行ったり労働者の健康管理などに関して、専門的な立場から指導・助言を行ったりする医師を産業医と言います。産業医は労働者の健康管理に関することや、労働者の健康を確保する為に必要がある場合の事業主への勧告や、事業場の巡視などを行います。

労働安全衛生法第13条に産業医に関する規定があるのですが、常時使用する労働者が50人以上のすべての事業場には産業医の選任義務を、常時使用する労働者が1,000人以上の事業場と有害な業務に常時500人以上の労働者を使用する事業場には専属の産業医の選任義務があります。産業医についての詳細は別記事の「産業医の安全衛生委員会で役割とは? その場にいればOK?」でご確認いただきたいと思いますが、産業医は大きく二つに分けることができます。それが「専属」と「専任」です。今回のお話しとは直接的には関係ないのですが、労働安全衛生上は全く違うものですので、参考までに確認しておきたいと思います。

専属とは

その事業場のみに属している産業医が専属産業医です。ですから、専属産業医が産業医以外の職務で活躍しても法的に問題はありません。というのは、「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて(PDF)」(基発第214号。平成9年3月31日)では、専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することも産業保健活動をそれら事業場で一体として行うことが効率的であること、例えば元請け事業場にいる専属産業医が下請事業場の産業保健活動について、指導などをした方が効率的で効果的な場合ななどの一定の要件の下に認められています。

  1. 地理的に密接している
  2. 業態が似ている
  3. 2つの事業場で連絡体制にある
  4. 通常業務に支障をきたさない
  5. 対象人数が3,000人を超えない

そして、「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務する場合の事業場間の地理的関係について(PDF)」(基安労 発1225第1号平成25年12月25日)では、それまで「地理的に密接している」というあいまいな表現をされていた部分が、「当該二つの事業場間を徒歩又は公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、1時間以内で移動できる場合」と客観的に分かりやすいものにされました。

専任とは

専任というのは、その産業医がその職務のみを行っているということです。ちなみに、日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について(PDF)」によると、他の事業場の産業医に専任(外部機関)している医師がアンケート結果のわずか1%しかいなかったようです。調査によって多少の違いがあるのかもしれませんが、やはり嘱託産業医の数には及ばないのではないでしょうか。

産業医の種類

産業医にもいくつかの種類があります。

嘱託産業医

嘱託産業医は、常時使用する労働者が50人以上999人未満の事業場で活動をします。

産業医と言われて、多くの方が想像するのはおそらく嘱託産業医のことだと思います。というのは、日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について(PDF)」の発表によると、産業医のうち診療・管理などの他業務も兼任している兼務産業医が2割強、本業の傍ら他の事業場の産業医を兼務している嘱託産業医が8割弱もいますので、多くの場合、産業医は嘱託産業医として活動している実態があるからです。

兼務産業医

診療・管理などの他業務も兼任している産業医です。法人や事業場の代表者※自らが、当該事業場の産業医を兼務している場合には、事業経営上の利益が労働者の健康管理よりも優先されやすい傾向にあるため産業医としての職務が適切に遂行されないおそれがあり、適切性に欠けるとして厚生労働省から「産業医の選任の改善について」という改善を求める手紙が出されています。(基安発1030第2号。平成27年10月30日)

専属産業医

常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医が活動しています。

ここで、日本の安全衛生体制についての表をご覧いただきたいと思います。

労働者の数に対して求められる産業医の数

法律上、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場には産業医を選任しなければいけないことになっています。その上で、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場には専属の産業医を置かなければならないことになっています。

よく勘違いされるのですが、「専属の産業医」の人数と「選任する産業医」の人数は違います。
産業医の選任義務があるのは常時50人以上の労働者を使用する事業場ですが、専属産業医が必要なのは常時1,000人以上の労働者を使用する事業場です。そして、例えば常時3,000人を超える労働者を使用する事業場の場合には2人以上の産業医を選任しなければならないのですが、そのうちの1人は専属産業医、有害業務に常時500人以上の労働者を使用する事業場も同じく1人は専属産業医にしなければなりません。文章だとややこしく感じるかもしれませんが、表で考えると非常にシンプルで分かりやすいと思います。

専属産業医と嘱託産業医の違い

専属の産業医と一般的な産業医での一番の違いは企業との契約内容です。専属産業医は基本的にはその事業場でのみ活動しますが、一般的な産業医は嘱託としての契約を企業と結んで活動しますが、他の事業場とも嘱託産業医としての契約を結んでいることが多々あります。

どちらも産業医であることに違いはないので、業務内容に大きな違いはありません。

専属産業医の業務

専属産業医はその事業場にのみ属して事業場の労働者のために、専門的な知識を使って活動をします。

あ) 健康診断と労働者への面接指導などの実施・結果に基づいて労働者の健康を保持するための措置
い) 労働者の作業環境の維持管理
う) 労働者の作業の管理
え) 労働者の健康管理
お) 労働者の健康教育や健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置
か) 労働者の衛生教育
き) 労働者の健康障害の原因の調査とその再発防止のための措置
く) 事業主への勧告
・労働者の健康を確保するために必要がある場合には、事業者に対して労働者の健康管理などについての必要な勧告
・労働者の健康障害の防止に関して必要がある場合には、総括安全衛生管理者に対する勧告または衛生管理者に対する指導と助言
け) 毎月1回(条件を満たせば2カ月に1回でも大丈夫です。)事業場を巡視して労働者の作業方法や安全衛生状態に問題がある場合には健康障害を防止する為に必要な措置を講じる義務があります。

最近では、精神科医と連携して職場でのメンタルヘルスケアに当たるなども専属産業医の業務として求められるようになってきました。厚生労働省が発表した「産業医と精神科医との連携による職域のメンタルヘルスケア」によると、精神科医のいる企業であったとしても、労働者が心に不調を感じた場合には外部の診療所や精神科を受診するケースが多いそうです。これらのことから、専属産業医を含め企業内の産業保健スタッフは労働者のメンタル不調にも対応することが求められていることが分かります。特に専属産業医が企業に常駐している場合には、専属産業医も産業保健スタッフの一人としてメンタル不調へのケアにも関わってもらえるようにしたいところです。もし、精神科医が産業医としている場合には事業場内の他の産業医(特に専属産業医)がメンタル不調に関して学ぶ機会を得られるように配慮してもらいましょう。実践的な教育や指導を受けることで、専属産業医による労働者へのケアもより充実していくと思います。

日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について」ではアンケートに答えた回答者(4,153人)のうち約44%の人が専門の診療科を内科と答えています。このことからも数少ない専属産業医の中に精神科を専門とする人がより少ないことは推認できます。労働者が自宅周辺でメンタル不調に関して受診した場合には難しいかもしれませんが、会社近くの精神科や心療内科などの診療機関と連携して労働者のケアに当たってもらえるようにしましょう。

専属産業医にはかかりつけ医との連携を期待

一般的に企業側が労働者のメンタル不調を知るのは、労働者が診断書を提出したタイミングであることがほとんどです。ですから、労働者に承諾をとった上で通院している精神科や心療内科に実際に連絡をとって診療情報や職場での情報を交換して職場での対応などについて専属産業医を通じて相談することをお勧めします。その労働者が職場で出来るセルフケア、周りの配慮が必要なこと、職場の環境で何か改善すべき点があるかどうかなどを確認していただきたいのですが、専属産業医が活動する中で必要な診療機関との連携は必要ですので、企業としても診療機関との連携がとりやすい体制を作るようにしてください。また、診療機関とも相談した上で、特に管理監督者に対して、該当労働者に対して配慮が必要な事象に関する教育や研修を行うことも治療上の必要性があれば行ってもらってください。

専属産業医は通常は事業場に常勤していて、常勤しているからこそできる活動があります。それが、今お話ししたようなメンタル不調者に対する職場での日常的なケアの指導者的な役割です。専属産業医には労働者の掛かり付けの診療機関と連携して職場での日常のケアをしていただければと思います。

一般的な嘱託産業医の場合、事業場への来訪頻度も低いこともあり労働者の日常的なメンタルヘルスケアに関わる時間はほとんどない状況です。もちろん嘱託産業医が事業場に来訪した時に相談するという選択肢もあるとは思いますが、やはり日常的にその事業場に常勤している専属産業医ほどは労働者に関わる時間はありません。労働者のメンタル不調に周りの人が気付いた時のために産業保健スタッフや専属産業医に伝えるためのスキームは社内に確立しておいてください。早めに労働者の不調を知ることで、専属産業医は労働者に必要な医療機関を紹介することができます。

事業場内での突発的なケガや病気などに関しては産業医活動の妨げにならない範囲で専属産業医としてではなく「医師」として患者を診ることもありますが、基本的には専属産業医と治療医は別とお考え下さい。実際の診察や治療にあたる外部の医師と連携して情報共有をしてもらうことで、必要に応じて治療医に対して専属産業医としての意見も出してもらってください。

治療医はその労働者の日常の業務や職場の環境などは分かりませんし、基本的には患者さんの意思に沿った治療をしてくれます。嘱託産業医、専業産業医の別に関わらず産業医はその労働者が職務に耐えられるかどうかで復職や休職の判断をするように、医師の立場によって必要となる情報が違いますので個人情報の取扱いに関しても労働者・専属産業医の双方と必要な取り決めを事前にしておくことをお勧めします。

専属産業医を探す難しさ

法律上、産業医を選任し、さらに専属産業医を決めなければならない状況になった時に、なかなか専属産業医が見つからないというケースが多いと聞きます。専属産業医が少ないことは日本医師会の「産業医活動に対するアンケート調査の結果について」で、他の事業場の産業医に専任(外部機関)している医師がアンケート結果のわずか1%しかいなかったことからも推測できます。

ストレスチェックやメンタルヘルス対策が注目されてきた中で、産業医の存在が今まで以上に大きくなってきました。産業医はこれまで以上にメンタルヘルス不調者への対応をしているケースもあるようです。長時間労働や過重労働がメンタル不調の原因になることもあり、それが労働災害につながることもあります。事業場の規模や業務内容で区別するわけではありませんが、規模の大きな事業場や有害作業に当たる労働者などについては、特に一人一人の健康状態に注意しなければならない部分もあります。

専門の斡旋機関の活用も視野に

地域性もあるとは思いますが、もし、どうしても専属産業医になってくれる医師が見つからなかった場合には、管轄の労働基準監督署に相談したり外部の産業医の斡旋機関などを活用したりするなどしましょう。厚生労働省からは、産業医が見つからない場合には健康診断を実施している機関に産業医の資格を有した医師がいる場合に他の事業場での産業医活動が可能な場合があるので相談すること、親会社などに産業医がいる場合は、その方を産業医に選任できるか相談してみることが提案されています。専属産業医がすぐに見つからなくてもまずは指導がされて、即罰則の適用には通常はなりません。そうは言っても、産業医を探す努力は猶予期間に勘案されても免除になるわけではありませんし、状況次第では50万円以下の罰金が課されます。ですから、専門の斡旋機関などの活用も視野に入れて必要な人数の産業医を揃えるようにしてください。専属産業医を探す方法としては、専門の斡旋機関に相談すること以外にも、産業医科大学などに相談する、メンタルヘルス研修などに出席している医師に紹介を依頼する、産業医認定研修(産業医、未認定産業医などが参加します。)の主催団体などに問い合わせるなどあらゆる手段を使ってみてください。この産業医認定研修は日本医師会から指定を受けた、産業医制度に係る研修会として中央労働災害防止協会などが行っているようです。

専属産業医がいない状態で、長時間労働や過重労働などに起因する労働災害が生じた時のリスクを考えてみると、企業としての安全配慮義務を果たしていないと判断される恐れがあります。

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法

企業がこの義務を果たしていない状態で事故や労働者に損害を負ったりしてしまうと、企業は労働者に対して損害賠償責任を負うことにもなりますし、企業イメージの低下も避けられない状況になってしまいます。

専属産業医の選任の報告

専属産業医が決まったら、産業医選任報告で行政への報告をします。所定の様式(様式第3号。第2、4、7、13条関係)を厚生労働省の安全衛生関係主要様式からダウンロードして印刷して使用するか、電子申告で行います。この所定の書式の中央右寄りに産業医の専属の別がありますので、専属を意味する「1」を記入してください。一般の嘱託産業医の場合、この部分は非専属を意味する「2」を記入します。産業医の選任報告の書類の書き方は京都労働局・労働基準監督署の事業場における安全衛生管理体制のあらまし(PDF)にとても分かりやすくまとめられていましたので、参考にされると良いですね。

産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、所定の様式で遅滞なく所轄の労働基準監督署へ報告することになっていますので、どうしても産業医が見つからない場合には早めに所轄の労働基準監督署に相談してください。

さいごに

専属産業医も基本的には嘱託産業医と同じような業務を担います。ただし、事業場に常勤しているという特性を活かして、より労働者のメンタルヘルスケアへの踏み込んだ対応を期待できるのではないでしょうか。

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